大切な人を失った祖父と孫。その日常を切なくも暖かく描いた漫画『ハルとゲン』の著者・大島由果さんインタビュー

#育児・子育て   
『ハルとゲン〜70歳、はじめての子育て〜』より

70歳の祖父と3歳の孫のほのぼのした日常を描いた漫画が注目を集めています。

大島由果さんの『ハルとゲン〜70歳、はじめての子育て〜』はウェブトゥーン、いわゆる縦スクロール漫画です。異世界ファンタジーやサスペンス漫画の人気が高い縦スクロール漫画の形式の中では、やや異色ともいえる日常モノの作品です。

この作品が、WEBの短期集中連載では1,300万PVを超える大きな反響を呼びました。一体どんな作品なのでしょうか。

『ハルとゲン〜70歳、はじめての子育て〜』あらすじ


妻と離婚して一人暮らしをしていた70歳のゲン。その娘・サクラは、30歳の若さで病気のため亡くなってしまいました。サクラの3歳になる娘・ハルを託されたゲンは、慣れない育児にてんやわんや。

思っていた以上に初めての育児は大変で、ゲンは妻に家庭を任せきりで顧みなかった若い頃を思い出して苦い気持ちになったり、娘のことを思い出して切なくなったりするのでした。

『ハルとゲン〜70歳、はじめての子育て〜』より

ハルの育児を通して、不器用な堅物だったゲンもまた少しずつ成長していき、周囲の人々との関わりも広がっていきます。

あたたかくほのぼのした日常の中にも、大切な人を喪った悲しみや、過去の自分の行動への後悔など、ほろ苦い思いもにじむ物語。そんな『ハルとゲン〜70歳、はじめての子育て〜』について、著者の大島由果さんにお話を伺いました。


著者・大島由果さんインタビュー


──『ハルとゲン』は娘のサクラを失った70歳の父親・ゲンが、その忘れ形見の3歳の孫娘・ハルをひきとって育児と向き合う物語です。この物語を描こうとしたきっかけを教えてください。

大島由果さん:描こうと思った理由は、沢山ありすぎて書ききれないのですが、私が幼い頃、仕事で忙しかった両親の代わりに遊んでくれた祖父の思い出や、職場の学童で働いている時に感じた事、さまざまな家族の形、人との出会いそして大切な人との別れなど、「生きていく日々」を形にしたいと思ったからです。

『ハルとゲン〜70歳、はじめての子育て〜』より

──では、『ハルとゲン』に登場するキャラクターには、実在のモデルはいらっしゃるのですか?

大島由果さん:ゲンは私の祖父です、ゲンよりも個性の強い人でしたが、ゲンのように不器用で優しい人でした。ハルとサクラは自分自身の思い出や、私に子供がいたらこんな感じかなぁという思いで生まれてきました。他のキャラクターも私の身近な方達、出会ってきた人達がモデルです。

──絵柄も可愛らしくて、一見、孫娘と祖父のほのぼのとした日常物のようですが、娘を失った父親の悲しみや、妻子と正面から向き合えなかった後悔など、胸の痛む場面や切ないエピソードも出てきます。このようなエピソードを織り交ぜてストーリーを構成した理由を教えてください。

大島由果さん:生きてたら色々な出来事があります。傍からみたら何事もなく幸せそうな家庭でも、中を覗けば沢山の苦労があったり……。人それぞれ何かしら抱えながら、乗り越えながら生きていく中で笑える時間や、なにかしらの救いがある日常を描いていきたかったからです。

『ハルとゲン〜70歳、はじめての子育て〜』より

──物語の中盤で登場するウーピーさんとアイちゃんの親子との交流のエピソードが、心あたたまるとても良いお話でした。ゲンの育児友だちという視点でウーピーさんを登場させた理由と、どうしてウーピーさんのようなキャラクターにしたのかを教えてください。

大島由果さん:祖父と孫のハルとゲン、外国にルーツを持つウーピーさんとアイちゃんの親子は、それぞれ育児の現場では少数派の家族なのかもしれないのですが、彼らからしたら、それが日常なのですよね。そんな二つの家庭が仲良くなり、そしてどんどん周りとの関係も広がっていけばいいなと思ってウーピーさん親子を登場させました。

最初、ハルの為に性格が正反対だけど馬が合う友達が欲しいなと思い「アイちゃん」が生まれました。2人の出会いや友人関係を考えているうちにアイがおとなしすぎる為、アイの想いを伝えてくれる「母親」の存在が大きくなりウーピーさんが生まれました。

ゲンとウーピーさんの関わりで見せたかったのは、ゲンが夢見ていた「娘と共に育児をする時間」です。サクラの代わりというわけではないのですが、ゲンにとっては娘のような存在にしたかったからです。

 『ハルとゲン〜70歳、はじめての子育て〜』より

── ハルがウーピーさん親子を守るために男の子に対抗する場面があります。ゲンは男の子が積み木を投げつけようとした状況を見ていなかったために、ハルを叱りそうになってしまいます。状況を確認せず注意したり怒ってしまったり、対応に迷ったり悩んだりすることは育児の上でたびたび直面することのひとつだと思いますが、このエピソードを描かれた理由をお聞かせください。

大島由果さん:職場の学童で子ども達のイザコザや喧嘩を目の当たりにした時つい、強い立場の子を注意しがちなのですが、よくよく話を聞くと原因が泣いている子にあったり、お互いの意見の違いなどで衝突していたという事がありました……。
それを知りもせず注意してしまった後悔や、ちゃんと話を聞かないといけなかったなぁ、という自分自身の反省により生まれたお話です。

『ハルとゲン〜70歳、はじめての子育て〜』より

── ゲンがウーピーさんとスマホで連絡先を交換したあと、スマホが亡くなったサクラからのプレゼントだったことを思い出す場面も、とても印象的でした。サクラが「これからハルの幼稚園や学校、周りの人たちと連絡取るようになるから」とゲンにスマホを持たせ、使い方を教えていましたね。サクラがハルのことを細やかに考えていることが伝わるエピソードで、思わず涙してしまいました。このエピソードが生まれたきっかけを教えてください。

大島由果さん:今は一人一台携帯を持っている時代ですが、ゲンはコミュニティーが狭いので持ってないだろうなぁと考えました。サクラの死後、サクラの携帯をゲンに渡して自分のかわりに……とも思ったのですがサクラは「治る」という望みを少なからず持っていたので、ゲンに新しいスマホを渡す事
にしました。
それにより、スマホを通じてゲンとサクラの「親子の繋がり」も持たせたかったというのがお話のきっかけです。

── 現在も『ハルとゲン』は連載中ですが、この作品の他にいつか描いてみたいテーマや挑戦してみたいジャンルなどはありますか?

大島由果さん:今は『ハルとゲン』を長く描いていきたいというのもありますが、『学童』を元にしたお話もゆくゆくは描いてみたいと思っています。

── 最後に、読者の方にメッセージをお願いします!

大島由果さん:「ハルとゲン」を読んで頂いて、感謝の気持ちでいっぱいです。これからもハルとゲン達の日々を暖かく見ていただければ幸いです。

取材・文=レタスユキ

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