カフェイン依存症だった過去を持つ漫画家・三森みささんが「依存症」について描き続ける訳とは

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  『母のお酒をやめさせたい』より

ギャンブル、覚醒剤、アルコールなど、「依存症」の親を持つ子どもの苦しみを描いた『母のお酒をやめさせたい』。親の依存症によって家庭が壊れ、回復していく過程が子どもの視点から語られるコミックエッセイで、依存症のことがよくわかると評判を呼んでいます。
実は作者の三森みささん自身も、依存症に苦しんだ経験があるのだそう。そんな、誰もが陥る可能性がある「依存症」について、三森さんにお話を聞きました。

自身のリアルな依存症体験を漫画に。同じ悩みを持つ人から感謝されることも

 『母のお酒をやめさせたい』より

――『母のお酒をやめさせたい』を描こうと思ったきっかけを教えてください。

三森みさ:厚生労働省の依存症啓発事業の一環として、啓発漫画を描いてほしいと依頼されたのがきっかけです。子ども向けとのことだったので、初めは依存症について簡単に説明するだけの漫画にする予定でした。ですが、関係者へ取材を重ねるうちに、親の依存症による子どもの苦しみを社会が認識していない現状を目の当たりにしたのです。そこで、子どもの視点から依存症の問題について訴えかけるお話を描きました。

――三森さん自身も「カフェイン依存症」や「ゲーム依存症」だった過去があるそうですね。

三森みさ:はい。言いたい放題言われるネットの世界で、依存症だった自分のことを描いたら叩かれるかも…と、正直昔はビクビクしていました。一方で、自分の過去を描こうとすると、思いもよらなかった自分に出会えることがあるんです。そして、やっぱり作った話よりも体験談のほうが心に響くみたいで、同じように悩んでいる方から感謝されることも。そんなとき、描いてよかったなと思います。

「もっと早くに病気だと知っていれば…」依存症をテーマに漫画を描く理由

 『母のお酒をやめさせたい』より

――本書の他にも、三森さんの作品には「依存症」をテーマにしたものが多くありますね。

三森みさ:はい。自分自身が依存症を持っていることもあり、調べていくうちに依存症という世界の奥深さに興味を惹かれてしまいまして…。そうやって発信を続けていると、周りから依存症関係の仕事をいただくようになったり、教えてほしいと言われたりすることが増えていきました。
また、自分自身が「もっと早くに病気だと知っていれば、ここまで苦しまなかったのに」という気持ちから、漫画に描くことで苦しむ人を減らしたい思いもあります。早期発見・早期治療に越したことはありませんからね。

――三森さんは「ASK認定依存症予防教育アドバイザー」としても活動されているそうですね。この資格はどういったものでしょうか。

三森みさ:依存症についての知識を社会に伝えるアドバイザーの資格で、N P O法人ASK(https://www.ask.or.jp/adviser/index.html)が発行しているものです。依存症のことをより理解し、病気の回復を応援できる社会づくりを活動の目的としています。
受講のきっかけは、前作『だらしない夫じゃなくて依存症でした』を描いた後、依存症の専門家だと勘違いされていろんな人から相談を寄せられたことです。「さすがに素人がいい加減なことをいうのはまずい、どうすればいいんだろう…」と思っていたタイミングで、NPO法人ASKの代表の方にお声をかけていただき、資格を取得しました。


「相手の話をそのまま受け止める」依存症の取材で気をつけていること

 『母のお酒をやめさせたい』より

――漫画を描くにあたってたくさんの取材をされたようですが、どのような場所へ行かれたのでしょうか?

三森みさ:医療機関や学校などで、実際に現場で関わっているソーシャルワーカーや心理師の方に取材をさせていただきました。あとは、自分が通っている自助グループ(同じ問題を抱えた人が集まり、支援し合うグループ)のなかで取材に協力してくれる人にもお願いしました。

――取材をする際に気をつけていることなどあれば教えてください。

三森みさ:評価づけしないこととか、相手を枠にはめたりしないこと、相手の話をエンタメとして求めないことでしょうか。その人のそのままの話をちゃんと受け止めることを意識しています。全体的につらくて苦しい話、隠しておきたかった話をしていただくので、相手の心理的安全を守ろうという意識は忘れないようにしています。
また、話しやすいように、自己紹介として私自身の生きづらさの話をしたり、漫画を読んでもらったりすることも。「この人も同じか」と思っていただけると、取材相手の方も話しやすいようです。
あとは、自由に話してもらうこと。脇道にそれた話が結構興味深かったり、漫画の題材になったりするんですよね。

自分を罰する前にまずは自分を労わって

 『母のお酒をやめさせたい』より

――何かに依存してしまう辛さを抱えながら生きている人にメッセージをお願いします。

三森みさ:ある意味、病気って「今の生き方じゃ死んでしまう、軌道修正しようよ」と教えてくれるものだと思っています。そして人が何かに依存してしまう時、その背後には何か原因があるケースが非常に多いです。
あなたにとって本当につらいことは何か、依存することで緩和したい痛みはなんでしょうか。それは、子どもの頃からの息苦しさや、時代が生み出した生きづらさ、性別の役割からくるしんどさ、置かれている環境の苦しさ、自分を鞭打つことへの痛み、生き方への迷い…など、人それぞれ、色んな悩みがあると思います。
依存症になった多くの人が「やめられない自分が情けない」と言うけれど、実は依存してでも懸命に生きようとしているんです。依存の痛みは、「今の生き方が自分にとって本当は苦しいんだ」と教えてくれています。自分を罰する前に、まずは自分を労ってあげてくださいね。

ついつい飲みすぎてしまうお酒、何時間も続けてしまうゲーム…。日常生活の中でなかなかやめられないことがあって生きづらさを感じている人は意外に多いのかもしれません。自分や家族が「もしかして依存症なのかも…」と思った時にどうすべきなのか、まずは依存症について知ることから始めてみてはいかがでしょうか。

取材・文=宇都宮薫

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