【#ねばからの解放】「理想の母になれない人」の理想と現実、母親たちを苦しめるものの正体は

「理想の母になれない人」の理想と現実

子を持つ母なら誰もが一度は抱くであろう「いい母でありたい」という想い。レタスクラブが実施したアンケート※でも、『「いい母親」でならなければならないと思っていますか?』という問いに対し「とてもそう思う」「そう思う」という回答が全体の64%を占めています。
(※2020年4月実施、末子の年齢が3歳以上11歳未満の20~40代の既婚女性332人)

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「いい母であらねば」と思う人が6割以上

でも、いい母とは何だろう。手料理を作らねばならない? 育児に時間を費やさねばならない? 社会の空気と当事者たちの気持ちのズレから、皆の意識に潜む「ねば」の正体は何なのか、Yahoo!ニュースとレタスクラブが全5回で問いかけます。4回目となる今回は、働きながら子育てする女性たちに、それぞれの「理想の母親像」にまつわる想いを語ってもらいました。

自分は大丈夫…? 多くの女性が「いい母親」でなければならないと思っている


アンケート『「いい母親像」で一番だと思うもの」で、最も多かった項目は「子どもとしっかり向き合っている」(42.5%)、2番目は「いつも笑顔で穏やかでいる」(27.4%)でした。

「いつも笑顔」の母でありたい

でも、それができるかどうかは別問題。都内在住の内田さんは「母親はこうあらねばという価値観が、自分を苦しめる」のだとか。

「出身は専業主婦率の高い土地です。地元にはこれといった産業がなく、結婚すると女性は家に入り、家事育児に専念するのがスタンダード。今、自分が働きながら子育てしていても、頭のどこかで『本当は私は家にいなければならないのでは』と考えてしまうんです」

頭の中にある母親像と今の自分の姿のギャップから罪悪感を覚え続けていると、内田さんは訴えます。

「幸い私の母も夫も、私が仕事を続けることを応援してくれています。だから私を苦しめる『家にいるお母さん』という理想象は、『こうあらねば』と自分で自分にかけている呪いなんですよね」

無意識のうちに、自分の育った環境が理想モデルになる。次に登場する米光さんも、同じような傾向が見られました。

「子どもが将来困らないよう導かなくては」という想い

「いい母親とは子どもに知識やスキルを身につけさせ、将来困らないよう道を敷いてあげられる親」。そう考えるのは40代の会社員米光さん。自分自身も、親の期待に応えてきた自負があると言います。

「私は長女として他の兄弟より厳しく育てられ、親に言われれば習い事も勉強も家の手伝いもがんばり、自分でもそれなりの結果をおさめていたと思います」

自分が親に与えてもらったものを、子どもへも与えたい。ところがいざ子育てが始まると全く思い通りにいかず、習い事は飽きる、宿題はさぼる、制限してもテレビやゲームはやり放題。

「あまりに言うことをきかないので正直、諦めの境地に入りつつありました。ところが知人から、『そういう子にはいろいろな体験をさせてあげるといいかもね』と言われて。言われてみれば、うちの子は何かを教えられるのは嫌いなタイプかも? こちらから一方的に押し付けるのではなく、キャンプとか親子で一緒に楽しめるものの中で、子どもが自然に変わっていくのを待ってもいいかななんて、思えるきっかけになりました」

アンケートの「いい母親でいなければならないと思う」を選んだ理由を選択する問いでも、「自分の親がそうしてくれていたから」が2番目に多い36.8%。「いい母親像」にまつわる多くの「ねば」は、親由来? 別のエピソードも見ていきましょう。

「いいお母さんモデル」から外れたら、母親として失格?

派遣で働く2児の母である澤入さんは、子どもの考える「お母さんらしさ」に困惑中。小学生の長女が「お母さんってお母さんらしくないよね」と言い出したのだとか。
「お母さんらしさってなに!? どういうお母さんならお母さんらしいの!? 長女のお友達の家も、ほとんどのお母さんたちが働いています。いつも家にいて、手作りのおやつを出してくれ、勉強もみてくれる……って、そんなお母さん周りにそういないと思うんです」

そこで改めて考えてみると、ステレオタイプなお母さんが生息しているのは、TVや漫画の中だった。

「メジャーな子ども向けアニメなどを見ると、バリバリ働いてダッシュで保育園のお迎えに行き、今日はもうお惣菜があるからいいね! って言っているお母さんって、確かにあまりいない。主人公のお母さんはいつもニコニコ良妻賢母、子どもがやらかしても感情的に怒るのではなく悲しい顔で諭す。私にはハードルが高すぎて、絶対無理です(笑)」

しかし自分の親もアニメに出てくるような良妻賢母ではなかったけれど、別の親がよかったか? と聞かれれば、そんなことは全くない。

「自分にとって母はたったひとりの母であるように、子どもとってもそれは同じ。だから、誰かが作り上げた“母親らしさ”にこだわることはない、と自分に言い聞かせています。こうなりたいのになれない、ではなく、これでいいやと思える妥協点を見つけていきたいです」

「育児に向いていない」と自称する小向さんも、ステレオタイプな良妻賢母ではない2児の母。そのことに、申し訳ない気持を覚えてしまうと話します。

「私は仕事が大好きで、自分のいいところは就業中に出し切ってしまっている。だから帰宅する時にはもう、搾りかす状態。子どもに向き合う少ない時間ですら、仕事のことを考えちゃってますし」

しかし子どもに関心が薄いわけではなく、ママ友たちの熱量に心が削られていく。
「ママ友たちとのLINEグループの話題はいつも、習い事や教育について。子どもが3、4歳になるともう、いい中学に行かせるには? なんて話題になってくる。すると自分は、仕事を理由にして子どもの教育をおろそかにしてないかと焦るんです」

さらに兄弟げんかで子どもの口から乱暴な言葉が飛び出すと、いつも疲れてガミガミしてる自分のせい? とドキッとなる。

「でもこんな母なのに、子どもたちはいつも『お母さん大好き!』なんて言ってくれるんですよね。仕事仕事で申し訳ないと思ってしまうのはきっと、自分の自己肯定感の問題。ついつい子どものダメなところに目がいき『私に似ちゃったから』と自分を責めてしまうけど、この子にはこんなに優しい部分があるんだなとか、子どものいいところを探していけば、逆にそれが自分を認めることにも繋がっていくのかなと思います」

母たちの中に残る親世代の価値観をリセットし、割り切ってラクになる時期

当シリーズでは各分野の専門家が登場し、さまざまな見解を述べています。このような母親像については、社会学者の井上輝子氏が次のように分析。

「今のお母さん方の親世代は、高度成長期、団塊の世代。夫はモーレツ社員、妻は専業主婦という性別分業が盛んな時代でした。そういう家庭で育った世代は『親のようであらねば』『家庭とはそういうものだ』という思い込みが残っているのではないでしょうか」

さらに、少子化や核家族化で母親に対するプレッシャーや負担が増えている社会の問題のほか、情報が多く不安になりがちなこと、母親自身がまじめになりすぎているとの指摘も加わります。

そして家事に対する考え方について、もっとラクしていいんだと思えるこんなアドバイスも。

「栄養のあるものを食べさせたいという思いだけで100点満点。子どもは食べたいものを勝手に食べて育ちます」(料理研究家・ジョーさん。)「家事のゴールを考えると、私の場合は家族の健康としあわせ。だからぴりぴりして家族の顔が暗くなっては意味がない。効率よく手間を省きます」(知的家事プロデューサー・本間朝子さん)

「いい母親にならねば」という気持ちは基本、子どもにいい環境を与えたい親心。しかし4名の母たちの話から、「こうありたい」という理想や「家事育児をないがしろにして働いている」という気持ちが自分自身を苦しめているという実情が見えてきました。多くの人の中にある理想の母親像は、社会や自分の罪悪感が作り上げた幻のようなもの。子どもたちが必要とする・求める母親とは別モノである可能性が高そうです。一度「いい母親像」をリセットする時がきているのではないでしょうか。

「子育てに正解はない」とはよく聞きますが、4人の母たちにとっては、おのおのの生活の中で子どもと向き合いながら見出したものこそが、それぞれの“正解”なのかもしれません。母親が笑顔でいられるためには「いい母親」のしがらみを振り切り、割り切って自分なりの姿を見つけていくことが大切であるように感じます。そうした楽しい時間の積み重ねこそ、「いい母であらねば」というプレッシャーを消し去る特効薬になりそうです。


文=木下頼子


◇「ねばからの解放」
この記事はレタスクラブニュースとYahoo!ニュースの共同企画記事です。
誰かに命令されているわけでもないのに、今も家庭に残る「こうせねば」。でもそれって本当?「そうせねば」という気持ちの正体と時代のズレを問いかけます。がんばり過ぎて疲れてしまう「へとへとさん」へ暮らしのヒントを、全5回の連載でお伝えします。

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