「がんと共に生きる」時代へ。血液がん患者、ケアラーの声から考える「これからのがんケア」セミナーレポ

「血液がん(多発性骨髄腫)の患者さんとケアラーの声から考える、これからのがんケア」開催

もし、自分や大切な人が「がん」になったら、私たちは何を考え、どのように日々を過ごすのでしょうか。先日、ファイザー株式会社主催の特別セミナー「血液がん(多発性骨髄腫)の患者さんとケアラーの声から考える、これからのがんケア」が開催されました。

セミナーでは、医療の現場から見える具体的な課題、そしてがん患者のケアラー500名への意識調査結果が紹介されました。さらに、視覚を閉ざして対話するワークショップ「ブラインド・トーク」を実施。多発性骨髄腫の患者さんやケアラーさんが、自身の体験談や、抱えてきた心の葛藤を、率直な言葉で語り合いました。当日の様子をレポートします。

がん患者を支える「ケアラー」って? その現状と課題とは

がん患者を支える「ケアラー」の現状と課題とは

最初の講演では、LIGARE血液内科太田クリニック院長・太田健介先生が、がん患者を支える「ケアラー」の現状について解説しました。

家族や友人として、患者の身の回りの世話や気持ちの支えを担うケアラー。ところが、埼玉県ケアラー支援計画のためのケアラー実態調査(がんケアラー以外も含む)によると、約7割のケアラーが何らかの悩みを抱えていることが明らかになったそうです。

主な悩みとしては、「心身の疲れ」「経済的な不安」「自由な時間のなさ」「将来への不安」などがアンケート結果の上位を占めています。太田先生は、ケアラーが「情報不足と孤立感」に悩んでいる現状を指摘し、相談体制の整備、休息の場の提供、緊急時の支援など、社会的なサポート体制の必要性を訴えました。

LIGARE血液内科太田クリニック院長・太田健介先生

さらに、太田先生は多発性骨髄腫の治療が長期化していることにも触れました。「新薬の広がりで生存年数は延びましたが、その分だけ“支える側”の負荷も増えています。情報不足による孤立感、休めない日々、緊急時の不安……。こうした状況に対し、患者とケアラーを一体で支える社会的な仕組みが不可欠」と語りかけます。

「二人に一人ががんになる」と言われる時代において、がん患者とそのケアラーが穏やかに生活できるような支援のあり方を、社会全体で考えていく必要があるのですね。

500人の調査でわかった、がんケアラーの「手探りでのサポート」の現実

「日本骨髄腫患者の会」代表の上甲恭子さん

講演の後半では、「日本骨髄腫患者の会」代表の上甲恭子さんが登壇しました。上甲さんは、「がん患者のケアラー500名の意識調査結果から見えること」をテーマに、多発性骨髄腫の患者を支える家族・友人の声を紹介しました。

上甲さんご自身も、かつて多発性骨髄腫の父親を支えたケアラーであり、その経験が現在の活動につながっていると語ります。日本骨髄腫患者の会は間もなく設立30年を迎え、「骨髄腫が治る病気になること」を目標に、啓発・支援活動の輪を広げています。

紹介された意識調査では、多くのケアラーが「患者の思いを十分に理解できていない」と感じており、手探りの状態でサポートを続けている実態が明らかになりました。また、実際に行っているサポートは、「悩みを聞く」、「気分転換に付き添う」といった精神面のケアが中心。半数近くが負担感を抱えており、ケアラー自身の心のケアが必要であることも浮き彫りになりました。

患者の思いや望むことを理解していると思うか


上甲さんは、父親のサポートを続ける中で、「私自身も『これで喜んでくれているのかな』と常に自問していた」と自身の経験を振り返りつつ、「この結果から、ケアラー自身にも心のケアが必要だと見えてきた」と語りました。

ケアラー自身にも心のケアが必要

最後に上甲さんは、「誰もががん患者やケアラーになる可能性がある」と話し、「制度だけでは支えきれない部分があるからこそ、ケアラーが置かれた状況を社会に知ってもらうことが次の一歩になる」と呼びかけました。

アイマスクで「心」に向き合う。対話型ワークショップ『ブラインド・トーク』を実施

アイマスクをつけて対話する「ブラインド・トーク」

講演後は会場を移し、アイマスクをつけて対話するワークショップ「ブラインド・トーク」が行われました。視覚を遮断し、相手の声だけに集中することで、普段は気づけない感情や言葉の奥の思いに耳を澄ます試みです。多発性骨髄腫の患者さんやケアラー、医療者が参加し、視覚障がい者の“ブラインド・コミュニケーター”が進行を担当しました。

参加者同士が深く理解し合う時間に

ある参加者は、治療が順調に進む妻を支える中で、医師との信頼関係の築き方について夫婦で考えが異なっていたことを振り返りました。また、病気のことを「いつ」「どうやって」本音で話すべきか、そのタイミングの難しさについてもトークが広がりました。

『ブラインド・トーク』は、表情が読めない環境だからこそ、患者とケアラーそれぞれの立場や思いのズレを鮮明に浮き彫りにし、参加者同士が深く理解し合う時間となりました。

ブラインド・トークのグラフィックレコーディング


* * *

多発性骨髄腫という病気自体への理解だけでなく、「がんと共に生きる」上での支え合いのあり方について考えさせられた今回のセミナー。誰もが当事者になり得る今、「ケアラー」を支える社会づくりは欠かせません。日常の中で寄り添う仕組みをどう整えていくか。そのヒントが詰まった時間となりました。


取材・文=レタスクラブ編集部Y

この記事に共感したら

Information

本ページはアフェリエイトプログラムによる収益を得ています

おすすめ読みもの(PR)

プレゼント応募

新規会員登録する

読みものランキング

読みものランキングをもっと見る

レシピランキング

レシピランキングをもっと見る

レタスクラブ最新号

レタスクラブ最新号詳細