壮絶…「鼻にフォークを刺された」。大切な人のはずなのになぜ?パートナーへ暴力を振るう心理について専門家の見解は
「実話?マジ?」
「めっちゃ怖い」
「読み始めたら止まらない」
「キツい話だけど続きが気になる」
……などのコメントが続々。彼氏との口論の果てに「鼻にフォークを刺された」という衝撃の実体験を描いたマンガが、SNSでも話題を呼んでいます。
これは、前田シェリーかりんこさんがSNSで発表した話題作『メンヘラ製造機だった私が鼻にフォークを刺された話』。かりんこさんが実際に体験した、目を覆うようなDV被害が描かれています。
どんなストーリーか、その冒頭を紹介しましょう。
『メンヘラ製造機だった私が鼻にフォークを刺された話』あらすじ
かつて『メンヘラ製造機』という異名を持っていたかりんこさん。趣味の弓道をしている間に、スマホには当時付き合っていた彼氏から「今どこ?」「返事しろ」「浮気してんだろ」などのメッセージが次々と届きました。
「面倒だな」と思いつつも、「こういうときは折れてサクッと謝るに限る」という対処法でことを収めようとしたかりんこさんは、彼氏の家を訪れました。すると彼氏は「弓道なんて嘘なんだろ」「他の男のとこにでも行ってたんでしょ?」と言い出します。そしてその場にあったリモコンを壁に投げつけたのでした。
冷静に話ができないと判断したかりんこさんは彼氏の部屋から帰ろうとします。上着と荷物を手にしたかりんこさんを、彼氏は突然両手で突き飛ばしました。
頭を強く打ったかりんこさんは意識を失いかけますが、このまま倒れていたらまずい……と、危険を感じると同時に怒りも湧き上がり、彼氏にタックルしてその身をなぎ倒し、「自分の人生見つめ直せば?」と捨て台詞を残して帰ろうとします。
しかし、彼氏は泣きながら手元にあったフォークを握りしめてかりんこさんにつきつけました。「別れるつもりなら返すわけにはいかない」と激昂します。それでも帰ろうとしたかりんこさんの鼻をめがけて、なんと彼はまっすぐフォークを刺してきたのでした…!
強く打った後頭部と鼻から出血したかりんこさんは、どうにか彼氏の部屋から逃げ出す方法を探します。スマホを彼の顔に投げつけ、彼に蹴りを食らわすと、その隙に部屋を飛び出し、玄関にあったゴルフバッグで追いかけてくる彼の足止めを図り、隣りの部屋に助けを求めるのでした……。
このあと、親切な隣人カップルの通報のおかげでかりんこさんはどうにか命を救われるのですが、入院したあとも記憶の一部を失ったり、加害者親族との示談交渉に苦しめられたりなど、さらに過酷な現実に立ち向かうことになります。
男女共同参画局の2020年の調査によると、女性の約4人に1人、男性の約5人に1人は配偶者から暴力を受けたことがあるとのことです。なぜこのようなことが起こってしまうのでしょうか。
心理カウンセラーの白目みさえさんにお話を伺いました。
「好きな人」のはずなのに…パートナーを傷つけるのはなぜ?
──『メンヘラ製造機だった私が鼻にフォークを刺された話』は、ささいなことをきっかけに彼氏が暴力をふるってきて、大ケガを負うという衝撃的な事件を描いたエピソードです。暴力を振るうというのは、絶対にしてはいけないことですし、パートナーは好きな人であり、大切な人なはず。なぜそういったことを起こそうという心理状態になるのでしょうか?
白目みさえさん:
「私たちは『好きな人のことは大事にしましょう』と教わりますよね。でも『大事にする』というのは人によって色んな方法があります。たとえば、好きな人からもらったプレゼントを大事にしようと思った場合。身につけていつも持ち歩く人もいれば、傷つけないようにしまい込む人もいます。
ですので、歪んだ捉え方をしてしまう可能性もなくはないのです。
彼の場合、パートナーが決して自分から離れていかないよう、暴力などで支配して絶対に逆らわないようにして自分の手元に置き続けようとした結果であったことが考えられます。絶対にしてはいけないことなのに、彼にとってはある意味『大事』にしているつもりであり、愛情表現のつもりなのではないでしょうか。両親からもそのような『支配』をされ、それを『愛情』だと捉えている可能性も考えられます。
──パートナーが機嫌を損ねて暴言を吐いたり、行動にDVの片鱗が見えてきてしまった…という場合もあると思います。客観的に見ると「離れる」必要があると思いますが、恋人であったりする場合は相手に対して気持ちの整理がつかない方もいるかもしれません。自分が置かれている状況を悪化させないためにも、自分の心をどのように整理していけばいいのでしょうか。
白目みさえさん:
「パートナーからのDVは必ずと言っていいほど悪化していくでしょう。落ち着くことはほとんどないといっていいと思います。1発叩いて相手が謝った、ということがあれば次からはすぐに1発叩くでしょう…。そこで逆らえば2発。そうなると次は最初から2発叩くことになると思われます。そして怒る頻度、暴力を振るう頻度はどんどん高くなり、2人だけで一緒に過ごす時間が長くなればなるほど修復も改善も難しくなるでしょう。
そういった状況から脱するためにも、被害者が『DV被害者である』と自覚することがとても大事です。残念ながら、加害者は自分が加害者であると思っていません。つまり、『被害者』も『加害者』もいないことになり、どれだけ酷いことが起きていても止まることも良くなることもありません。ですので、まずは『自分はDV被害者である』と認め『今DVが起きている』という状況を自覚する必要があります。
自覚ができたら、離婚や別れまで決意できていなかったとしても、まずは距離を置くことが必要です。実家に帰ることで物理的な距離を置く、第三者や専門家に相談することで精神的な距離を置く、どちらも有効です。安全な場所でこれからどうしていけば良いのかを落ち着いて考えていきましょう。
危険なので『距離を置きます』と目の前で宣言することは絶対にやめてください。迷ったり悩んだ場合は、必ず専門家に相談してください」
──ケンカや口論などをきっかけに相手を傷つけるような発言をしてしまった経験がある、という人も少なくないかもしれません。パートナーとよい関係を構築していくためにはどういったことが必要になるのでしょうか。
白目みさえさん:
「まず『相手を傷つけてしまっているかもしれない』と加害者の立場で自覚をする、というのは稀なことです。自覚がないまま加害者となり、被害者側も意識しないまま状況が悪化していくことがほとんどだからです。
自ら加害者かもしれないと自覚したのであれば、その難関をクリアできたことにはなります。問題が自分の中にあると思えた時点で自分に向き合えていますが、自分の心に向き合うというのはなかなか難しいものです。カウンセリングや専門の相談所などのフォローが必要になります。相手を大切にするということはどういうことなのか、しっかり考えていただくことが大切です」
* * *
DVについて専門家に相談したいけど、どこに相談したらいいかわからない……という方は、「DV相談ナビ #8008(はれれば)」にお電話でお問い合わせください。こちらは全国共通の電話番号で、最寄りの相談機関の窓口に電話が転送されます。また「DV相談+」(https://soudanplus.jp/)でも、24時間メールや電話、チャットで相談を受け付けています。
マンガ=前田シェリーかりんこ著『メンヘラ製造機だった私が鼻にフォークを刺された話』より
取材・文=レタスユキ
Information
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