虐待やネグレクトの連鎖を止めたい。心理カウンセラーとしても活躍する漫画家が「放置子」をテーマに描いた新作

 『放置子の面倒を見るのは誰ですか?』より

現役心理カウンセラーとして働きながら、漫画家としても活躍する白目みさえさん。ふたりの娘を育てる日々を描いた育児エッセイ『日々白目むいてます』『子育てしたら白目になりました』や、心理士としての仕事の裏側を描いた『白目むきながら心理カウンセラーやってます』などのコミックエッセイを発表してきました。

そんな白目さんが今年5月に発表したのが『放置子の面倒を見るのは誰ですか?』。娘の同級生の問題行動に振り回される母親の葛藤を描いた創作コミックです。いわゆる「放置子」と思われる娘の同級生を気にかけながらも、娘がその子からいやがらせを受けることにいら立ちをつのらせていく様子を描いています。

この作品のあらすじをご紹介して、白目さんにお話を伺っていきます。

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『放置子の面倒を見るのは誰ですか?』あらすじ


『放置子の面倒を見るのは誰ですか?』より

娘の小学校の同級生・りつを、親切心から車で学校まで送ってあげたしずか。しかし、りつは礼を言うわけでもなく、今後も車で送ってもらうことを期待するような発言をします。しずかは線引きをしなければと思いきっぱり断りますが、それ以降学校で娘がりつからいやがらせを受けるようになってしまいました。

『放置子の面倒を見るのは誰ですか?』より

りつが夜遅くまで外出していることを聞いたり、約束していないのに休日に遊びに来て家に上がろうとしたり、持ち物が汚れている様子などを見たしずかは、彼女を不憫に思います。しかし、りつから娘への攻撃はエスカレートし、ついに蹴られて負傷するトラブルが起こってしまいました。

『放置子の面倒を見るのは誰ですか?』より

担任に相談してもどこか頼りなく、困り果てたしずか。そんなある日、臨床心理士として働いている学生時代の友人に会って相談することで、解決の糸口を見つけます…。


著者・白目みさえさんインタビュー


――白目さんは漫画家として活躍すると同時に、臨床心理士・公認心理師の資格をお持ちで心理カウンセラーとしてもお仕事をされていらっしゃいますね。日頃はどんなお仕事をされているのでしょうか。

白目さん:以前は、スクールカウンセラーや子ども・家庭の相談機関、児童も対象とする医療機関などで働いていましたが、現在は成人を中心とした精神科で心理カウンセラーとして勤務しています。主に心理検査やカウンセリングを担当しながら、SST(社会生活技能訓練)や精神科デイケアの運営にも関わっています。

支援が届かないまま大人になってしまった結果、苦しみを抱えたまま次の世代に影響を与えてしまう…そんな連鎖を止めるためにも、今は保護者への支援や子育て相談にも力を入れています。

『放置子の面倒を見るのは誰ですか?』より

――今回発表された作品のような「放置子」の問題に、心理カウンセラーとして直接関わったことはあるのでしょうか?

白目さん:現在は子どもを対象にした支援がメインの仕事ではありませんが、精神疾患を抱える成人の方への支援を中心に、子育てに関するご相談をお受けすることもあります。なかには、子育てに不安を抱えている方や、支援が必要な子どもと関わる中で悩んでいる保護者の方が来られることもあります。

また、私が関わっている成人の方の中には、子ども時代に虐待やネグレクト、いわゆる“放置”の経験をしてきた方も少なくありません。そして今、ご自身が親となり、次の世代との関わりに苦しんでいる方もいらっしゃいます。

今は「放置子」と呼ばれる子どもに直接関わっているわけではありませんが、その延長線上にいる大人たち、支援が届かないまま大人になってしまった方や、今から子育てを担っていく方たちに向き合う仕事をしています。だからこそ、「子どもがしんどさを抱えているとき、早い段階で支援につながることの大切さ」を日々実感していますし、今回の作品にもそういった思いを込めました。

『放置子の面倒を見るのは誰ですか?』より

――作中で、悩んでいる主人公に助言する友人として「臨床心理士/公認心理師の白目みさえ」が登場しますね。このポジションでご自身を登場させるのが面白いなと思ったのですが、架空のキャラクターではなくご自身を登場させた理由を教えてください。

白目さん:……単純に出たがりなんです(笑)。でも実のところ、あえて自分自身をキャラクターとして登場させたのは、「専門家としての自分の言葉を、しっかり届けたい」と思ったからです。

作中のしずかのように、子育てや子ども同士の関わりの中で悩んでいる方は本当に多くいらっしゃいます。そんなとき、「なんとなくキャラクターが言っている言葉」ではなく、「この作品の作者であり、現役で心理士として働く自分が、現場の声として伝えている」と受け取ってもらえたら、より信頼して読んでもらえるのではないかと思いました。

そこで、“作者としての自分”と“心理士としての自分”の両方の立場から、「これは言葉として責任を持ちたい」と思った部分だけ、自分自身として登場させてもらいました。

『放置子の面倒を見るのは誰ですか?』より

   *    *    *

現役心理カウンセラーの立場から、社会問題でもある「放置子」に切り込んだこの作品。白目さんは作中でも主人公しずかの葛藤に寄り添い、具体的なアドバイスをしながら彼女の悩みを解決する方向へと導きます。そこには、虐待やネグレクトに苦しむ人々と仕事で接してきた白目さんだからこそ、読者に伝えたい気持ちが込められています。

取材・文=レタスユキ

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