私と同じ地獄に落ちてほしい…モラハラ妻はこうして誕生した。『夫にキレる私をとめられない』いくたはなさんインタビュー




――『夫にキレる私をとめられない』は。夫とのすれ違いから和解に至るまでの道のりを描いたコミックエッセイ『夫を捨てたい。』の続篇になりますね。その後のエピソードを作品にした理由を教えてください。
いくたはな 前作の『夫を捨てたい。』は、私の一方的な視点で夫のことを悪く書いた話でした。でもその私自身が100%良き妻であったのかというと、そんなことはないんです。私にもダメなところが多々あったのですが、そこはあえて前作では触れませんでした。だからこそ2冊目は私が妻として間違っていなかったのか、今一度問わねばならないなと。夫に対して結構ひどい仕打ちをした事実をなかったことにはしたくなかったので、そんな懺悔の気持ちも込めて書きました。

――『夫を捨てたい。』で夫婦の話し合いをした結果、夫が変わったのにも関わらず、イライラする気持ちが止められなかったのはなぜでしょうか。
いくたはな 『夫を捨てたい。』のラストでは前向きに進み始めたシーンを書きましたが、現実はそんな簡単にハッピーエンドにはならないですよね(笑)。
私はかなり無茶をして家事も育児も回しているのに、夫は自分が無理だと思ったら簡単に「できない」と言って私にパスしてくるんです。こっちはできないなんて言ってられない。できないこともどうにかしてしなくちゃいけないのに。そこだけはどんなに話し合ってもわかりあえなくて苛立っていましたね。


――前作『夫を捨てたい。』では、一人目の出産後、なかなか育児や共働きのつらさを理解してくれない夫への不満や苛立ちが描かれていました。二人目の出産をきっかけに夫も家事育児に向き合ってくれるようになった……という経緯があったわけですが、その後、どのようにして「同じ経験をしてほしい」という気持ちから「わたしと同じつらい目にあってほしい」という気持ちにすり替わっていったのでしょうか。
いくたはな「大変な時に素直に『助けて欲しい』と言えばよかったのですが、「私の方がこんなに稼いでるのに、あなたは変わらない生活しててなんか思わないわけ?」というような嫌味な言い方をしちゃったんですね。昔された仕打ちが心の奥で燻っていたようで、私があれだけ酷い目にあったのに夫は今もなおのうのうと生きてると思うと、ふとした瞬間に「許せない」という気持ちが噴き出してくるんです。前に進むためにも穏やかに過ごせばいいものを、過去の自分がかわいそうで、仇を打ってスッキリしたいという気持ちがどうしても拭えなかったんだと思います」
謝ってばかりで息苦しい子育て。夫に一番理解していてほしかった


――「たまに謝ってないと生きてちゃだめなんだって思うの」という言葉は多くの母親にとって胸に突き刺さる言葉のような気がします。
いくたはな「子どもを育てるって悪いことじゃないはずなのに、周囲の人に謝らなくちゃいけないシーンが多々ありました。勤務先で同僚に迷惑をかけてしまうことはもちろんですが、子どもと一緒に電車に乗るときも、ベビーカーを押して歩くときも、常にごめんなさいという気持ちでいなくちゃいけない。謝らないとうまくまわらないから、いろんなことに対してひたすら謝り続けているんです。そんなことをずっと続けていると、なんだか自分が間違った存在のように思えてきて息苦しさが半端なかったです。なのに一番理解していてほしい夫には、そんな気持ちがわからないんですよね」

――夫に「モラハラだよ」と言われた時、どう思いましたか?
いくたはな「『確かにこれはモラハラだわ』と素直に思いました。私はこんな言葉を夫に投げかけて何を期待してたんだろう。ひどい言葉を浴びせれば理想通りの夫になるとでも思ってるの?って。自分の浅はかさにびっくりしました。そもそもは愛する家族をより幸せにするために、家事も育児も仕事も一生懸命やってきたのに、その努力を自分でパーにしてると気付きました。いつの間にか自分が楽をするための利己的な考え方になっていたけど、本来の目的はそんなことじゃなかったはず。最優先にすべきことを思い出せてよかったです」
完璧な夫婦なんてどこにもいない。夫婦としての成長は続く
――お互いのダメなところを認め合っていく過程には心を揺さぶられました。夫に「キレて」しまう問題をどうやって乗り越えたのでしょうか。
いくたはな「衝突は今日も今日とて起こるのですが、そのたびにお互いのダメだったところを一緒に考えて向き合うようにしています。すごく時間がかかるし正直あまり気持ちのいい作業ではないのですが、とても大切なことだと思います。それに普段から対等な立場で会話を重ねることで、夫という括りから一個人としての関わりに立ち返ることができました。夫婦といえども相手の尊厳を踏みにじらない適切な距離を保つようにしています」

――最後に読者に向けてメッセージをお願いします。
いくたはな「完璧な夫婦なんてどこにもいません。間違えて、ぶつかって、進路方向を確認して。夫婦としての成長は死ぬまで続いていくのだと思います。お互いに日々向き合っていないと、ある日相手のことを久しぶりにじっくり見たら、性格も考え方もすごく変わっていて、ついていけなくなってしまった…なんてことも起こりかねません。そんなふうにならないように、日々話をしたり、時にはぶつかったりしながら夫婦で成長していきたいと思います」
パートナーに対する不満ならたくさんあるけれど、じゃあそんな自分は果たして100点満点なのか……と、ドキッとした人も多いのでは? パートナーや家族に対して、つい理不尽な言葉や態度をとってしまうという方は、その根本に何があるのか、改めて見つめなおしてみるのもいいかもしれません。
取材・文=宇都宮 薫
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