
マリちゃんの話によると、リカコさんは関係のないほかのママ友に、サキが突然家にやってきて言いがかりをつけてきたと泣きながら訴えたそうです。それを聞いたママ友たちは憤慨し、子どもも含めてかかわるのはやめようと決めたというのです。

しかしマリちゃんは、サキが理由もなく人を泥棒扱いするような人間ではないと信じていると言い切ってくれました。その言葉に勇気をもらったサキに、その日、夫が衝撃的な事実を告白してきました。
ママ友は夫のデート相手だったなんて
「思い出したんだけど…リカコさんと…知り合い…なんだ」と話しはじめたケン。リカコさんは10年近く前に一緒に働いていた派遣社員で、プロジェクト仲間だった二人は何度かデートを重ねたそうです。しかしその後、別の女性と付き合いだしたケンに、リカコさんは激怒しました。
それからというもの、ケンの当時の彼女の私物がなくなることが多くなったと言います。不審に思った彼女が見回りをしていると、ロッカーをあさっているリカコさんを発見…!

その経緯はケンを経由して会社の上司にも伝わりました。そうして派遣社員だったリカコさんは、「契約満了」という形でケンの会社を去ることになったのです。

リカコさんは最後に、ケンや当時の彼女に暴言をまくしたてたそう。この一件で会社に居づらくなったケンは、やむなく転職することになりました。
この日まで真実を言い出せなかったこと、すべてをサキに抱え込ませたことを謝罪する夫に、サキはリカコの自宅に行って話をし、過去を清算することを提案します。そうして到着したリカコさんの家で、夫は彼女にまだ怒っているのかと問いました。
するとリカコさんは、やはり怒っている様子で心の内を話し始めました…。
偶然ではなかった⁉ ママ友との出会いの真実
彼女が言うことには、当時28歳だったリカコさんにはプロポーズしてくれた婚約者がいました。しかしなかなか話が具体的に進まず悩んでいた彼女の心の隙間に入ってきたのがケンでした。
「…俺だったら絶対幸せにするのにな」というケンの言葉を信じ、リカコさんは婚約者との別れを決めましたが、その直後にケンの態度が豹変。彼はほかの女性と交際しはじめていました。

若くて独身、役職もついていたことでかなりモテていた当時のケンは、いろいろな人とデートを楽しんでいました。ケンにとってみれば、リカコさんもそんな女性のうちの一人に過ぎなかったのですが、リカコさんは真剣にケンとの将来を考えはじめていました。
自分だけでなく、何人もの派遣社員がケンに泣かされていたと訴えるリカコさんは、ケンに対し「お前は人のことを舐めすぎだろ!!」と激昂するのでした。
ケンの会社を辞めたリカコさんはその後、現在の夫と出会い、子どもも授かります。しかし、孤独な育児生活のなかで、幸せそうなケン一家をたまたま見かけ、うらめしく思うようになります。SNSでケンを特定し、その妻のサキにアプローチしてきたというわけなのです。

ママ友トラブルのカギを握る人物
過去のあやまちを誠心誠意わびろと詰め寄るリカコさんに、ケンが頭を下げようとしたそのとき、現れた人物がいました。リカコさんの夫です。

彼は深々と頭を下げ、ケンとサキに謝罪してきたのです。
「このたびは妻が多大なる迷惑をおかけし、申し訳ありませんでした」
さらに彼は、リカコさんを制止したうえで、職場を追われたのはリカコさんにも非があったからで、ケンだけが悪いわけではないこと、恋愛はすべて思い通りにいくわけではないことなどを諭します。

これからもずっとリカコさんを支えていくつもりだ、と話す夫に心を動かされ、リカコさんは泣きながらケンとサキに謝るのでした。
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子ども同士がどんなに仲が良くても、その母親であるママ友のことは「知っているようで知らない」ものです。その関係性のあやうさ、あいまいさを具現化したかのようなこの作品には、人間関係の難しさをあらためて考えさせられました。

ストーリーもさることながら、ちなきちさんの臨場感あふれる描写もこの作品の見どころ。そして、夫とママ友との過去を知ってしまった主人公サキが、最終的にどのような決断をするのか…。結末まで見逃せない作品です。
文=山上由利子