『痔だと思ったら大腸がんステージ4でした』著者が泣きながら漫画を描いた理由

#趣味   
大腸がんです

レタスクラブWEBでの連載が累計700万PVを超えたコミックエッセイ「痔だと思ったら大腸がんステージ4でした 標準治療を旅と漫画で乗り越えてなんとか経過観察になるまで」。大腸がんステージ4と診断された作者のくぐりさんが、約2年間の治療をしながら、四国八十八か所を巡る旅をしつつ、漫画家デビューし、経過観察に至るまでの日々を描いた作品です。

くぐりさんは、がんという深刻な病気を、家族とのふれあいや旅、そして漫画にパワーをもらいながら前向きに克服しました。SNSには、その姿に「励まされた」「闘病の経過が分かって参考になった」という声が多く上がっています。くぐりさんに、漫画のこと、闘病中のことについてお話を伺いました。

【あらすじ】お尻に激痛と出血…痔の手術をするも再び血が止まらない

はじまりは2017年

いまから約7年前、お尻の激しい痛みと出血のために向かった病院でくぐりさんに下された診断は「いぼ痔」でした。しかも重度のいぼ痔だったため、即入院&手術することに。

いぼ痔の治療は過酷でしたが、退院後はお尻から出血することもなくなり、健康なお尻を手に入れたと喜んだくぐりさん。ところが、その2年後…、お尻から再度出血していることに気づいてしまったのです!

お尻の血は痔に違いない

くぐりさんは2年前の痔の経験を通して、お尻の出血は痔によるもの、思い込んでしまっていました。

当時、くぐりさんは昼間の事務の仕事に加えて夜は家事、休日は似顔絵講師などで毎日忙しく、自分の体をかえりみる時間がありませんでした。さらにくぐりさんには「漫画家になる」という夢があり、その達成のために寝る間を惜しんで活動していたのです。

忙しいので後回し

お尻からの出血に加え、くぐりさんの体調に新たな変化が現れたのは、そんなときでした。
仕事を終えて帰宅すると、微熱が出るように。そのため子どもの塾の送迎に遅れてしまうこともありました。

体の異変

血の量もドンドン増えていった

お尻からの出血量の増加など、度重なる異変に不安を感じ、くぐりさんは健康診断を受けることにします。

一通りの検査をしましたが、結果は「異常なし」。健康診断で問題が見当たらなかったことで、くぐりさんは、お尻の血は痔に違いないと信じきってしまいました。

そして2020年2月、くぐりさんが実家でトイレを使った後、便器が血まみれになっていたのを見て驚いた実母は、くぐりさんに病院に行くことを強くすすめます。

血まみれのトイレ

そこで、約3年ぶりに肛門を受診したくぐりさんですが、担当医師の口からは「痔にはなっていない」と予想外の所見が…!

痔にはなってないよ

内視鏡検査してみる

担当医の助言に従って、もっとくわしく調べるための大腸内視鏡検査を受けることにしたくぐりさん。しかしこの内視鏡検査で、さらなる衝撃の事実が明らかになるのです…。

グロテスクな何か


漫画家くぐりさんインタビュー

――漫画には、病状と標準治療の内容が詳細に描かれていて、具体的な経過やくぐりさんのお気持ちの変化がよくわかりました。今回、こうした構成にした理由は何だったのでしょうか?

くぐりさん
「治療記録を時系列に描いていこうと思い、この構成になりました。SNSに私のがん治療記録を細かく書き記していたので助かりました。そして自分の気持ちも正直に描こうと決めていました。死にたくないと泣き叫ぶみっともない自分も全部描きました。描いてるときは当時の気持ちを思い出していたので、泣きながら描いた時もあります」

本音を言えるのは


――抗がん剤の投与は、主治医の提案する治療方針を受け入れて進めてらっしゃいましたね。それは、主治医への信頼があったからだと思いますが、医師との関係はどのように構築されたのでしょうか?

くぐりさん
「主治医はクールで、血液検査の結果やCTの結果をたんたんと告げるタイプ。根拠のない励ましなどは一切しない方です。しかし、主治医と私とは歳が近くこどもの年齢も似ていたからか、『くぐりさんはお若いのでどうにか…どうにか、がんばってほしい』とポツリとこぼれる言葉に励まされました」

40代になったら


――闘病中に四国八十八か所を巡ろうと決断された一番大きな理由は何ですか?

くぐりさん
「主治医に余命を聞いた時に、私の病気の状態だと平均余命は2年半と聞いたからです。徳島の育ちで、こどもの時から気候の良い日はお遍路さんが道を歩く姿をよく見ていました、なのでせっかく四国に住んでるんだから私も40代くらいになれば巡ろうかな、と漠然と思っていました。義両親が公認先達(※)をしていたこともあり、余計に思いはつのっていきました。しかし2年半の余命なら40歳になることもできないと気づき、死ぬ前にやりたかった事をしよう!と思いました」
(※)「(一社)四国八十八ヶ所霊場会」に公式に認められた先達(お遍路についての知識を持ち 参拝者に道案内や助言を行う人)のこと

お母さん見て


――ご主人様や息子さん、ご両親や義両親といったご家族とのエピソードもたくさん描かれていましたが、治療前後を通じて、くぐりさんにとって一番心の支えになったご家族とのやりとりは何でしたか?

くぐりさん
「家族がただ私のそばにいてくれたことが、一番の心の支えでした。『私が死ぬ時、何が一番嫌なんだろう?』と考えたときに、身体的には苦痛が一番嫌だけど、心理的には大好きな家族と同じように時間を過ごせなくなることだと気づいたのです。なので、なるべく側にいてね、と家族には言っていました。家族と旅したりして過ごした、楽しい思い出いっぱいに囲まれて逝きたいと思っていました」
    *      *      *

現在は「経過観察」状態になったくぐりさんですが、がん宣告前後の気持ちの変化や抗がん剤治療の過程は壮絶でした。

「ちょっと体調が悪いけど、病院に行くのは時間がもったいないしな…」なんて考えてしまうことは、誰にでもあること。でも、大切な人のためにも、自分の体と向き合うことは必要ですね。仕事に家事に奮闘中で自分の体を後回しにしがちな世代の方にこそ、読んでほしい作品です。

取材・文=山上由利子

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