亡くなったあの子は今どこで?『天国での暮らしはどうですか』中山有香里さんが描く、ユーモアと優しさあふれる天国の世界

作者もまた「見送った側」だからこそ…大切な人を思い出すことで生まれた物語
――「天国」というテーマを描こうと思ったきっかけを教えてください。
中山有香里さん:私が最初に「死」と向き合ったのは、15年一緒に過ごした愛犬を亡くしたときでした。亡くなったのは平日の朝で、母が泣き叫ぶ姿を少し遠くから見ていたことだけを覚えています。気づけば私は、いつも通り学校で授業を受けていて…。両親が火葬に立ち会ったので、私の中では「なんだかよくわからないけれど、もう愛犬はいない」という事実だけが残りました。涙が出なかったのは、実感できていなかったからだと思います。
その後も祖父母や友人、看護師として関わった患者さんなど、大切な人との別れを多く経験しましたが、不思議と涙は出なくて。淡々とお別れの準備をする自分を見て、「私は冷たい人間なのかもしれない」と感じていました。そんな中で、『疲れた人に夜食を届ける出前店』という漫画を描いたんです。そこでは死神が、一人残されたおじいさんに「(亡くなった)おばあさんは今ごろ苺フェアを楽しんでいるよ」と声をかける場面がありました。
――その作品が、『天国での暮らしはどうですか』につながったのですね。
中山有香里さん:はい。その漫画に多くの反響をいただいて、「亡くなった母も、そんなふうに過ごしていると思えたら少し救われました」といったコメントが寄せられました。その声が原点になったと思います。
亡くなった先があるかどうかも、どんな世界なのかも残された側にはわからないけれど、想像することはできますよね。私の想像が誰かの助けになれば…と思っています。そして、どうせ想像するなら楽しい方がいい。残された人がほんの少しでも前を向けるように。無理に泣き止んで立ち直る必要はないけれど、とことん悲しんだあとで、その人のペースで少しずつ受け止めていければ…そう願っています。
――天国を描いているとき、中山さんご自身はどんな気持ちになるのでしょう?
中山有香里さん:天国を描きながら、これまで出会った人やペットのことを思い出して、私自身も涙が出そうになるんです。ペンを動かしながら心の中で「元気でいてね」と想いを馳せていると、「やっと私も少しずつ飲み込めたのかもしれない」と思えるようになりました。作者である前に、私もまた“見送った側”の一人ですから。
想像の中だからこそ!自由であたたかい“私の天国”の作り方


――人それぞれ「天国」のイメージって違いますよね。中山さんが描く天国は、ふんわりあたたかくて、ちょっとクスッと笑ってしまうような世界観。「生まれ変わり課」があって、まるで役所みたいにシステム化されていたり…そんなユニークさが大好きです。この独特の“天国観”は、どうやって生まれたのでしょうか?
中山有香里さん:先ほどもお話ししたように、亡くなった先のことなんて、誰にもわからない。だったらせめて、想像のなかくらいは楽しい世界にしたいなと思っているんです。だから私の天国は、もはや「なんでもアリ」の自由な世界(笑)。天国から“外界池”を覗いて、残された人を見守っていたり。気ままに遊んで過ごしたり。生まれ変わり課で次の人生を選んだり。はたまた“夢枕チャレンジ”なんてのもあって、当たりを引けたら夢に出てこられるかもしれない。夢に出てこないのは、ただ外れちゃっただけかもしれませんね(笑)。
私にとって天国は、できるだけ自由で、あたたかくて、ユーモアのある世界であってほしいんです。ちなみに、うちの愛犬は走るのが大好きだったので、今ごろ天国でも犬仲間と一緒に全力疾走しているんじゃないかなって思います。



――天国や死生観を描くとなると、デリケートな部分もありますよね。作品づくりで気をつけていることや、大切にしていることはありますか?
中山有香里さん:はい。まず、病名は出さないようにしています。それから、死や別れにはどうしても苦しみや葛藤が伴いますが、この漫画では「つらさの中にも救いがある」ことを大事に描いています。残された人が「自分のせいだ」と責めないで済むように、言葉選びにもとても気を配っていますね。色使いも淡く、やさしい雰囲気になるように意識しています。
***
どんなに悲しい別れであっても、想像の力で少しだけ心をあたためることができる──中山さんの描く天国は、そんなやさしさに満ちています。読後には、きっと「天国って、こんなふうにあたたかく自由な世界かもしれない」と、ほっとした気持ちになれるはずです。
著者プロフィール
中山有香里(なかやまゆかり)…奈良県在住の看護師・イラストレーター。2022年に『泣きたい夜の甘味処』で、2023年に『疲れた人に夜食を届ける出前店』(共にKADOKAWA)で料理レシピ本大賞 in J apan コミック賞を受賞。著書に『ズルいくらいに1年目を乗り切る看護技術』シリーズ(メディカ出版)、『魔女のあとおし』(幻冬舎)、『がんばれなくてもなんとか作りたい1年のいたわりごはん日記』(ワン・パブリッシング)がある。
取材・文=宇都宮薫
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