39歳の主婦が「女として見られたい」と思う気持ちはどこへ向かうのか…『女はいつまで女で すか? 莉子の結論』著者インタビュー

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 『女はいつまで女ですか?莉子の結論』より

結婚して7年、子どもを産んで4年目になる39歳の主婦・莉子。夫が誕生日を覚えていなかったことをきっかけに、「自分はもう女として見られていないのかも」と、モヤモヤした思いを募らせます。妻となり、母となったその先に一体何があるのか…。

リアルな主婦の声を取材して描かれた話題のコミックエッセイ『女はいつまで女ですか? 莉子の結論』。多くの共感を呼んだストーリーがどのように生まれたのか、著者の上野りゅうじんさんにお話を聞きました。

『女はいつまで女ですか? 莉子の結論』ストーリー

幼稚園に通う一人息子を子育て中の専業主婦・莉子は、家庭を優先しない夫に不満を募らせながらも平凡な日々を送っていました。しかし、妻の誕生日を忘れたり、見た目を揶揄したてきたりと、あからさまに昔と態度が変わった夫に、「もう女として見られてないのかもしれない」とモヤモヤした気持ちがどんどん膨らんでいきます。

『女はいつまで女ですか?莉子の結論』より

そんなある日、ママ友がオーナーを務める花屋のパートに誘われた莉子は、自分の世界を広げるべく一歩踏み出してみることに。莉子の行動を馬鹿にする発言を繰り返す夫に対し、花屋のバイトのハルトくんは莉子の気持ちを尊重してくれる素敵な人。「このまま女を捨てたくない」という莉子の思いはどこへ向かっていくのでしょうか……。

「女を捨てる」「女が終わってる」世間が言う「女」って?

『女はいつまで女ですか?莉子の結論』より

――「女はいつまで女ですか?」というタイトルにドキッとしました。まずはこの作品を描いたきっかけについてお聞かせください。

上野りゅうじんさん:ある物語で主人公が「女を捨てて頑張る」と宣言したり、ある話題では「女が終わってる」と言われていたり、そういう時に語る「女」ってなんなんだろう……と、ふと疑問に感じたことがきっかけです。
「男を捨てて頑張る」「男が終わってる」とは世間的にあまり聞いたことがないので、女性の場合は何か複雑な期限のようなものがあるのもしれない、という着想から「女はいつまで女ですか?」という問いかけが生まれました。

――確かに「男の期限」的な言葉はあまり聞かないですね。プロローグで「女らしさ」に翻弄され、「いつまで女でいられるの?」と悩む莉子にはとても共感しました。

上野りゅうじんさん:この「女はいつまで?」という問いは、人によって受け止め方や考え方も全然違いますので、どう表現していこうかとすごく悩みながら描いたのを覚えています。おそらく人それぞれであって、さらに年齢や状況によって、ゆらぎがあるものだからこそ葛藤や迷いが生まれるんじゃないかと……。

その上で「莉子」という女性の想いの経過を通じて「女はいつまで?」という問いを追っていけば、一つの例として検証できるのではないかな、そんな思いで綴ったのが「莉子の結論」です。「莉子の一例」が共感なのか嫌悪なのか、様々な意見があって当然ですし、これを機に読者の方もどういう女でいたいかな?など、考えるきっかけになれば嬉しいです。

『女はいつまで女ですか?莉子の結論』より

――作中には、「女には期限があるのよ」とか「女は子どもを産めば働かなくてすむ」といったような、女性が日常的に押し付けられがちな言葉が散りばめられていました。

上野りゅうじんさん:インパクトの強い言葉ですし、「(女である)あなたのため」と前置きされることで、より説得力を強めてしまうところに疑問を感じています。自分の希望より「女としての役割を優先しよう」という気持ちが生まれてしまう一つの植え付けのようです。「あなたのためだから」という言葉は優しいようでいて、支配的ですよね。

――このような問題提起を含んだストーリーを考える上で心がけていることはありますか?

上野りゅうじんさん:題名や内容からして不安や恐怖を感じる人も多いと思うので、最初から強く断言したり言い切ったりしないよう心がけました。それが今作に関しては「読んでいてモヤモヤする」というご意見をいただく一つの要因かもしれません。私自身の主義主張はいったん置いておいて、主人公の背中に乗って、徐々に見えるモヤモヤを体験してもらうことを意識しました。

「女らしさ」と「男らしさ」の呪縛に苦しむ夫婦の物語

『女はいつまで女ですか?莉子の結論』より

――表面上は特に問題のない夫に見えても、いろいろなところで莉子の尊厳を傷つけるような言動が多い莉子の夫の敦弘。このようなキャラクターはどうやって生まれたのでしょうか。

上野りゅうじんさん:夫には夫なりの「よき男性像」「よき夫像」みたいなものがあると思います。それが時に家族を守り、時に家族を傷つけるのかなと考えました。夫としては「悪意」というより自分の中の「正義」を押し進めた結果、妻を傷つけていたという感覚です。

――後半では、「強い男であること」にとらわれる敦弘の背景も描かれていましたね。

上野りゅうじんさん:「女であること」に苦しんできた女性がいる一方で、男性も「男であること」に苦しむ時があるようです。「長男だから…」なんて、もうあまり言わない時代にはなってきましたが、男性も周りからの無言の圧力として感じる「男らしさ」に躊躇する時もある。その「男らしさ」と「女らしさ」それぞれが影響し合う関係性を表現したいと思いました。

『女はいつまで女ですか?莉子の結論』より

――莉子のパート先の花屋のハルトくんは、莉子の自己肯定感をグッと上げてくれますね。彼はどういう存在として描かれているのでしょうか?

上野りゅうじんさん:主人公を「ひとりの女性」として扱ってくれる存在であり、心惹かれる相手でもある。「家族」という縛りや責任のない関係において「理想」を象徴する儚い存在でもあります。「ただ、口がうまいだけの若い男性」というより、女性が多い場所で接客を重ねてきたハルトくんのようなタイプの男性は、普段から「男として女性にやってはダメなこと・言ってはいけないこと」を肌で感じているので、男性社会で生き抜いてきた夫とは視点が全く違うんです。

自分の中にある「〜べき」に縛られないで


――上野さんご自身は、「女はいつまで女なのか」という問いについて、どのような考えをお持ちでしょうか?

上野りゅうじんさん:目標としては「死ぬまで女でいたい」とは思っています。ただ、気持ちの強弱は常に揺らいでいて、努力して綺麗でいようとしている人を見たら「自分も頑張らないと。女でいる努力が大切」と感じたり、「もういちいち気にしてたって無駄!」なんて友達と会話が弾めば「そうかもしれない」と思ってみたり……。

『女はいつまで女ですか?莉子の結論』より

――莉子のように「女性としてこうあるべき」という価値観にがんじがらめになっている人に、メッセージをお願いします。

上野りゅうじんさん:迷ってる時に「私はこうしたい」なのか「私はこうあるべき」なのか、自分自身の行動原理をふと立ち止まって考えてみることでしょうか。意外と「〜べき」に縛られてたりしますので。まずは自分の中にある「〜べき」がどれくらいあるのかを知ることが大事なのではと思います。

「女とは〜であるべき」という決めつけは、他人から押し付けられるとイラっとするものですが、自分自身の中にも案外根深くあるものかもしれません。自分の中の「女」を探し求めて迷路に迷い込んでしまった莉子の行く先を、ぜひ最後まで見届けてみてください。

取材・文=宇都宮薫

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