普通の親が「毒」に変わるとき。「毒親」問題を描く話題作の著者・しろやぎ秋吾さんインタビュー
子供の成長に悪影響を及ぼす「毒親」。暴力や虐待といった誰の目にも明らかな行為だけでなく、過度な干渉や管理などをする親も含まれるとされています。
漫画「すべては子どものためだと思ってた」は、毒親をテーマにした作品。主人公である38歳のくるみは、息子を愛する普通の主婦でしたが「子どものため」という思いを暴走させ、子どもを傷つけてしまうにいたります。
なぜくるみは「毒親」になってしまったのか。まずは、この物語のあらすじをご紹介しましょう。
「息すべては子どものためだと思ってた」あらすじ
くるみと夫・けんじの息子、こうたは小学3年生。未熟児として生まれ、体が弱く自己主張もあまりしないためか、同級生には下に見られがちです。
そんな息子を心配し、あれこれ世話を焼くくるみですが、その様子が夫には「過保護」に見えるようです。「もしものときは そのときに困ればいい」と言う夫は、子どもを中学受験させることにも反対のよう。
子どもを比較するのではなく、ありのままを愛するべき、その思いはくるみも同じです。
ただ、くるみは、こうたが未熟児で産まれたことに対して「体の弱い子にしてしまった」という罪悪感を持っていました。
その思いが、「こうたはこうたでいい」と思ってはいても、息子が生きやすくなるためにできることがあるならしてあげたいという「過保護」な思いにつながっているのです。
仕事に忙しい夫にも義母にも頼れないくるみは、孤独感と罪悪感を深めていきます。そんな彼女を助けてくれたのは、スマホでした。日夜、育児で不安なことを検索し、有益な情報を探しまわり、こうたと同じ年ごろの子をもつママが書くブログにもハマりました。
スマホで得た情報で中学受験を意識するようになったくるみは、中学受験のための塾にこうたを通わせることに決めました。
そうして、こうたは小学校5年生になりました。新しい友達もでき、塾に慣れてきたこうたをサポートするため、くるみはスマホでの情報収集に余念がありません。
こうたの塾での成績やスケジュールを把握し、勉強時間を管理するのもくるみの重要な仕事になりました。
友だちともっと遊びたいこうたは不満そうですが、中学受験という目標のために、一緒に頑張る覚悟を決めたくるみは熱心にサポートします。その結果、こうたの成績は順調に伸びていました。
しかし、こうた6年生の夏。塾のテストの成績が3回連続で下がってしまいました。
こうたのゲームの時間もなくし、削れる時間はすべて勉強に充てています。さらにくるみは家事や家族の世話もあと回しにして、こうたの勉強にのめりこんでいたのです。
こうして迎えた中学受験。「油断するのが一番こわい」というネットの情報をもとに、くるみはこうたに滑り止めを受験させないことにしました。
そして迎えた受験翌日の合格発表。
こうたの合格を信じて疑わなかったくるみですが、合格者発表の掲示板に、こうたの番号はありませんでした。
しろやぎ秋吾さんインタビュー
――くるみは情報収集のために、家庭のことを犠牲にしてまでスマホで検索しています。彼女にとってスマホはどんな存在だったと思われますか?
しろやぎ秋吾さん
「調べればどこかに必ず答えがある信頼できる存在だったのではないでしょうか。彼女のスマホの画面いは、理想の世界が広がっていたんだと思います」
――こうたは、母親の過度な愛情に息苦しさを感じていきます。彼は暴走していく母親をどう見ていたと思いますか?
しろやぎ秋吾さん
「こうたは体のことを何度も言い聞かされ自尊心が低いですが母親のことは信頼しています。中学受験でも母の期待に応えなければ、母の悲しむ顔を見たくないと思っていると思います」
――くるみの夫・けんじは、くるみから「夫は立派だと思う けど幸せには見えない」と見下されているようにも感じます。けんじは何を感じていたと思いますか?
しろやぎ秋吾さん
「男は外で仕事、女は家庭を守るという、かなり昭和的な考え方の夫です。一方、こうたが体が弱いこと、仕事に逃げて育児から目を背けたことについて、罪悪感を持っていると思います。こうたの幸せも願っています。でもお酒がないと妻に口出しはできません。一緒に悩めと言われるのが怖くてずっと逃げています」
そんな夫との関係もあってか、子どもへの干渉を必要以上にエスカレートさせてしまったくるみ。彼女の行き過ぎた「子どものため」という思いは、家庭内に緊張感と不協和音をもたらすことになりました。
くるみの行動は結果として家族を苦しめてしまいますが、「絶対に彼女のようにはならない」と言い切れる人はどのくらいいるのでしょうか。
この作品に分かりやすい答えが書いてあるわけではありませんが、すべての親が直面するかもしれないこの問題に対しどう向き合えばいいのか、考えるきっかけにしてみてはいかがでしょうか。
文=山上由利子
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