クレクレ行為は「心の空腹感」から?母と娘が抱える「なんでも得をしたい」心理、白目さんに聞いてみた!

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チコさんが「クレクレさん」になったのは親の影響が…?

職場、学校、ご近所、親類関係…。いろんな性格の人との出会いがあるなかで、たまに「何を考えてるのが全然わからない!」というトンデモな人に遭遇した経験はありませんか?お互いがちょうど良い距離感を保てれば良いですが、その距離感を無視した一方的な関係は、たちまちトラブルに発展してしまいます。
SNSへの投稿で大反響を集めたぱん田ぱん太さんの話題作『欲しがるあの子を止められない』でも、学生時代から強烈なクレクレ行為で周囲をあぜんとさせる「チコさん」という女性が登場します。

『欲しがるあの子を止められない』はどんなお話?

ネイリストになりたいねん

婚約中の彼氏がいる主人公・きよかさん。ある日、ネイリストを目指している義理の姪っ子ちゃんから可愛くネイルを塗ってもらいます。中学生とは思えないほどの綺麗な出来栄えに感動したきよかさんは、完成したネイルをSNSに投稿。
すると学生時代の同期・チコさんから「どこのネイルサロン?」というコメントが。SNS上のちょっとした会話だけと思っていたきよかさんをよそに、チコさんは「友達割引とかある?」「あるんなら紹介して〜」など、一方的におねだりを連投しはじめます。

友達割引とかある?

私も練習台になってあげるで!

どないしたらええの この子?

きよかさんが「ごめん、これプロのネイリストにしてもらったやつじゃないよ」と、姪っ子がしてくれたネイルであることを伝えると、同期のチコさんは「私も練習台になってあげる。いつ行ったらいい?」と勝手に暴走。
知らない人だし、それはちょっと…と断るも、
「あなたの同期なんだから姪っ子にとっても知らない人じゃないでしょ。直接連絡するから連絡先教えて」と意味不明の返事が! 
困惑するチコさんが断っても意に介さず、どうにかネイルをしてもらおうと、クレクレ行為を暴走させていくチコさん。

この出来事がきっかけとなり、チコさんが学生時代から「クレクレ」行為の常習者だったことを思い出すのです。

今日もなんも買わんかったん?

どの口が言うてんねん

自分は絶対買わないのにもかかわらず、友人たちが購入したコンビニスイーツを毎日のように「ひと口ちょうだい〜」とねだり続けたチコさん。それを指摘されると「ひと口なのにケチだね」という発言が! それ以来、チコさんがいる時は友人たちはスイーツを買いに行かなくなったのですが、「今日はコンビニに行かないの?」としつこく聞いてくるチコさんに、どの口が言うのか、と周囲は唖然…。

会計一緒でええ?

それだけではなく、「お財布忘れたから一緒にお会計して!次はおごるから!」を何度も繰り返し、結局おごることもなく、お金も返してくれないチコさん。最初は「いいよ、いいよ」と言っていた友人たちも、何度もおごらせようとするチコさんに対して不信感が…。

そして、チコさんの「クレクレ」行為は大人になっても続いていました。

友達価格で切ってな〜!

絶対あの子やん!

知り合い程度の女性の夫が美容師だと知ったチコさんが、勤め先の美容室を実際に探し歩き、別の支店に「知り合いの夫なんだから友達価格で切って欲しい」といきなり押しかけて警察を呼ぶ一歩手前までの大騒ぎになったことも。駆け付けた知り合いの夫に「友達だから割引してくれ」と言い張るチコさんに「その友達に子どもが生まれたことも知らないのに親しい友達と言えますか?」と返すとそそくさと帰っていたとのこと。その話を聞いたきよかさんは、不覚にもとんでもない人と接点を持ってしまったと大後悔!

「度を越して人の物を欲しがったり、得をすることに執着をする」異常なまでの性質ゆえ、チコさんは行く先々の人間関係で絶えず大きなトラブルを起こしてきたのです。
なぜチコさんがここまで図々しくなってしまったのか。作中では彼女の生い立ちを深く掘り下げていくとともに、親が子どもに与える影響や家族との関わりについて紐解く、壮大な実話コミックエッセイなのです。


親のクレクレ行為を無意識に引き継いでいく子ども。脱却するにはどうしたらいい?

エピソードを読み進めていくと、チコさんが「クレクレさん」となった背景には、家庭環境、とくに母親の影響が大きいことに気づきます。はたから見れば異常な行為にもかかわらず、クレクレ行為があたかも正しくて当然だと疑わない様子に、根深い闇のようなものを感じてしまいます。

どうしてクレクレ行為を続けるの?なんで良くないことだと思わないの…?漫画を読んで抱いた素朴な疑問について、心理カウンセラー・白目みさえさんにお話を伺いました。白目さんは精神科の心理カウンセラーを本職とする傍ら、最新作『子育てしたら白目になりました』などを描く人気コミックエッセイストとしても知られています。

チコちゃん小学生時代…

おやつ代請求書…!?

──チコさんが子どもだった頃、母親は遊びに来た友人たちにおやつを出しますが、友人の親におやつ代金を請求するという行為に出ました。大人になったチコさんもまた同様に、夫が自宅に宿泊させた後輩に朝食をふるまうものの、平然と朝食代金を請求しています。「子は親を見て育つ」とはよく言いますが、子どもが親の負の面までも受け継いでしまったとき、脱却するためにはどのようなアプローチが必要でしょうか。

朝食作ったんで

同僚さんに渡したってくれる?

白目さん:子どもはみんな真っ白な状態で生まれてきて、自分が生きていくための術を周りにいる大人から学んでいきます。正しいか間違っているかの検討はできません。ただただ目の前にあるものが「当たり前」で「正解」だと思い、自分の中に取り入れていきます。

もしそれが世間的に見ておかしな行動だったとしても、意識してわざとやっているとか、悪意があるという次元ではないのです。息をするように当たり前に『無意識』にそうしているので、そもそも自分で「おかしい」と気づくのは至難の業と言えるでしょう。

ここから脱却するためには、自分が『無意識』にやっていることを『意識』してもらうことが必要です。修正や注意、教育はそのあと。気付いてもいないものを「ダメだ、直せ」と言っても、言われた方はただただ「否定された」としか感じません。その行為が一般的ではないことを取り上げ、他の人と自分の行動を比べてみるなどして、自分の行動に注目してもらい、「自分の行動が世間からズレている」ということに気づいてもらうところがスタートです。


親のクレクレ行為を「恥ずかしい」と意識した子ども。どう寄り添うべき?

ちょっと欲張っちゃったかもなあ…

──ビュッフェ形式で食べきれないほどの食事を持ってきて、タッパーに詰めて帰るチコさんの母親の行為。ルール違反なのは当然ですが、それ以前に恥の概念をどこかに置いてきてしまっているように感じます。外聞と恥じらいを捨ててでも自分が得をしたいという気持ちはどのように形成されていくのでしょうか?

ちゃんとタッパー持っとってよかったわあ!

白目さん:「自分が得をしたい」と思う人は、周りの人が当たり前に持っているものをもらえなかった、もしくは奪われたという経験があることが多いようです。例えば家が貧しく、なかなか欲しいものを買ってもらえなかった、暴力的な家庭で育ち愛情が受け取れなかったなど。今回のお話のように、自分の大切な夫を奪われた、自分が夫や家族のために費やしてきた時間や労力を台無しにされた、などの体験も該当すると思われます。このような経験があると、「自分が人よりも損をしている」という思いが生まれ、『心の空腹感』を抱きます。そしてそれを埋めるために「なんでもいいから得をしたい」という思いが生まれてくると考えられます。

恥ずかしかったってなんやの!?

──結婚し、夫の家庭を知ったチコさんは、母親のクレクレ行為を「恥ずかしい」と感じるようになっていました。しかしそんなチコさんから指摘されても、母親は逆ギレする始末。このような親子関係は子どもにどんな影響を及ぼしてしまうでしょうか。またチコさんの夫など近しい立場の第三者は、チコさんにどのように寄り添うことができるでしょうか。

白目さん:チコさんの場合は、先述した「おかしさ」への「気づき」はクリアしている段階であると思われます。これまでは母親と同じように振る舞っていたチコさんですが、自分が大切にしたいと思っている夫や義両親が、母親の「恥ずかしい行動」のせいで離れていくかもしれないと危機感を抱いたのではないでしょうか。チコさんは自分や母親の行動がどこかおかしいと気づいていたのかもしれません。

しかし母親は逆ギレ。恐らくこれまでも、チコさんに対して「私の考えは正しい」と言い聞かせていたのだと思われます。母親が「私は正しい、あなたは間違っている」と言い続けると、子どもは自分の考えや行動に自信を持てなくなってきます。すると「あれ?おかしい」と思ったとしても、そこで思考が停止して考えられなくなってしまい、抜け出すことは難しくなります。一種の洗脳状態と言えるでしょう。

ここで洗脳されていることに対して「あなたは間違っている」と伝えてしまうと、結局は母親と同じことをしているだけです。過去や現在を否定するのではなく「母親に教わってきた行動に加えて、更に良い行動を身につけていけばいい」という視点を持ちながら周囲が関わっていくことができると、チコさんも周りの助言を受け入れやすくなるのではないでしょうか。


父親の不倫、母親の涙。小さなころから「親の機嫌をコントロールする仕事」に囚われ続けてきたチコさんへのサポートとは

魔が差したんです…

──チコさんが子どもの頃、父親の浮気が発覚し離婚に至ります。気丈な母が涙する姿を見て「お母さんを支える」と決意したチコさん。
親に対して過剰に「自分がなんとかしてあげなければ」と思い込み続け、結果大人になってもおかしな行動をとってしまう人の心理と、そういった人に対して周囲ができる心理的サポートなどはありますか?

お母さん…泣いとる…!

白目さん:子どもは基本的に「自分はどんなことでもできる」という万能感に溢れています。万能感は好奇心や挑戦力、自信などを養うためには必要な感覚ですが、チコさんは母親の味方になって機嫌を取ることに成功したために、「自分は人の機嫌を左右できる」という、本来人間ができないことができると錯覚してしまったと考えられます。

最初の母親の傷つき(父親の浮気)はチコさんのせいではありません。でも「自分は人の機嫌を左右できる」と思い込んでしまうと、今度は母親が傷ついたり怒ったりするのも全て「自分のせいだ」と考えるようになることも。次第に「母親の機嫌をコントロールする仕事」を自分の責務とし、母親の機嫌を基準にして物事を考えるようになるので、周りから見るとおかしな行動に繋がってしまう、といったことがあるのではないかと思われます。

私の大好きなお母さん

チコさんは1人でその役目を抱え続けてきました。
子ども時代のチコさんに周囲の人ができるサポートとしては、「母親の機嫌をコントロールする仕事」を子どもだけに任せないことです。本来なら母親のケアは周りにいる大人がやるべきだったと思います。

もうとぼけんのやめえ!

しかしそのサポートが受けられないまま大人になってしまった場合、以下の3つのようなサポートをしていくのが有効です。
【1】「責任の分散」
協力者が多くなればチコさんが尻拭いをしたり、1人で抱え込んだりする重責から解放されやすくなるでしょう。
【2】「心からの共感」
恐らく母親の相手をすることで、協力者は疲れます。その気持ちをチコさんと共有できると、チコさんも苦しさを吐き出しやすくなると思います。また共感することで、第三者ならではの抜け出す視点が見つかるかもしれません。
【3】「チコさんが自分を客観視すること」
誰かに自分のしてきたことを説明すると、少しだけ自分を客観的に見ることができます。そうすると自分の行動の違和感やおかしさに気づきやすくなると思われます。

また、大人になりクレクレさんとなったチコさんに対しておかしさや間違いを周りの人が口で伝えるのは簡単ですが、大事なのはチコさん自身が自分で気づくことです。サポートする際はその視点を大切にしていただければと思います。

私が子どもの頃…


  *    *    *

大好きなお母さんが泣いてる、お母さんを支えないと…。子どもながらに母親を気遣ってきた思いから、チコさんは母親と同じクレクレ行為を繰り返してきました。この負の連鎖に気づき、断ち切るためには、周囲のサポートが不可欠。注意や指摘よりも「気づき」を与えられる存在が大事、と白目さんは話してくれました。
数々のクレクレ行為で周囲から信用を失ってきたチコさんは、その後夫の根気強いサポートで「気づき」を得ることになるのですが…。彼女のように人知れず苦しんでいる人の心を整理する上で、心がけておきたいことなのかもしれませんね。

【白目みさえさんプロフィール】
臨床心理士・公認心理師。心理カウンセラーとして精神科に勤務。漫画家としても活動。近著「子育てしたら白目になりました」が好評

取材・文=河野あすみ

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