モラハラ当事者が自分の犯した罪に気づくまで『99%離婚 モラハラ夫は変わるのか』原作者インタビュー

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  『99%離婚 モラハラ夫は変わるのか』

※この記事ではモラハラ行為について具体的に触れています。フラッシュバック等症状のある方はご留意下さい。

パートナーからのモラハラに苦しんできた体験談を描いたコミックエッセイは多数ありますが、昨年末に発売されて反響を呼んでいるセミフィクションコミックエッセイ『99%離婚 モラハラ夫は変わるのか』は、「モラハラをしてきた側の当事者」の視点から描かれた珍しい作品です。

妻と子どもがある日突然家を出てしまったのをきっかけに、少しずつ自分のしてきたことを省みるようになった主人公。しかし自分のしてきたことがモラハラであったことを認めるまでには、長く激しい葛藤が続きます。主人公はモラハラ当事者の自助コミュニティに参加して、自分をみつめなおし、関係性を改善しようと必死にもがくのですが……。

なかなか現実を受け入れることができない『モラハラ夫』の姿を生々しくリアルに描いたこの作品。原作者の中川瑛さんもまた、かつてパートナーに知らず知らずのうちにモラハラをしていたことで夫婦の危機に陥った経験があるといいます。自身のモラハラ行為に気づいてからはパートナーとの関係を改善するための努力を重ね、現在ではモラハラ・DVの当事者たちが自分の変容を目指す自助コミュニティ「GADHA」を主宰している中川さんに、お話を伺いました。

◆原作者・中川瑛さんインタビュー

 『99%離婚 モラハラ夫は変わるのか』


──この作品では主人公が自らの家庭環境や親子関係を見つめ直していくことで、自分の弱さや不安の中にモラハラの原因があったことに気づいていきます。この過程は、中川さんご自身の経験と共通するところがあったのでしょうか。

中川瑛さん:おっしゃる通りです。僕だけではなく、非常に多くの「悪意のないモラハラをしていた側」が、加害者変容の中で自分の養育環境を見直さざるを得ません。自分にとって愛だと思っていたこと、優しさだと思っていたこと、気遣いだと思っていたことは、どこからきたんだろうかと問い直してみると、自分がされてきたことであるということはよくあります。

「心配しているのよ」「あなたのためを思って」「どうしてわからないの?」そんなふうに心配に見せかけて実際には自分のいいようにコントロールしようとする親がよくいます。それはそのまま「言うとおりにしておけばいいんだよ」「生意気言うな」「お前のためなんだぞ」と言って人をコントロールすることと変わりません。

心配しているなら、何かが起きた時にどんなリカバリーが可能か、失敗した時にどうやってその痛みを分かち合おうとできるか考えたら良いのです。相手のためを思っているなら、その相手に伝える必要のあるリスクを伝えたあとは、相手の意思を尊重することだってできるはずです。相手を愛しているなら、相手が何を求め、何を大切にしているかわからないといけないですよね。「どうしてわからないの?」とか「言うとおりにしていればいい」と言った態度は、全く「愛」ではないと僕は思います。

こんなふうに、生きてきた中で身につけてきた様々な「べき論」や「言葉が持つ意味」を手放していく必要があります。養育環境の中で得たものの中に、今後も使えるものもあれば、手放さないと目の前の人と生きていけないようなものもある。それを自分なりに見極めていくプロセスはとても重要です。

 『99%離婚 モラハラ夫は変わるのか』

──物語の終盤、モラハラ行為をしていた夫が自分の非を認め、モラハラの原因であった自分の甘えや不安を認めて「俺は家族をケアする必要はないと思っていた」「その一方で『自分のケアは当然されるべき』だと考えていた」「俺は大きな赤ちゃんだった」と述懐していく場面は、モラハラの原因や構造がわかりやすく描かれていると思いました。一方で、その表現の赤裸々さにも驚きました。「言葉にすると虫唾が走るような気持ち悪さ」とも描かれていますが、モラハラ行為を行っていた頃の心情をこのように詳細に表現することに抵抗はありませんでしたか?

中川瑛さん:それこそが最も核心となる部分だと思うので、それを「認識」するのは大変ですけれど、そこさえ乗り越えてしまったら「表現」としてはそんなに苦しいものではありません。なんといってもその気持ち悪さは傷つけてしまった相手の存在がセットです。自分の気持ち悪さに落ち込んでいるよりも傷つけてしまった相手に何ができるか、どう償うことができるか、ということに想いを馳せる必要があると思います。

よく、「悪意のないモラハラをしていた側」が自分の問題に気付いた時に自己憐憫に走ってしまう時があります。自分はこんなふうに生まれ育ちたいわけじゃなかったし、親との関係においては被害者なのであって、そんな自分から離れていくなんて…、こんなふうに考えているうちは、結局自分のニーズを満たすことしか考えていないのではないでしょうか。自分が傷つけてしまった相手をケアするにはどうしたらいいか、そう考え始めることが重要だと思います。

「言葉にすると虫唾が走るような気持ち悪さ」とは、自分の問題自体を認める時に生じる感情です。認めることができた先には、それを糧に自分がケアを始める、という勇気に変わると思いたいです。

 『99%離婚 モラハラ夫は変わるのか』

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中川さんが原作を手掛けた『99%離婚 モラハラ夫は変わるのか』の作中では、モラハラをしてきた夫が関係改善に向かってもがく姿がリアリティたっぷりに描かれています。繰り返し葛藤しながらも自分がパートナーにしてきたことに気づき、その原因となったものを見つめていきます。
自分を変えたい……というお悩みを抱えている方には、この作品が行動を変えるヒントになるかもしれません。


取材・文=レタスユキ

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