DV夫からの「夜逃げ」の最中、運悪く加害者と鉢合わせ!日本刀を手に暴れる加害者に「夜逃げ屋」は大ピンチ
【この記事ではDVについて具体的な描写があります。フラッシュバック等症状のある方はご留意下さい】
パートナーのDVや親の虐待、ストーカーなどから逃げるための引っ越しを専門する業者、通称「夜逃げ屋」。
マンガ家の宮野シンイチ(@Chameleon_0219)さんは、「夜逃げ屋」で実際に夜逃げの仕事を手伝いながら取材を進め、実話をもとにしたマンガ「夜逃げ屋日記」をSNSで発表しています。この作品は話題を呼び書籍化もされ、今月最新巻となる第3巻が発売されました。
そんな「夜逃げ」の現場は危険がつきもの。今回は最新巻から、宮野さんがDVの加害者と現場で鉢合わせして身の危険を感じた時のエピソードをご紹介しましょう。
「夜逃げ屋日記」主婦・長尾さん(仮名)のエピソード
「夜逃げ屋」の依頼者、今回は夫のDVに苦しむ長尾さんという女性です。長尾さんの夫は、ほんの些細なことで長尾さんの顔を殴って暴言を浴びせたり、自分が食べ終わるまで長尾さんの食事を待たせるなど、彼女を奴隷のように扱っているのでした。
耐えかねた長尾さんはついに夜逃げを決意して「夜逃げ屋」に引っ越しを依頼したのですが、引っ越し当日、夫にひどく殴られた長尾さんは脚を骨折してしまいます。社長は救急車に付き添って弁護士に連絡するといい、宮野さんと先輩スタッフのドラゴンさんに「2人だけで夜逃げを完了させてくれ」と指示します。
ドラゴンさんと宮野さんは事前に長尾さんが用意した鍵で家に入り、リストを見ながら依頼人不在のまま作業を進めます。しかし不運にも長尾さんの夫が帰宅してしまい、宮野さんたちを空き巣と思い込んだ長尾さんの夫は激しく怒り出してしまうのでした。
ドラゴンさんは長尾さんの手紙を夫に渡します。DV案件では加害者にあてて依頼者が直筆で書いた別れの手紙を置いていくことが多いのだそうです。その手紙を読んで、長尾さんの夫は抜け殻のように静かになるのでした。
しかしやけに大人しくなったと思ったその時、長尾さんの夫は家のどこかから日本刀を持ち出してきて、ドラゴンさんと宮野さんの前に現れます。
そして彼は宮野さんたちに座るよう命じ、妻と責任者を連れてこいと要求して何か叫びながら暴れ出すのでした。凶器を手にして叫ぶ相手を目の前にして、宮野さんは頭が真っ白になって動けなくなってしまうのでした…。
命の危険を感じながらも、紆余曲折の末にどうにかドラゴンさんと引越作業を終えた宮野さん。依頼者と社長のいる病院に向かうと、脚にギプスをつけ、顔も負傷し、車椅子に乗った長尾さんの姿が…。
その姿は痛々しくも、夜逃げが完了したことを聞いてほっとした長尾さんは、晴れやかな笑顔を見せるのでした…。
このときの経験について、宮野さんにお話を伺いました。
著者・宮野シンイチさんインタビュー
──このエピソードでは、現場でDV加害者と鉢合わせてしまいますね。加害者が刃物を持ち出して振り回す騒ぎが描かれています。宮野さんは初めての経験に頭が真っ白になったと描かれていますが、このときの心境を詳しく教えて下さい。
宮野さん:言葉の通り頭が真っ白になってました。どうやって逃げるかを考える暇もなくて、ずっと頭の中が真っ白で、「とりあえずまだ死にたくない」と思ってました。ただ、そのあとはひたすら逃げることばかり考えてました(笑)
──この依頼者はDV夫の暴力で足を折られて警察沙汰になっています。別のストーカー被害のエピソードでも警察の介入がありましたが、夜逃げの現場で警察沙汰になることはよくあることなのでしょうか?
宮野さん:あります。これは声を大にして言えます。やっぱり僕らには人を逮捕や勾留、人を裁くと言ったことはできないので。危険と判断したら躊躇なく呼びます。それが1番、安全で確実ですから。
──このエピソードの夫をはじめ、これまでさまざまなDV加害者の話を聞いたり、実際に現場で会ったりしてきたかと思うのですが、加害者の人物から受ける印象で共通点などはありますか? もしあればそれはどんなことでしょうか?
宮野さん:これは加害者にも依頼者さんにも言えることでして、本当にそこら辺を歩いてる人と何にも変わらないんです。共通点を探しても、毎回、性別も年齢も仕事も性格も家系も経済状況も、パターンに一貫性がないんです。
でも、冷静に考えるともしこれだ!という共通点があったら、それを対策すればいいわけで、共通点がないから、本当に得体が知れずいまだに夜逃げ屋っていう職業があるのかもしれませんね。
──「夜逃げ屋」の社長さんも魅力的なキャラクターでしたが、このエピソードで一緒に仕事をした先輩の「ドラゴンさん」もユニークなキャラクターで印象的でした。漫画ではインパクトのある見た目で描かれていますが、どのくらいフィクションを交えていらっしゃるのでしょうか。またドラゴンさんは宮野さんから見てどんな方ですか?
宮野さん:ドラゴンさんだけでなく夜逃げ屋に入ってるメンバーはほとんどが自分の特定に気を遣っているので、わからないようにデザインしてキャラクター化してます。そのため、どのくらいフィクションを交えているかと聞かれると、答えられないんです。ごめんなさい。
ドラゴンさんは確かに変な人ですけど、優しくて良いキャラした人です。大好きな先輩です。
──「夜逃げ屋の皆さんや依頼者さんに作品を通して恩返しをしたい」と作中で宮野さんは語っておられました。単行本は3巻まで発売されましたが、恩返しができていると感じたことはありますか? もしあれば、どんなことでしょうか?
宮野さん:本を読んで依頼に来られる方も大勢いらっしゃいますし、そういった方達から「この本を読んで生きる希望になりました」と言われると、やっぱり描いて良かった……と思います。また、すでに夜逃げされた方たちから、「自分たちの辛かった過去を作品にしてくれてありがとう」と言われると、少しだけ、ほんの少しだけけですけど、「恩返しできてるのかな」と感じることはあります。
* * *
作中では、夜逃げ屋の社長やスタッフたちが、身体を張って依頼者を加害者から守る様子もしばしば描かれています。ここまで親身になって手を貸してくれる人々がいるのであれば…と、勇気を振り絞って夜逃げ屋へ連絡する人も少なくないのでしょう。
もし、暴力やモラハラなどで日常的に苦しめられてつらい状況にある方は、この作品を読んで、今の状況から抜け出すために一歩踏み出すことを考えてみてはいかがでしょうか。
取材・文=レタスユキ
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