「放置子」問題を描く上で著者が気をつけたこと。話題のコミック作品『放置子の面倒を見るのは誰ですか?』

現役の心理カウンセラーとしての知見と、ふたりの娘の母親としての実体験を併せ持つ漫画家・白目みさえさん。最新作『放置子の面倒を見るのは誰ですか?』では、娘の同級生との関わりに悩む母親の視点を通じて、子どもを取り巻く現代の社会問題を描き出しました。
約束していないのに家に遊びに来て上がり込もうとしたり、物をせびったり嫌がらせをしたりする「りっちゃん」。いわゆる「放置子」と思われるりっちゃんと関わることになった同級生の母親・しずかが抱えるのは、「手を差し伸べるべきなのか」という思いと、「自分の子どもを守りたい」という切実な気持ちです。葛藤するしずかの姿は、多くの読者の共感を呼びました。
白目さんは、これらのキャラクターをどう生み出し、どんな思いを込めたのでしょうか。本作に込められたメッセージを伺いました。
『放置子の面倒を見るのは誰ですか?』あらすじ

長女・莉華の小学校入学を迎えた母親・しずかは、入学説明会で「りっちゃん」という女の子に出会います。保護者の同伴なくひとりで来ている様子を見て、しずかは制服の採寸などを手伝ってあげますが、心は少しざわつきます。

入学後、りっちゃんが遅刻した様子を見かけたしずかは車で学校へ送ってあげますが、お礼もなく次を期待するような態度に戸惑います。しずかが拒絶すると、りっちゃんは莉華に乱暴したり、きついことを言うようになりました。

その後も、無断で家に来たり、物を欲しがったり、ノートを返さなかったりと、距離感のつかめない行動を繰り返すようになります。りっちゃんの汚れた持ち物や授業参観に家族が来ていない姿を目にして、しずかは胸を痛めますが、一方でいやがらせをしてくるりっちゃんから娘を守りたい気持ちとの間で揺れ動きます。

担任や学童に相談しても十分な解決には至らない中、莉華がりっちゃんに蹴られてケガをする事件が起こって…。
著者・白目みさえさんインタビュー
――この作品で「放置子」として登場するりっちゃんは、どなたかモデルとなる方がいらっしゃるのでしょうか?
白目さん:特定の誰かをモデルにしたわけではありませんが、私の子どもの同級生たちとの経験の中で印象に残っている子どもたちの姿を、少しずつ重ねて描いたキャラクターです。実際に、少し困った言動をする子にどう対応したらいいのか迷ったことがありましたので、そのときの感情や戸惑いを思い出しながら、物語の中に反映させました。

――「りっちゃん」は約束していないのに家に遊びにきたり、友人にケガをさせても意地悪をしている自覚がなかったりなど、友人との距離がうまくとれていません。「こういう子、身近にいた」と思わせるようなリアルな描写ですが、りっちゃんを描く上で大切にされたことはなんですか?
白目さん:りっちゃんを描くうえで大切にしたのは、「一方的に悪い子」として描かないことでした。たしかに、約束なく家に来たり、友だちに攻撃的な言動をしたりと、周囲からは“迷惑な子”に見えてしまうかもしれません。実際、作中の主人公・しずかもそのように感じて、「嫌いになってしまう」という描写があります。前半を読まれた読者の方からも、「なんでこんな子に付き合うの?さっさと拒否すればいいのに」といった声もいただきました。
でも実際には、「娘の友だちである」という関係性がある中で、そんなに簡単に線引きできるものではありません。親としては、自分の子どもが誰かに冷たくされたり、仲間外れにされたりすることには、とても敏感になります。だからこそ、大人である自分がどう動くべきか、悩んでしまうのだと思います。
りっちゃん本人に悪気があるわけではなく、ただどう接したらいいのかわからなかったり、心の中にある気持ちをうまく言葉にできなかったりする。そういった「伝わりにくい子ども」のリアルさを、丁寧に描きたいと思いました。
また、りっちゃんの家庭環境や背景はこの作品にはほとんど出てきません。実際、子育てをしていると「相手の家庭のことはよくわからないけど、関わり方に悩む子」は少なくないと思います。表面上の言動だけでは測れない部分こそ、子どもを理解する上で大切であると、伝われば嬉しく思います。


――りっちゃんの行動に振り回されて困惑する主人公・しずかのほうにはモデルがいらっしゃいますか?
白目さん:主人公の「しずか」は、私自身の思いや経験が強く投影された存在です。私自身だけでなく、これまで心理士として関わってきたお母さんたち、友人や知人など、たくさんの方の声や葛藤が少しずつ混ざり合って、しずかという人物ができあがったように思います。しずかも、誰か一人を描いたというよりも、これまで私が出会ってきた“たくさんの誰か”の要素が詰まっているキャラクターたちです。

――しずかが「りっちゃんに何かしてあげなければいけないのだろうか」という気持ちと、「距離をおいて娘を守りたい」という気持ちの間で葛藤する姿に、多くの読者が共感したと思います。主人公を描く上で、意識していたことや気を付けていたことがあれば教えてください。
白目さん:しずかを描くうえで意識していたのは、「どちらの気持ちも本音である」ということを、きちんと描くことでした。「りっちゃんに何かしてあげたい」という思いと、「娘を守りたい」という気持ち…両方とも親として自然な感情だと思います。そして、そうやって揺れ動くことこそが、今の子育て世代が抱えているリアルな葛藤なのではないかと感じています。
完璧な親ではなく、迷ったり悩んだりしながら、それでも子どものことを一生懸命考えている。そんな“等身大の母親”として描くことで、多くの方が「わかる」と共感してくださったのかもしれません。

* * *
登場人物を単純な善悪で分けることなく、子どもの問題行動の現れ方や葛藤する親の姿を丁寧に描いた白目さん。「一見すると問題のあるように見える人にも、その人なりの背景や、どうにもならない理由がある。そこに想像を向けてもらえるような描き方を心がけました」と語るリアルな人物描写が、読者の共感を呼んでいます。
また、白目さんは作中で「それでも関われる形がある」「専門家に託してもいい」という選択肢を提示しています。そのアドバイスは、同じような状況で悩む人々の救いになるに違いありません。
取材・文=レタスユキ
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