生活費3万円で「やりくりできないお前がおかしい」「無能がっ」産後の妻を追いつめる金銭的モラハラ夫

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オムツやミルクにも文句をつけさらには暴言まで

夫婦の数だけ悩みはありますが、そのうちのひとつが「モラハラ」。言葉や態度で相手の尊厳を傷つけたり、精神的な暴力をふるうことを「モラルハラスメント」と呼びます。そのなかでも、パートナーに十分な生活費を渡さない、お金を使わせないなどで相手の言動を支配し、精神的に追いつめるといったモラハラ行為は、離婚事由のひとつとしても挙げられます。

このいわゆる「経済的DV」というモラハラ行為は、違法行為にあたるのでしょうか? 今回は、夫から金銭的に追い詰められ、また暴言などによって精神的苦痛を受けている場合、法的に対処法はあるのか、弁護士法人プロテクトスタンスの弁護士・金岡紗矢香さんに伺いました。

生活費は3万円「俺の金で生活しているんだから一丁前に意見するな」

例えばセミフィクションコミックエッセイ「信じた夫は嘘だらけ」で描かれている2歳の子を連れ、再婚をしたえりさんの場合。再婚して1年で2人目を妊娠。妊娠をきっかけに仕事を辞め、飲食店で働く現夫からは生活費3万円のみを渡されています。食費、光熱費、日用品、医療費、妊娠中のため通院費も必要。家計が苦しいため、少しでもと増額を訴えても「やりくりできないお前がおかしい」「お前たちのせいで遊びに行けない」「俺の金で生活しているんだから一丁前に意見するな」など、暴言や怒りにまかせて食器を割るなどで威圧し、妻の相談に対しまともに取り合おうとしない、という様子が描かれています。

あのね 月3万円じゃやりくりが厳しくなってきたの

俺の金で生活してるんだから一丁前に意見するな

やりくりできないと訴えたものの、暴言を吐かれ…

今日はお皿割られた…

──必要な生活費を渡さない、という夫の行為については一般的に刑法で罰せられますか?また具体的な判例はあるのでしょうか。

金岡 紗矢香氏「刑法上罰せられるとしたら、たとえば、食器などを妻に向かって投げた場合は、暴行罪が成立する可能性があります。また、食器を壊したことで器物損壊罪が成立する可能性もあります。もっとも、器物損壊罪が成立したとしても、実際に罰せられるのは稀かと思います。なお、刑法ではなく、特別法である「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」(DV防止法)により、保護命令が発せられ、それにも関わらず保護命令に反した場合は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられる可能性はあります」

──妻が夫を民事で訴えた場合、どうなるのでしょうか。

「この場合、離婚請求や損害賠償請求を行うことが考えられます。もっとも、この種の事案ですと、夫側は事実を否定してくるため、請求が認められるためには客観的な証拠が必要になってきます」


生活費を切り詰めて貯金しているかと思ったら夫の全財産は1万円だった

引き続きえりさんのケースでみていきましょう。
3万円の生活費で困窮しているえりさんに対し、夫が見せた全財産という通帳の残高はわずか1万円のみで、使途不明金がほとんど。貯金のために節約していると思っていたえりさんは強いショックを受け、問い詰めるも「俺が俺の金をどう使おうと勝手。お前には関係ない」「誰のおかげで今の暮らしができていると思っているんだ」と逆ギレ状態。3万円の中で購入した赤ちゃんのためのオムツやミルクについても買い過ぎだと文句を言い、「この無能がっ」と暴言まで。産後のえりさんは母乳が出なくなり、ストレスと栄養失調で倒れてしまった、というエピソードが描かれています。

俺が俺の金をどう使おうと勝手だろ

この人は誰…何を言っているの


──こういった「一人が働き、もう一人は育児や家事など仕事の支援をしていた」というケースの場合、共有財産を使い込んだという意味で、法的に何かできることはあるのでしょうか?

「とても残念ですが、このような場合、相手方に対して法的に何か請求することは困難です」

──難しいのですか…。妻が夫を民事で訴えた場合はいかがでしょうか。

「たとえば、浪費癖がある、生活費を渡さないなどといった場合は、婚姻関係を継続し難いといえ、離婚請求することは可能です。ただ、その場合でも浪費があることや生活費を渡さないといった客観的な証拠が必要となってきます。また、離婚まではいかなくても、夫婦は相互に扶助する義務を負っているため、生活費の請求、すなわち婚姻費用の請求をすることも考えられます」


夫婦間における経済的DVについて

まともな買い物一つできないとか お前クズすぎ!

──改めてですが、「経済的DV」の定義について教えていただけますでしょうか。

「定義づけは難しいですが、一般的には収入を管理され、生活費を渡さない、あるいは明らかに不足するような生活費しか渡さず、相手方を経済的に追い詰めることをいいます」

──経済的DVの証拠はどのようなものがありますか?

家計簿、生活費のやり取りが残されている録音やメール、日頃の買い物の領収書、クレジットカードの明細書、通帳履歴、日記などが証拠として考えられます」

騙されるかよ!


──パートナーから経済的DVを受けていて離婚を考えている方へ、離婚に向けてどのように進めていくべきか?しておくべきことなどはありますでしょうか。

経済的DVを受けている場合、離婚事由にはなりえます。もっとも、経済的DVをするような相手方の場合、そもそも経済的DVがあったという事実を否定してきます。そうすると、離婚が認められるためには、離婚を求める方が証拠に基づいて離婚原因があることを主張する必要があり、証拠がないと離婚は認められません。そのため、通帳の履歴といった証拠が必要になりますし、また、日記を証拠とすることが考えられます。
ただ、断片的に残していても日記の証拠の価値としては弱いため、きちんと毎日、経済的DVがない時も日記を作成し、さらに、後に消せるような鉛筆などではなく、ボールペンで記すことが必要となってきます。離婚が認められるためには、証拠が必要となりますので、日頃から証拠を残しておくことが望ましいです

お前が無能なことに変わりはないんだからな


夫からの暴言や金銭面での嫌がらせといったモラハラ行為が常態化し、すでに夫婦関係は破綻状態と言える場合、2人が冷静に話し合いをして問題を解決するのは不可能に近く、さらに問題を深刻化させてしまう可能性もありそうです。経済的DVが離婚の理由としても成立することを念頭に、当事者間での解決が難しい場合は専門家への相談を視野に入れて行動するのが得策なのかもしれません。


【取材協力弁護士】
金岡 紗矢香(かなおか さやか)/弁護士法人プロテクトスタンス
弁護士・行政書士。国内大手飲料メーカーの勤務を経て、弁護士資格を取得。浮気・不倫といった男女トラブルや離婚問題、セクハラ・パワハラなどの労働トラブル、相続手続きなど、さまざまな分野に精通し、女性からの法律相談に幅広く応じている。現在、2児の母親として子育てにも奮闘中(第一東京弁護士会所属)。

文=河野あすみ
イラスト=『信じた夫は嘘だらけ 浮気・ワンオペ・DV…地獄の結婚生活を終わらせます』(著:3cha)より

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