電気やガスを止められない生活が憧れだった。『明日食べる米がない!』の作者が語る、周りに頼る大切さ

#くらし 
父の突然のひとことで5歳にして家を失う!

冷蔵庫もない、洗濯機もない、母ひとり子ひとりの貧乏生活の中、それでもめげずに夢に向かって進んでいく子ども時代の日々をつづったコミックエッセイ『明日食べる米がない!』。レタスクラブWEBで試し読みの連載が始まると、多くの共感の声が寄せられました。
その作者・やまぐちみづほさんに、当時の思いや同じ状況でがんばっている人に伝えたいことなどをお聞きしました!



―― お父さまとは5歳で別れ、大変な生活もそこから始まっています。思い出などはありますか?

「正直あまり父のことを覚えていないのですが、父と一緒にいる時間は、子供として普通にうれしかった記憶があります。父も変わった人だったようで、私が生まれてすぐ失踪したり、警察にお世話になったりもしたそうですが、ネガティブな印象は特にありません。それは、母が父のことを悪く言わないように生きてきてくれたからだと思います。

5歳で別れたきり、家賃がどうしても払えなくなって1度だけ手紙を書きましたが、それ以外は話したことも会ったこともないので、自分の中に『父親像』というが薄いんです。これから先も連絡することも会うこともないと思いますが、どこかで幸せに暮らしてくれていたらいいな、と願っています」

中学生のときに1度だけ父に手紙を書いた


光熱費を考えなくていい「普通の暮らし」に憧れつつ、いつか漫画のネタになるかも…と前を見ていた幼少時代


――幼少期の『唐揚げをおなかいっぱい食べたい』『習い事をしたい』といった描写も切実でしたが、一番したかったことはなんでしたか?

「普通の暮らし、でしょうか。小学校のときから常に『今月、電気代は払えるのかな』『ガス代は大丈夫かな』と考える生活だったので。周りの子たちは、普通にご飯が食べられて、家があって、小学生のときにそんなことを考えたりしないですよね。もちろん、習い事をしたり、家族旅行に行ったりする友達がうらやましかったですが、一番は、生活に困る心配をしなくていい暮らしに憧れていました」

子供ながらに、毎月の光熱費を気にする毎日


――ある日突然電気やガスが止められてしまったり、晩ご飯がクレープ1枚にとんかつソースをかけただけのもの、だったり。家に冷蔵庫がないことを話したら友人に驚かれたり、と大変な子ども時代を過ごされました。楽しみや心の拠り所になったものはなんでしたか?

「一つは母の存在です。ずっと2人きりで生きてきて、普通の家庭以上に結びつきが強いというか。母はすごく明るい人で『宝くじが当たったら、ここに旅行に行きたいね』とかいつも明るい話をしてくれていました。食べ物がなかったりして、普通なら家庭の中が暗くなりがちですが、そんな母がいたからこそ、そこまで深刻にならずに暮らせていたと思います。
もう一つは、絵の仕事をしたいという目標です。漫画家になって本を出したいという夢を小学生のころから持っていて、卒業文集にも書いていたほど、絶対叶えたい夢でした。『この大変な日々も漫画のネタになるかもしれないから、決してムダにはならないはず』と、自分に言い聞かせて、前向きにがんばることができました」

楽観的で浮世離れした母。なんだかんだいって笑って過ごせているのは母のおかげ


――本が出版されて、周りの反響はいかがですか? 

「友人が読んでくれたり、喜んでくれたりしたのを見て『本当に出版できたんだな』と実感しています。以前から私の生活が大変なことを察してくれていた友人も想像以上の生活に驚いたようで、『何もできなくてごめんね』と言ってくれたりもしました。

読者のかたがSNSなどを通じて送ってくれる感想も、うれしく拝読しています。私のような生活をしている人がいることに驚いた方が多いのかな、と感じています。現代の問題として多くの人が貧困家庭についてなんとなく知ってはいると思いますが、ごくごく普通に暮らせている人のほうがやはり多いんですよね」

――今まで誰にも言えなかった生活のことを描いてみて、ご自身は何か変わりましたか?

「私の体験が1冊の本になって世に出て、今まで隠していた友人や職場の人にも読んでもらったりするうちに『自分の生活や親のことを絶対に隠したい』という気持ちがなくなりました。
学生時代は『周りと同じじゃないといけない』という思いがあって、家や親のことは絶対に話したくないと思っていました。だから、素の自分を出せなかったし、友人といても『やっぱり自分はみんなとは違うんだ』と疎外感もありましたが、今は『そんな風に思うことでもないんだな』と感じています。
つらい過去もあるけど、それも私の本当の過去だから、そういう話をしてもいいし、聞いてもらっても構わないですよ、と思えるようになりましたね」

小学校のときから本当の自分は見せず、目立たないように過ごしてきた


貧困生活が「当たり前」になってしまう怖さ。支援や制度をテーマにした次回作に期待!


――現在は、事務職に就いていらっしゃいますが、今後の夢などはありますか?

「絵や漫画、イラストは描き続けていたいですね。もっと技術を磨いて、絵の仕事一本でやっていくのが理想です。
次に描いてみたいテーマもあります。今回は私自身が体験したことを描きましたが、貧困家庭や生活に困っている人に向けて、さまざまな支援や制度をまとめてわかりやすく1冊の漫画で紹介したいんです。
私自身、そういう情報を全く知らなかったし、社会制度の書籍などはたくさんありますが、内容が難しいですよね。
それに、貧困家庭は、一日一日を過ごすことにいっぱいいっぱいになっています。それが『普通の日常』になってしまって、支援や制度の存在を知らなかったり、気が回らなかったり、そこにまでたどり着けないんです。それを漫画のようなものでわかりやすくまとめることができたら、いいなと思っています」

――お仕事以外ではいかがですか?

「大学進学にチャレンジしたいです。高校時代に大学進学をあきらめたことが、今もちょっと心に残っていて。勉強が好きだったし、もう少し進学できる方法を調べればよかったと後悔しているんです。
昔からたくさんのことに興味があるのと、以前から『自分の見ている世界は狭いな』と感じていて、違う世界とも関わりたいので、がっつり勉強したいです。外国語や心理学、人と関わることにも興味があります」

もっと周りに助けを求めていい、もっと迷惑をかけていい! 方法はきっとあるはず


――最近は、シングルマザー/ファーザーの家庭も特別ではなくなりました。1人親でがんばっているかた、そして子どもたちにメッセ―ジをお願いします!

「私もテレビなどでひとり親家庭の貧困についてののニュースを見たりしますが、自分の体験からして気軽に『あきらめずにがんばって!』と言うことはできません。
ただ一つ後悔しているのは、もっと周りの人に助けを求めたり、迷惑をかけることをすればよかった、ということです。例えば、経済的に大学進学が難しいとわかったとき、私はひとりの先生に相談しただけで現役での進学を諦めてしまったのですが、もっと他の先生や学校外の大人に相談すれば何か方法があったのかな、と。

泣く泣く大学進学を断念。今、思い返せば、別の方法もあったのかも…


貧困家庭で育ったお子さんは、経済的な理由で苦しい思いをしても「仕方ない」と我慢してしまうことが多いと思います。でもそこで我慢せず、つらいならつらいと言っていいし、周りの大人に頼ってほしいです。この本を描くときに自分の人生を見つめ直すことになったのですが、私はそうできなかったので、『このとき、勇気を出して周りに助けを求めていたら、違う未来があったのかな、解決策があったのかな』と思いながら描いていました。

周りの人に頼ることはハードルが高いことだとも思いますが、1人で考え込まずに『もっと周りに頼ってください。迷惑をかけていいんですよ』と言いたいです。
私の母を見ると、大変な毎日ではあるものの、それがだんだん当たり前のことになってしまって、結局受け入れることになってしまっていました。もう少し生活をよくしようと思えば、きっと方法はあるので、無理せず、声を出してほしいですね」

◇◇◇◇◇

「現代のリアルな貧困家庭について多くの人に知ってもらいたい」。幼少時にまさに自身が体験した貧しい生活を、大人の目線ではなく、子どもの目線で描いたやまぐちさんの言葉には、重みがありました。
声を出すことで救われる生活もあります。貧しい生活が“当たり前”にならないように、子どもも大人も、ときにはSOSを発信することが必要なのかもしれません。


取材・文=岡田知子(BLOOM)

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