SNSでたびたび話題になる「放置子」問題。その対応に正解はある? 話題作を発表した心理カウンセラーに聞く

他人の家に約束もなくやってきて無断で上がり込んだり、冷蔵庫を勝手に開けたり。あるいは他の子にしつこく絡んだり、モノを欲しがって人にせびったり…。そんな子どもの問題行動を迷惑に思う人の声もあれば、一方でネグレクトや虐待など子どもの家庭環境を心配する声もあります。
こうした子どもたちは「放置子」と呼ばれていますが、この社会問題を描いて読者の共感を呼んでいるのが、コミック作品『放置子の面倒を見るのは誰ですか?』です。作者は現役の心理カウンセラーと漫画家の二足のわらじで活躍する白目みさえさん。ご自身もふたりの子どもを育てる中で悩んだ経験から生まれた作品だそうです。
この作品のあらすじを紹介し、白目さんにお話をうかがっていきます。
『放置子の面倒を見るのは誰ですか?』あらすじ
岡村しずかはふたりの娘を持つ母親。長女・莉華の入学説明会の時に、同級生の「りっちゃん」こと金井りつの行動が気にかかりました。保護者の同伴なしで一人で来ていること、母親がいなくて父と祖母と暮らしていることを知ります。


入学後のある日、遅刻したりっちゃんを見かけ心配したしずかが車で送っていったところ、次も車に乗せてもらおうと期待する発言もありました。しずかはちゃんと線引きしなければと思い、「もうしない」とはっきり告げます。

その後も、りっちゃんは莉華のランドセルをひっぱったり、キツいことを言ったり、ハンカチをせびったり、約束をしていないのに「莉華と約束した」といって休日に遊びにきたり…といった問題行動をしていました。

授業参観にもりっちゃんの保護者の姿はなく、持ち物が汚れていることや夜遅くまでひとりで出歩いている様子などから、しずかはりっちゃんの家庭環境を心配します。しかし一方で彼女の問題行動の数々にもいら立ち、しずかはりっちゃんのことを無視するようになりました。

「何かしてあげるべきだろうか」という気持ちと、「自分の娘を守りたい」という気持ちの間で揺れ動くしずかでしたが、りっちゃんの問題行動は次第にエスカレートして…。
著者・白目みさえさんインタビュー


――「放置子」と呼ばれている子どもについて、SNS上では「一度関わると後が大変だから関わらないほうがいい」とアドバイスする方もいれば、「地域や社会で助けてあげるべき」という方もいます。さまざまな立場があり難しい問題ですが、心理カウンセラーの立場としてはどのような対応を提案されることが多いですか?
白目さん:放置子とされる子どもたちの中には、他人の善意や厚意の“境界線”がわからない子もいます。愛情に飢えていて、「お腹いっぱいになる」という感覚が分からず、満たされるまでどこまでも求めてしまうような姿が見られることもあります。優しくされれば、それをずっと求め続ける、そういう意味では「一度関わると大変になる」というのも、決して間違いではありません。
一方で、その子にとってもっとも傷つくのは、「優しくされたあとに突き放されること」だということも知っておいてほしいと思います。「面倒を見るならずっと見ろ、それができないなら最初から手を出すな」という意見も、決して極端なものではありません。その線引きは本当に難しく、専門家でも迷うことがあります。一時の感情で安易に関わってしまって、かえって傷つけてしまうこともあるからです。
だからこそ、「気になる子がいる」と感じたときに、無理せず専門家に相談する、適切な支援につなげる――そういったかかわり方でも十分に意味があると思っています。「地域や社会で守るべき」という意見も大切ですが、それは必ずしも“すべてを自分で抱える”ということではありません。自分の生活やキャパシティをこえてまで無理をする必要はありませんし、「相談する」という形でバトンをつなぐことも、立派な関わり方だと私は考えています。

――この作品でも、主人公がひとりが抱え込むのではなく、学校を通じて支援につなげることで物語は良い方向へ向かいますね。心理カウンセラーとしての仕事の体験や知識の中で、この作品に反映されているもの、生かされているものはありますか?
白目さん:「きれいなことだけを言わないこと」かなと思います。今はSNSなどで、「本音のようなもの」が簡単に目に入ってきます。でも実際は、それがその人の本心かどうかはわからないし、「こう言うのが正しい」「こう感じるべき」といった空気に合わせた、“本音風”の言葉も多いと感じています。そうした正論や理想が目に入る中で、自分の中にふと浮かんだ「いけない気持ち」にすら罪悪感を抱いてしまう人が本当に増えていると感じます。
今回のテーマは「放置子」でしたが、たとえば「あの子ちょっと苦手」「かわいそうだけど関わりたくない」といった気持ちも、私はそれでいいと思っています。心に浮かぶ感情は、それが行動に直結するわけでもないし、本来、誰からもとがめられるものではないはずです。
カウンセリングの現場では、むしろそういった“加工されていないままの感情”を出してもらうことを大切にしています。優しく整えられた言葉や、“こう言った方がいいだろうな”という気遣いはいったん置いて、どんなに汚くて矛盾していても「本当にそこにあるもの」を話してもらうことで、ようやく見えてくる気持ちがあります。
SNSでの空気とは真逆であるそういう言葉こそ大事にしたいと思いますし、この作品でも、読者が「そんなふうに感じる自分もいていいんだ」と思ってもらえたら嬉しいです。

――この作品を通じて読者に届けたい思いがあればお聞かせください。
白目さん:この作品を通して伝えたかったのは、「感じた気持ちに正解や不正解はない」ということです。困っている子を見て「助けてあげたい」と思うこともあれば、「なんだか苦手」「できれば関わりたくない」と思うこともある。どちらも自然な反応で、どちらか一方だけが“正しい”わけではありません。
今はSNSなどで言い方の厳しい批判や正論がすぐに流れてきて「そう思えない自分は冷たいのでは」「おかしいのでは」と悩んでしまう人も少なくありません。でも本当は、矛盾した気持ちや整理できない感情こそが、人間らしさだと思っています。無理に背負いこまなくてもいい。しんどいときは専門家に相談してもいい。そんなふうに、読んでくださった方が少しでも肩の力を抜けるきっかけになれば嬉しいです。
* * *
SNS上では様々な意見が飛び交う「放置子」問題について、白目さんは心理カウンセラーの立場から「正解や不正解はない」と語ります。作品の中でも、「自分がどうにかしてあげなきゃいけないのだろうか」「だけど自分の子を守りたいから関わりたくない」と思い悩む主人公に、「自分がなんとかしなきゃって思いは捨てていい」「そこまで背負わなくてもいいんだよ」と寄り添います。
もし自分が当事者になったとき、どう対応したらよいのか――。それを、この作品を通して考えてみませんか?
取材・文=レタスユキ
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