「衝撃のフィッティング体験」下着業界の神・松原満恵さん×『ランジェリー・ブルース』著者・ツルリンゴスターさん対談で明かされる作品誕生秘話

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 『ランジェリー・ブルース』より

下着専門店の試着室で起こる女性の心の変化を繊細に描いた『ランジェリー・ブルース』。SNSを中心に話題を集め、登場人物に共感する声が数多く寄せられています。

今回、作者のツルリンゴスターさんとこの作品の監修である伊勢丹新宿店マ・ランジェリーの初代ボディコンシェルジュ*の松原満恵さん(2015年に退職)の対談が実現しました!

*現在の名称はランジェリーコンシェルジュ。

インタビュアーは国内外の下着を25年以上取材するランジェリーライターの川原好恵さんです。下着のプロならではの一歩踏み込んだ質問を通し、作品の誕生秘話や伝えたいメッセージなどたっぷり語っていただきました。

『ランジェリー・ブルース』あらすじ

『ランジェリー・ブルース』より

34歳、派遣社員の深津ケイ。派遣の契約満了間近の日々。7年付き合っているが「結婚」を言い出さない彼氏…。これから先もずっとこの生活が続くのかと悩んでいた彼女は、とある下着店で自分にぴったりの下着と出合い、新たな人生のステップを歩き出すことに。

  『ランジェリー・ブルース』より

人生を変える「出合い」を通して主人公の成長を描きます。

キレイになった理由は、新調した下着!?

 伊勢丹新宿店マ・ランジェリーの初代ボディコンセシェルジュの松原満恵さん、著者のツルリンゴスターさん、インタビュアーのランジェリーライター・川原好恵さん


ツルリンゴスターさん(以下、ツルリンゴスター):
松原さん、お久しぶりです!初めてお会いしたのは昨年6月ですから、約1年半ぶりですね。松原さんに取材させていただいてスタートした『ランジェリー・ブルース』が書籍化され、報告を兼ねてこうして再会することができました。本当にありがとうございました。

松原満恵さん(以下、松原):
あなた、初めてお会いした時も素敵だったけれど、より素敵になられたんじゃない?

ツルリンゴスター:
松原さんに取材してから、資料集めも兼ねて下着をいくつか新調したんです。その下着の力かもしれませんね(笑)

川原好恵さん(インタビュアー。以下──):
まずは、お二人の出会いからお聞かせください。

ツルリンゴスター:
編集者さんから「下着をテーマに描いてみないか」との話をいただき、伝説のボディフィッター松原さんに取材のアポを入れて、伊勢丹新宿店のマ・ランジェリーで待ち合わせしました。松原さんは既に引退されていましたが、特別に編集者さんと私にフィッティングしてくださいました。その時の衝撃がすごかったんです!

『ランジェリー・ブルース』より

松原:
下着のフィッティングとはどんなものか、どんな接客をするのか、体験していただいた方がわかりやすいですからね。その時の2人の意気込みはもうすごくて、調子に乗せるのが本当にうまかったので、持っているものを全て吐き出しました(笑)。

自分でコレだ!と決まった瞬間、表情が変わる


『ランジェリー・ブルース』より

──私はその話を知りませんでしたが、読み始めてすぐ、本作の舞台となる下着専門店のカリスマフィッター柳真智のモデルは、きっと松原さんだ!と思いましたよ。

ツルリンゴスター:
川原さんも松原さんのことをご存知だったんですね。

──もちろんです! 2006年に、ボディコンシェルジュについてインタビューもしていますし、下着販売員の神のような方ですから。「衝撃がすごかった」とは具体的にどういうことでしようか?

ツルリンゴスター:
松原さんはフィッティングの時、私の顔をジッと見るんです。その後の取材で、「自分でコレだ!と決まった瞬間、表情が変わるのよ」と話してくださり、だからあんなにジッと顔を見られたのかとわかりました。あと、編集者さんのフィッティングを見られたのも大きかったですね。編集者さんは私と全く違う体型ですごく華奢なんです。華奢な人ってこういう感じでフィッティングするんだ、似合うブラがこういう形になるんだ、とそれも衝撃でした。プロのボディフィッターは、本当にいろんな体を見て経験を積んでいるんだと知りました。あの時、自分だけのフィッティング体験では、作品は描けなかったと思います。

試着室はドラマが生まれる場所だと教えてもらった

『ランジェリー・ブルース』より


──その衝撃がなければ『ランジェリー・ブルース』は誕生しなかったということですね。

ツルリンゴスター:
松原さんは、下着にまつわる言葉選びがすごくお上手で名言がどんどん出てくるので、それを描写すれば作品はできたと思います。ただ「下着はあなたを喜ばせるもの、あなたを豊かにするもの」と言う話だけで終わっていたでしょう。試着室はそれを実感できる場所、ドラマが生まれる場所だよ、と教えてもらったのはあの時間ですね。 

──下着をテーマに描かないか?と言われてどう思いましたか?

ツルリンゴスター:
正直、下着に興味を持ったことないな、と。産後からずっとハーフトップで、ショーツも伸びきったものをはいているような私が下着……? となったけれど、松原さんの様々なインタビュー記事を読むと本当に面白くて、自分の中に「楽しそう」と思わせる何かが生まれたんです。それは、ギフトをもらった感じでした。

松原:
はじめてフィッティングしたあの時は、「ラペルラ」を気に入って買ったのよね。

『ランジェリー・ブルース』より

ツルリンゴスター:
私は主人公深津ケイと一緒で、勝負下着は「男性を喜ばせるために着るセクシーで派手なもの」と思い込んでいました。ところが、松原さんに選んでいただいた「ラペルラ」のパッドのない薄くて美しいレースのブラを着けた時、「もっと着たい!」 と自分の中で考えが切り替わりました。そして、私が最初に持っていた華やかな下着に対する抵抗感は、下着に興味がない人が無意識に持っているんだと気付きました。それは私が今まで描いてきた、日常生活の中での尊厳や人権に通じることだと気づいて、そこを掘り下げて書けば漫画になる、と思ったんですよね。

心と体のつながりが、下着を描く上で大切


『ランジェリー・ブルース』より

──ところで、松原さんがモデルの柳真智は穏やかで優しい一方、相棒の大谷蘭子は厳しくて強面。彼女にもモデルがいるんですか?

ツルリンゴスター:
フイッティングした時、松原さんと現役のランジェリーコンシェルジュさんの会話を聞いていて、対照的な2人を登場させたら、その掛け合いで面白くなるかなとひらめきました。ただ、モデルは松原さん1人です。松原さんのキャラは極彩色。長年の経験から生まれる安心感と少女のようなかわしらしさや無邪気さがある一方、プロフェッショナルならではの厳しさやシビアな面もある。その二面性を自分の中で盛り上げていって、2つのキャラクターに分けました。

松原:
ああいうキャラって、ファッション業界でプライドを持って仕事をしているベテランにいるわよね(笑)。

──確かに(笑)!下着をテーマに描くにあたり、心掛けたことはありますか?

ツルリンゴスター:
編集者さんと話し合っていたのは「いい下着をつければ、普段あなたが感じているモヤモヤが全部晴れて、ハッピーになれるよ」という物語にはならないように、ということです。その下着を着けることで、自分のコンプレックスや置かれている状況にどう向き合っていくかという心の動きを、下着という軸を通して見せていくことを大切にしました。

──下着で全てのことが解決するほど、女性の人生は簡単なものじゃないですものね……。

ツルリンゴスター:
一話で主人公のケイが、初めて柳に選んでもらったブラジャーを着けた時「私の体って、こんな形だったんだ」と言うセリフがすごく大事だと思っています。元気がない時に、心の状態を俯瞰して確認すると心が少し軽くなるのと一緒で、今まで自分の体を見て見ぬふりをしてきたけれど、今の自分の体に気づくと、ストンと着地できる感覚。そんな心と体のつながりが、下着を描く上でとても大切なのだと、描きながら思いました。

『ランジェリー・ブルース』より


インタビューを終えて……
下着に対して知識も興味もなかったツルリンゴスターさんが松原さんと出会い、その言葉とフィッティングに導かれながら下着のチカラを知っていく……この作品は、本当に試着室から誕生したのですね! まっさらな状態で松原さんの懐に飛び込み、真摯に取材を重ねたからこそ、多くの人が共感する作品になったのだとお二人の会話を聞いて実感しました。

取材・文=川原好恵(ランジェリーライター)
イラスト・漫画=ツルリンゴスター

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