運命の下着をきっかけに自分を取り戻していく女性たち。『ランジェリー・ブルース』作者がいま伝えたいこと

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34歳・派遣社員のケイ。立ち行かなさを感じていた人生に、ある衝撃的な出合いが訪れて…

これまで生きてきた中で「あなたの人生のターニングポイントはいつでしたか?」と聞かれたら、あなたはどう答えるでしょうか。学校や職場での出会い、旅行先の風景や、何気なく耳にした音楽。はたまた妊娠・出産で人生が変わった!という人もいるかもしれません。

では、たとえばそれが「下着」だったとしたら…どうでしょうか。

『いってらっしゃいのその後で』『君の心に火がついて』などで知られる人気イラストレーター・漫画家のツルリンゴスターさんが描いた新著『ランジェリー・ブルース』は、閉塞感を感じていた主人公の人生が「下着」との衝撃的な出合いによって劇的に変化していくというもの。

下着で人生が変わるって…?と気になった方に、まずはあらすじをご紹介!

『ランジェリー・ブルース』はこんなお話

何とかしてくれよ…

もう次の仕事先決まってるんです?

34歳、派遣社員の深津ケイ。派遣の契約満了が間近に迫るなか、周囲からはやりがいを求められない仕事を振られ、自分よりずっと年下の正社員から屈託なく励まされてしまう…。そんな報われない日々に鬱屈した思いを抱えていました。

そんなに頑張らなくてもいいんじゃない

そこまで期待されてないでしょ

なんでこんなに 自分が遠いんだろう

ケイには7年来の恋人がいますが、決して『結婚』の二文字を口にすることはありません。ケイもまた先の見えない生活ゆえ、行き詰まりを感じつつも、彼氏との惰性的な関係に甘んじていました。

何してるの?

絶対気に入ると思う!


これから先もずっとこの生活が続くのかと思い悩んでいたケイ。そんな閉塞感漂う彼女の日常が動き出したのは、同僚のすすめで訪れた下着店『タタン・ランジュ』での、一枚の下着との出合いだったのです。

たったひとつの下着で自分が一気に近づいた

まさに運命と呼べる下着との出合いを果たした彼女は、新たな人生のステップを歩き出すことに…。


「人生でいちばん下着店に行った1年でした」と仰るほど、徹底的な取材に基づいて本作を描き切ったという著者のツルリンゴスターさん。監修には伊勢丹新宿店の初代ボディコンシェルジュとして、日本のランジェリー業界を牽引されてきた松原満恵さんを迎えられています。「下着と人との出合い」という唯一無二とも言えるテーマを題材にされた本作について、その制作背景をツルリンゴスターさんにお聞きしました!

ツルリンゴスターさんインタビュー

――さまざまな女性の悩みやモヤモヤを解消していくきっかけが、毎日身につける「下着」だというところに意外性を感じました。下着選びは日々の生活の中でつい後回しにしてしまっている人も多いと思います。漫画内にも登場する「たかが下着、されど下着」という言葉は、どのような思いから出されたのでしょうか。

ツルリンゴスターさん:私もそうでしたが、下着は服の下に身に着けることもあり、興味が向かないとメイクや服に比べて後回しにされがちです。でも、本当に自分のからだにフィットする下着に出会えたとき、自分のからだを再認識するような感覚になります。心とからだって別々で考えてしまいがちなんですけど、つながってるんですよね。

例えば心がなんとなく疲れているとき、原因がわかって心の状態が掴めると少し元気になることがあります。それに比べて、自分のからだが今どんな形なのか、ちゃんとわかってるってあまりないんじゃないでしょうか。どちらかというと見て見ぬふりをしがちというか。

でもぴったりの下着を着けたとき、ケイも言っていましたが「私のからだってこんな形だったんだ」と、からだと自分がつながる。そのときに不思議と迷子になっていた気持ちも着地するような気がするんです。
後回しにしてても別に生きてはいける「たかが下着」、でも向き合えば自分をつかむ助けになる「されど下着」、そういう意味でこの言葉をのせました。

私が私をつかまえた感覚



――ケイが初めてタタン・ランジュを訪れたときのリアクション(高級店に迷い込んでしまったようで緊張してしまう)部分に思わず共感してしまいました。下着専門店は敷居が高い…という認識もまだ根強いものがありますが、ツルリンゴスターさんご自身が実際に取材された際、どんな印象を持ちましたか?

ツルリンゴスターさん:今回漫画を描くために、この1年は人生で一番下着店に行ったと思います(笑)。個人で経営されているセレクトショップ、インポートブランドのお店、モールや百貨店まで、今まで全然知らなかったんだなあと思いました。ほとんど取材ではなくお客さんとして見に行って、お話できそうだったら「今漫画を描いていて…」とお伝えするくらいで、自分の好きな商品を見つける目的で行っていました。こまごまと集めて、今は素敵なランジェリーライフです。

スタッフさんにより対応はさまざまです。どの方も自分だけの販売経験や知識を持っておられて、フィッティングも同じスタイルがなかったところが面白かったです。

ある百貨店ではタタン・ランジュのように次々に商品を持ってきてくださいましたし、あるセレクトショップでは欧米以外のさまざまな国のランジェリーを見せてくださいました。インポートブランドのお店ではレザーの上下を着た私より10歳は若い方が「ん~サイズあげたほうがいいですよ」とツンとした感じで渡してくれて、それが合うと「めっちゃいい感じですね」とニコっと笑うので嬉しかったです。

お店ごとのアプローチを楽しむ気持ちで、安心して自分の好きなお店を見つけていただいたらと思います。

いつものブラ買うお店と違う…



――監修・松原満恵さんとやり取りされた中で印象に残っている言葉がありましたら、ぜひ教えていただきたいです。

ツルリンゴスターさん:松原さんとお話していると随所に名言が出てくるので選ぶのが大変です。
「下着(の販売)をやってきて思うのは、一日の最初に肌にのせるのが下着でしょう。その下着が『ぴったりだ』と、そこから始まるのよね」という言葉が印象的でした。漫画内のセリフにも使わせてもらっています。

松原さんは長く下着販売に関わっておられ、日本で一番フィッティングを経験された方ですが、「答えはお客様が持っている」ということを常に大事にされていて、今回お話が聞けて本当に良かったです。

ランジェリーは1日の最初に肌の上にのせるもの



――さまざまな要因でおしゃれや美容関係に疎いまま大人になっている人も少なからずいて、下着をフィッティングして買うことに抵抗を感じる人も多いと思います。作品を読むと、そういった方々に寄り添うようなエピソードも多く、とても勇気付けられるものでした。広く経験談などを集められたのでしょうか?

ツルリンゴスターさん:「この下着を買えばOK」という伝わり方にならないように、担当編集さんとたくさん意見交換しました。いろんな要因で下着にアクセスできない、しにくい人がいることはもともと考えていましたし、下着の素晴らしさを伝える前に、まずは「下着」についたイメージの呪い(男性を喜ばせるもの、若い人が楽しめるもの…等)を解きほぐす必要がありました。

ドレスが着たいご婦人のお話は、松原さんにいただいたエピソードを私がキャラクターを作って発展させた話です。他のお話は、取材はしていませんが、生活している中で下着やからだに関して他者からふりかけられる言葉がきっかけになるエピソードなので、共感できるものになったのではないかと思います。

丈を直せばまだ着られるかな




――読者さんへのメッセージをお願いできますでしょうか。

ツルリンゴスターさん:ランジェリー・ブルースを読んでいただきありがとうございます!読んだあとに、次買うときは少しだけこだわって下着を選んでみようかなとか、自分のからだにちょっと優しくなってみようかなと思ってもらえたらとても嬉しいです。

連載の後半で担当さんと話していた時、「自分を上手に大事にできる人は、他人を大事にするのも上手なのかもしれない」という話になりました。今もときどきその言葉を思い出します。

下着でも、下着じゃなくても大丈夫、自分を大事にできる方法がひとつでも増えますように。

死ぬほど私に似合っていた


      *     *     *

ケイをはじめ、終活や子育てなど、さまざまな背景を持った女性が登場する「ランジェリー・ブルース」。下着から始まる「自分を取り戻していく」ストーリーの数々は、「もっと自分を大事にしていいんだよ」「一歩踏み出すことに、立場も年齢も関係ない」と勇気を与えてくれるものばかり。そして彼女たちの「人生の転機」となる瞬間が鮮やかに切り出されています。
日常のなかでふと自分を見失ってしまったり、つい自分を後回しにしてしまう…。そんな心の負荷をふっと軽くしてくれるような物語です。


取材・文=河野あすみ

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