妊娠・出産によるマタハラ◆あなたを守る法律
男女雇用機会均等法 第11条の3
職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等
第1項 事業主は、職場において行われるその雇用する女性労働者に対する当該女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法第65条第1項の規定による休業を請求し、または同項もしくは同条第2項の規定による休業をしたことその他の妊娠または出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものに関する言動により当該女性労働者の就業環境が害されることのないよう、当該女性労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
【解説】妊娠・出産で会社にいられない !?
妊娠・出産・育児休業などの事由をきっかけに、不利益な取り扱いをしたり、嫌がらせをすることを「マタニティ・ハラスメント」(マタハラ)といいます。
マタハラは法律でも禁止されており、被害にあった場合、会社の相談窓口や組合、各都道府県の労働局などに相談しましょう。
【手続き】マタハラの相談先
会社には、マタハラに関する相談窓口を設置する義務があります。まずはそちらに相談してみましょう。
しかし、相談しづらい、相談したのに動いてくれなかった、などの場合には、各都道府県の労働局へ相談し、職場へ助言や指導を行ってもらう方法があります。
それでもしつこく早期の復職を求められた場合や、復職を拒んだ結果、解雇や雇い止めなどの不利益な扱いを受けた場合には、労働局の「あっせん」を利用したり、裁判などを起こさざるをえない場合もあると考えられます。
事例
【CASE】契約社員です。妊娠したため、産休を取ると職場に伝えたら、来月予定されていた次の契約更新はしないと言われた。
【ANSWER】
契約社員で、そもそも雇用期間が数年間とされている場合でも、妊娠を理由とした雇い止め(契約不更新)は禁止されています。職場に対し撤回を求めましょう。
手続き 妊娠を理由とした雇い止めにあったら
まずは手紙やメールで職場に対して「雇い止めを了承・承諾しない」という意思表示をしておくことが必要です。
そのうえで、出産・産褥期を過ぎてから、職場に対し復職や賃金の支払いを求めて交渉や法的措置を考えることになるでしょう。
会社側の言い分として多いのは、「妊娠を理由にしたのではなく、雇用期間が満了したこと、勤務成績が不良だったことが理由である」ということです。
この言い分を覆すうえでは次のような資料が重要な証拠になりえるので、可能なかぎり準備しておくとよいでしょう。
● 自身の人事評価に関する書類
● 仕事の評価が記載されているメール、会話の録音
● 契約更新の予定や説明が書かれたメールや書類
これらの資料をそろえたら、職場に対して以下の点を伝えましょう。
● 雇い止めを承諾しないこと
● 以前と同じ条件で職場に復職させてほしいこと
● 子育てのために同じ条件での契約が難しい場合は、柔軟に契約条件を変更してほしいこと
● 復職できない期間の賃金を支払ってほしいこと
これに会社が応じないときは、まずは各都道府県の労働局が設けている総合労働相談コーナーへ相談し、労働局から会社に対してあなたを復職させるなどの助言・指導をしてもらいましょう。それでも会社が応じなければ、裁判等の法的手続きを検討しましょう。
事例
【CASE】出産して1カ月半。まだ体調がすぐれない。しかし会社から「人手不足なのですぐにでも復帰してほしい。別の人は出産後2週間くらいで復帰した」と連絡があった。言うとおりに復帰しないと元の業務には戻せないかもしれないとも言われた。
【ANSWER】
会社が出産後1カ月半で職場復帰を求めるのは、労働基準法違反です。体調がすぐれず勤務が困難であれば、会社にそのことを説明して断りましょう。それでもしつこく復職を求められたり、解雇などの不利益な取り扱いをほのめかすようなことがあったりしたら、各都道府県の労働局が設置している総合労働相談コーナーへ相談することもできます。
【解説】早期復職を求められたら?
労働基準法では、出産予定日前6週間以内で労働者が求めた場合と、産後8週間の間には、女性を働かせてはいけないという規定があります(第65条第1項、第2項)。会社から産後8週間が経過する前に職場復帰するよう求められた場合は、当然断ることができます。
ただし、産後6週間が経過しており、なおかつ本人が希望した場合には、復職をさせてかまわない、とされています。
早期の職場復帰を断ったときに、会社が「復帰後のポストがなくなる」「そのような人間を会社は求めていない」などと、職場復帰をしないことで不利益になることをちらつかせた場合には、労働基準法違反に該当するだけでなく、刑法上の脅迫罪や強要罪にも該当する場合があります。
著者:上谷さくら
弁護士(第一東京弁護士会所属)。犯罪被害者支援弁護士フォーラム事務次長。第一東京弁護士会犯罪被害者に関する委員会委員。元・青山学院大学法科大学院実務家教員。福岡県出身。青山学院大学法学部卒。毎日新聞記者を経て、2007年弁護士登録。保護司。
※本記事は上谷さくら著の書籍『新おとめ六法』から一部抜粋・編集しました。
著=上谷さくら イラスト=Caho/『新おとめ六法』