20万円までの所定の工事は対象になる
介護保険を使って自宅を安心・安全に整えよう
お笑いコンビ・メイプル超合金の安藤なつさんと、介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子さんの会話形式でわかりやすく「介護」のリアルと乗り切るコツをお送りします。
CHECK!
・段差の解消といった住宅改修は給付の対象
・福祉用具はレンタルが基本
安藤なつ(以下、安藤):私たち世代にとっては何でもない段差でつまずいたり、ドアノブの操作がしにくくなるといったことをはじめて目にしたときは、ちょっとショックを受けました。
太田差惠子(以下、太田):高齢者、中でも後期高齢者といわれる75歳以上の人の転倒事故は多く、8割以上が通院や入院が必要なレベルのケガを負っているといいます。しかも、その発生場所は半分近くが自宅。自宅を安心・安全な場所にすることはとても重要です。
安藤:最近はバリアフリーを意識した住宅も増えていますが、築年数が古い実家はそんなことまったく考えないで建ててますからね。
太田:そんなときは、介護保険を利用して住宅改修をするといいですよ。
安藤:介護保険って、サービスを提供してくれるだけじゃないんですね。
太田:改修場所や方法に制限があり、地域包括支援センターやケアマネジャーを通しての事前申請が必須です。介護サービスと同じように1~3割の自己負担で工事を行うことができますよ。工事代金の支給上限は20万円、両親ともに要介護認定を受けていれば40万円です。
安藤:段差をなくしたり、手すりを付けるだけで、かなり転倒の危険は少なくなるに違いないですね……。
太田:最近は、ベッドから車いす・トイレへの乗り移りの介助や立位姿勢の保持を助ける「移乗サポートロボット」もレンタルできますよ。また、介護保険では対象外ですが「階段昇降機」に補助を出す自治体もあります。
安藤:人の手による介護と、ロボットのサポートを受ける介護を両立できるなんで素晴らしい時代に入りつつありますね。しかも、レンタルなら、割安ですし、体の状態の変化に合わせて交換や返却も簡単ですしね。
太田:お風呂用のいすや腰掛け便座など、肌に直接触れるためレンタルに向かないものについては、年間10万円までの購入費用が介護保険の対象となります。自己負担額は介護サービスと同じ1~3割です。
安藤:介護保険って、いろいろ頼りになるんですね。
安藤:住宅改修って、具体的にどんな工事ができるんですか。
太田:支給対象となる改修内容はあらかじめ決められていて、手すりの取り付けや段差の解消をする人が多いですよ。それに道路から玄関までの通路、浴室、トイレなどの改修もできます。その他にも床や階段の素材を滑りにくいものに替えたり、開き戸を引き戸などに変更するといった6種類の工事が介護保険の支給対象です。
安藤:昔ながらの風呂場をリフォームしたら、結構費用がかかりそうですよね。
太田:リフォームではなく、あくまで住み慣れた家で暮らし続けるための改修です。たとえば浴室の場合、給湯器や風呂釜の取り替えは対象外。改修の内容や現場の状況によっては、どうしても改修費が20万円を超えてしまう場合もあるでしょう。その場合、20万円を超えた金額については、全額自己負担になります。
安藤:確かに、大がかりな改修をすると親がなじめないかもしれません。でも、せっかく限度額が20万円あるんだから、いろいろな工事をやって使い切ったほうがおトクではないですか。
太田:数回に分けて使うこともできますから、無理して使い切らなくても大丈夫ですよ。逆に支給限度額の20万円(1人あたり)は原則として使い切ったらそれきりですから、必要なところだけ工事しましょう。
安藤:なるほど。ちなみに、福祉用具はレンタルのほうがおトクなのでしょうか。長く使うなら買ったほうが安くつくような気もします。
太田:レンタル費用の平均上限が設定されるようになったので、数年程度だったら購入するよりもレンタルのほうがおトクです。
安藤:何年使うことになるかは神のみぞ知る、ですからね。
■どんな工事が介護保険の住宅改修の対象になる?
浴室の場合
1 手すりの設置
2 床のかさ上げ
3 開き戸から3枚引き戸や折り戸に取り替え
4 排水溝(グレーチング)の設置
■介護用品はいくらくらいで借りられる?
介護ベッド:月800~2000円くらい
手動式車いす:月300~1000円くらい
移乗サポートロボット:月2500~3000円くらい※
※(株)FUJI 移乗サポートロボットHug L1の場合(自己負担割合が1割の場合)
太田:福祉用具は使用中に不具合があるといけませんから、定期的なメンテナンスが必要です。介護保険のレンタルなら、福祉用具専門相談員が訪問して点検してくれますし、体の状態や体格の変化に応じて選び直すこともできますから安全面から見ても安心です。
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介護については「自分が何とかしなければ」と孤独になってしまいがち。
でも実はプロに頼ったり、悩みをシェアすることで最新の情報が得られたり、心や金銭的な負担が軽くなることも。ひとりで抱えこまず、できるだけ周りを頼りたいものですね。
安藤なつ(メイプル超合金)
1981年1月31日生まれ。東京都出身。2012年に相方カズレーザーと「メイプル超合金」を結成。ツッコミ担当。2015年M-1グランプリ決勝進出後、バラエティを中心に女優としても活躍中。介護職に携わっていた年数はボランティアも含めると約20年。ヘルパー2級(介護職員初任者研修)の資格を持つ。2023年介護福祉士の国家試験に合格。厚生労働省の補助事業『GO!GO!KAI-GO プロジェクト』の副団長を務める。
太田差惠子(介護・暮らしジャーナリスト)
京都市生まれ。1993年頃より老親介護の現場を取材 。「遠距離介護」「高齢者施設 」「仕事と介護の両立」などをテーマに執筆や講演を行っている。AFP(日本FP協会認定)資格を持ち、「介護とお金」についても詳しい。「Yahoo! ニュース エキスパート」オーサーなどでも活躍中。『親が倒れた! 親の入院・介護ですぐやること・考えること・お金のこと第3版』(翔泳社)など著書多数。
※本記事の情報は2024年6月現在のものです。法令や条例等の改正などにより、内容が変更になる場合があります。
著=安藤なつ(メイプル超合金)、太田差惠子/『知っトク介護 弱った親と自分を守るお金とおトクなサービス超入門 第2版』