マルチ商法にハマった母親が借金を重ねて家族崩壊。実話をもとにした話題作の作者・えみこさんインタビュー

主人公一ノ瀬翔子、28歳。6年勤めた会社を辞めて地元に戻ることにしたところ、母親の光子の様子がおかしいことを父親から打ち明けられます。
父・史郎によると、ある日通帳を開いたところ、二千万円はあるはずの退職金がほとんど残っていなかったそうです。不審に思い家計を任せていた妻を問い詰めたところ、説明するどころか「なんで勝手に通帳見たの!? 信じられないわ!」と逆ギレ。娘2人を大学に入れて生活費と教育費で使った、史郎の給料だけで足りるわけがない、と言い放ちます。


退職金が残っていない理由についてまったく見当のつかない史郎は、84歳になる光子の母親・信子のもとへ相談に訪れます。すると信子は「またお金のことで揉めてるの?」と、これまでにも光子に合計一千万円もの大金を貸していたことを打ち明けます。

どうやら原因は光子が数年前にはじめた仕事にあるようでした。健康食品の販売だと聞いていたものの、家には大量の在庫のダンボールが積まれ、やがて化粧品も取り扱うようになっていきました。光子は販売の成績を上げるために、自分で商品を買って在庫を抱え、お金を使い込んでいたのではないか……と、史郎は考えました。


やがて光子が母親からの借金だけでなく、消費者金融にも手を出していることがわかり、祖母も含めた家族全員で母の光子を問い詰めることになりました。
光子は消費者金融からも300万円ほどを借りていることを渋々打ち明けます。家族から責められた光子は逆ギレし、「借金は全部自分で払う、そのかわり私のやることに文句は言わせない」と叫んで、家を出て言ってしまうのでした。まるで別人のように変わってしまった母親の姿に、家族はショックを受けて……。

この『長年家族だと思っていた母は知らない人でした』の原作者、えみこさんにお話を伺いました。
原作者・えみこさんインタビュー
──ハラハラしながら最後まで拝読させていただきました。まずはじめにこの作品を描くことになったきっかけを教えていただけますでしょうか。
えみこさん:募集して寄せられた読者の方の実体験をもとに描かせていただきました。ご家族からの視点ということでとても興味深いと感じたのがきっかけです。マルチ商法がらみのお話を目にする機会が少なかったので、ぜひ皆様に読んでいただき知ってもらいたいと、エピソードを採用させていただいたのがきっかけです。
──しっかり者だった母親の金銭トラブルと聞くと、普通はなかなか受け入れることができませんよね。一体どんな心境だったのでしょうか。
えみこさん:このエピソードを提供してくださった方によると、「まさか。倹約家の母がそんな大金を使うはずがない……。何かの間違いだと思っていました。例えば自分で使い込んだのではなく、誰かに騙されて大金を失う羽目になったとか。良い方向に無理やり考えてしまって、しばらくは冷静に状況を理解できませんでした」という心境だったそうです。

──本作でトラブルの原因となった悪質な「マルチ商法」ですが、主人公・翔子の母がのめりこむ過程が非常にリアルでした。ここで伝えたかったことを教えていただけますでしょうか。
えみこさん:母の光子には「お金持ちになりたい」という気持ちが根底にありました。この悪質なマルチ商法のシステムは光子には非常に魅力的でしたが、側から見れば明らかにおかしい。それでも当人はそれを全く疑問視していない。この不気味な過程を描きたいと思いました。
「はじめは大変だが、そのうち楽に稼げる。ゆくゆくは不労所得で大金を……」という誘い文句で人間の欲につけこまれてしまうと、光子のように在庫地獄に陥ってしまったり、友人や知人などの人間関係も壊してしまい孤立してしまう危険性もあると思いました。
──翔子の母・光子は影の多い強烈なキャラクターですね。
えみこさん:昔から成績優秀で真面目さが取り柄だった光子ですが、誘い文句に魅かれてはじめたマルチ商法をきっかけに道を踏み外してしまう。借金が増え、生活もままならない状態になっても、それでも自分の間違いを認められず、ますます事態が悪化。自分の過ちを認めて修正することの大切さを改めて感じました。光子を反面教師にして、今後もことあるごとに自分が光子化していないか振り返りたいと思います。

──全体を通してトラブルから抜け出そうとがんばる家族の姿が描かれていて読み進める手に力が入ってしまいました。えみこさんの印象に残っているシーンを教えていただけますでしょうか。
えみこさん:翔子が光子の手帳を読み返すシーンです。元を辿れば、幸せになりたいからマルチ商法に没頭してきた。しかし、金銭・家族関係も全て破綻してしまい無惨な姿になってしまった光子の、家族を想う母親らしい一面が過去の手帳に記されているエピソードです。描いていて切なくなりました。
──本作で、子どもの頃は頼れる存在だった母親が、逆に注意やケアが必要な存在へと変化していたことに娘がショックを受けている姿が印象的でした。体力や集中力の衰えなど日常生活でも子が親を支える場面が増えてくることは現実でも多々あります。年を重ねてからの親子関係について、えみこさんがどのように考えているか教えていただけますか。
えみこさん:私の親も病気や怪我などで、私たち子どもの世話になることも増えてきました。でも、親からすると「不甲斐ない・申し訳ない」と感じるようです。子育てや家庭・仕事もあり、大変な時もあるのですが、「小さい頃から沢山迷惑かけて世話になってきたんだから、あおいこだよ(笑)」と言葉にするようにしています。お互いに感謝の気持ちを持って、介護や終活など今後のことを日常的に会話してコミュニケーションを多く取ることで、お互いにどんな風に思っているのかが分かるようになりました。おかげさまで現在の関係は良好です。
今後もお互い様の気持ちを持って親子関係を続けていくことが理想です。

──最後に、『長年家族だと思っていた母は知らない人でした』を手に取る読者のみなさんへ、メッセージをお願いいたします。
本作で描いたような「家族がマルチ商法にハマっている」という悩みをもつ方は少なくないと思います。けれど、そのことを相談できる機会は少ないのではないでしょうか。親だからこそ目を覚ましてほしい。見放してはいけないと、奮闘する翔子の姿を見ていただきたいです。光子も自分や家族の幸せを願い、悪質なマルチ商法にハマっていくのですが、その結果がどうなっていくのか、是非最後までご覧いただけると幸いです。
取材=ナツメヤシコ/文=レタスユキ
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