「親ハラスメント」に悩み続けて…。リアル毒親体験を描いた『母がしんどい』田房永子さんの生き方

母の言動は親から子へのハラスメント。今では少し理解もできるように


――田房さん、精神的に強かったんですね。そんなお母様の言動はかなり偏っていますし、自己中心的なのですが、「子どもが憎い」という感情は見当たらず、お母様なりに田房さんを愛し、大切に思っていたことも伝わってきます。小さいころはたくさん抱っこしてくれたり、なにかあると「あなたを愛しているのよ」と言ったり。

「少し前はこんなことまったく思えませんでしたが、母は愛情がたくさんある人だと今は感じます。その発信方法や距離の取り方が当時はだいぶおかしかった、とは思いますが。母と平和に接することができるようになっても、『この人の娘は本当に大変だっただろうなあ』と感じることがあります。そういう時は、大人になって“親に人生を振り回されない自信のついた”私が、“親に人生を振り回されて苦しんでいた”子どものころの私をねぎらうことに集中することにしています。不思議な癒やしの時間が過ごせます」

――その後、田房さんは結婚し、子どもにも恵まれました。いまの田房さんから見て、当時のお母様の言動を理解できる部分はありますか?

「自分が親になってみて、理解できる部分もあります。『あ~、なるほど、こういう時は、そういうことをしたくなる気持ちになるんだな』とか。自分が母と同じようなことを子どもにしてしまう時や、してしまいそうな時、している人を見た時に思うのは、『私(親)自身が不安なんだな』ということです。

親は、自分自身の不安や心配事を、子どもの問題としてすり替えてしまうことができます。子どもに問題が起こっていると錯覚してパニックになってしまったりということを親は起こしやすい立場です。親である自分の言動の影響で子どもがそうなっている場合に、親は自分のせいではない、と切り離してしまえることができます。例えば、上司の命令でやった事を、上司本人がその命令を忘れていたりとぼけたりしてこちらのせいにされたり、立場を脅かされて無茶な要求を通されたりするのはパワハラと呼ばれますが、親子関係にもそういったハラスメント的なことが起こります。」

出典『母がしんどい』


――“親ハラスメント”ということですか!?

「親子は、親という強者(支配者・権力者)と、子どもという弱者(被支配者・被権力者)で成り立っているので、そこにハラスメントが生まれるのは自然なことだと思います。もはや、そこに両者がいるだけでハラスメントは起こっている、くらいの感じです。そこを強者側が自覚しているかいないかで、子ども側の苦しさはだいぶ変わると思います」

――親から子どもへのハラスメントとは、考えたことがなかったです。

「子どもを持った瞬間に、自分が急に強者側になってしまう。だけど同時に、親にとって子どもである自分もいるわけですよね。子どもが20歳くらいになった時、親が親としての権力を意識的に手放してちゃんと世代交代している家庭もあるように思います。だけど、孫ができても、親の座を降りない親もいます。親の座を降りない親の子どもは、自分自身が子持ちになっても親からハラスメントをナチュラルに受けている状態だったりします。そういう、親にとって弱者のままの状態で、自分自身が子どもにとっての『強者』になったという自覚を持つのはものすごく難しいと思います。

親が自分に嫌なことをしてくるのは『私が悪いからで、私のためなんだ』と思ったままで、子育てをするのはとても大変なことだと思います。それは、親から傷つけられたことを肯定して、自分の心の傷を放置している状態だからです。自分の心がボロボロに傷ついていて、さらに現在進行形でどんどん傷つけられるという環境で、自分の子どものことは傷つけないように接するなんてことは、人間にはなかなかできることではないと思います。やはり、相手が親であっても、自分がされて嫌だったことは絶対に拒絶したり、つけられた傷を癒やすためにその本人と距離を置いたりすることが、とても大切なことだと思います。

私の母は、そういうことをまったく知らずに私を育てていたんじゃないかなと思います。だから、当時の私があれだけ苦しかったのは当然のことだと思います。母と父が憎くて、心の中で気が済むまで恨みまくりました。人からどう思われても、そうやって自分の味方をして自分のことを10年間ねぎらい続けて、やっと『両親もいろいろあったんだろうな』と思うようになりました」

出典『母がしんどい』


理不尽な言動を“許す”ことでは解決しない。自分の子どもにも影響を与えます


――苦しかった体験を赤裸々にコミックエッセイを描いてみて、周囲の反応はいかがでしたか?

「こんなことで母をしんどいとか言うな! と怒られると思っていましたが、主人公のエイコに同情する意見が圧倒的に多く、『私も同じ環境で育ちました』という人たちともつながることができました。一方、テレビで紹介された時のお茶の間の反応は『お母さんを許してあげて』というものが多かったです。『お母さんだって大変だったのよ』とか『お母さんだって人間なんだから』とか。だけど『母がしんどい』人は、母の暴言や凶行をずっと『私が悪いんだ』と思い、延々と許してきた人なんです。『今度こそはわかってくれるはずだ、お母さんなんだから』『お母さんだって苦労してるんだから』『お母さんだって人間なんだから』と、ずっと許してきた人たちです。それが限界に達し、底をついて『これ以上許していたら私の人生がめちゃくちゃになる。もしかして許さなくてもいいんじゃないか? 許さないという生き方もあるんじゃないか?』と気づいた人たちなんです。そういう人たちに対して『許してあげて』という言葉は完全にお門違いで、トンチンカンでしかありません」

出典『母がしんどい』


――結局、自分で体験していなければ、苦しんできた人の本当の気持ちは理解できないかもしれませんね。

「『親は大切にするべき』等、世の中で当たり前の通俗として浸透していることというのは、意外と個人の心に染みついていて、何よりも強固な決まりとして強烈に自分に作用している場合があります。

自分の中で『いい年になって親のことを恨んでいたりするのはみっともない』とか『許してあげるのが大人なんだ』と思っていると、表面的に『許した』『自分には何も問題はない』と思い込むようになります。本当は自分の心は傷だらけで悲鳴を上げているのに、それを自分自身が黙らせてしまうんです。でも、それだと心は全く解決していないどころか悪化します。自分に対しての信頼がなくなるので、今度は自分以外の誰かにわかってもらおうと、心の悲鳴が外側に向けてどんどん大きくなります。それはいろんな形で現れます。周りの人の目が気になりすぎるようになったり、クレーマーになったり、キレやすくなったり、悲しんで落ち込むことがひどくなったり、日常を逸脱した行為や、様々な行動で自分へのメッセージを自分が出してくるようになります。

それは実は自分の『問題』であり『悲鳴』なのに、自分では『私はもう親を許したし、何も問題がない』と思っているので、『問題は別の人のものだ』と感じるようになります。その『別の人』になりがちなのが、自分の子どもなのです」

――心を抑えてきた自分が、子どもにも影響を与えるのですね。

「そう思います。だからいつも、自分の心に注目して、自分は子どもにとって強者なんだと自覚を持つようにしています。だけど、子どもに対する自分の態度や接し方が、ひどいなー、うまくできないなーと思うこともしょっちゅうあります」

今では両親との付き合い方に自分なりの基準も持てるようになったという田房さん。『母がしんどい』には、毒親との関係に苦しんでいる女性だけでなく、子育て中のママへのアドバイスも多く隠されているような気がします。1人で悩まずに、まずは読んでみてはいかがでしょう。何か解決の糸口が見えてくるかもしれません。

取材・文=岡田知子(BLOOM)

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著:田房永子
母からの過干渉に悩み、その確執と葛藤を描いたコミックエッセイ『母がしんどい』(KADOKAWA中経)を2012年に刊行し、ベストセラーに。主な著書に『呪詛抜きダイエット』(大和書房)、『それでも親子でいなきゃいけないの?』(秋田書店)などがある。

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