思い通りにならない40代の現実と、青春時代の1ページ『べつに友達じゃないけど』著者インタビュー


百合子は娘の小学校受験に燃えているバリキャリ女性。自分自身が小学校受験に落ちて地元の公立小学校に行った経験があり、娘には絶対に自分と同じ思いをさせたくないと考えていました。

そんな彼女の元にお葬式の招待状が届きます。差出人の水原すみれという名前には心当たりがありました。ほとんど喋ったことはないけど、自分と同じように小学校受験に失敗して、同じクラスになったあの子だと…。

なぜ自分がお葬式に呼ばれたのかわからないまま葬儀場へと向かうと、そこには同じ招待状を受け取った同級生たちが集まっていました。高校時代はこれといった接点もなかった4人でしたが、それぞれ次第にお互いのことを思い出していきます。水原すみれが彼らを招待した理由は……?
40代は人生のまとめ時期?消化試合になるのは早すぎるという思い
――登場人物たちは皆、上手くいかない現実への思いを抱えながらもなんとか日々を暮らしている40代でした。このような人物像を設定した理由とは?
やまもとりえさん:40代って「自分の人生はこうでした」と、まとめに入るような感覚がある気がするんです。でも、80歳まで生きるとしてもまだまだ折り返し地点なのに、消化試合みたいになっていたら、なんかちょっと悲しいよねっていう気持ちもあって。だから、みんなちょっとうまくいってない日常からスタートして、最後に一歩踏み出すことで、読んだ人に前向きな気持ちになってもらいたいという思いがありました。

――確かに40代ともなると、将来の自己像があまりイメージできなくて、消化試合のように感じてしまうところがあるかもしれません。
やまもとりえさん:もちろん今が楽しければそのままでいいと思うのですが、何となく鬱屈としているんだったら、少しだけ生活変えてみるのもありですよね。たとえば習いごとを始めてみるとか。本当にちょっとした一歩であって、劇的に何かが変わるわけではないんですけどね。
見どころは「虹」のシーン。ある一瞬だけ重なり合った「べつに友達じゃない」同級生
――特に気に入っているシーンを教えてください。
やまもとりえさん:作者としては伏線を回収していく過程がすごく楽しいので、4章以降はすごく爽快な気分で描きました。やっぱり見どころは「虹」ですね。最後の1ページまでじっくり見ていただけると嬉しいです。

――あの「虹」のシーンは印象的でした。ネタバレになるので多くは語れませんが、終盤で4人の記憶が重なり合う場面ですね。高校時代を思い返すと、仲良しグループではない子たちが、あるいっときだけ重なり合う瞬間って、確かに自分にもあったような気がします。
やまもとりえさん:そういう瞬間は私にもありました。高校生の頃、優等生の子と不良っぽい子と地味な私が一緒になって飛行機雲を見たことがあるんです。なんでそのメンバーで一緒にいたのかすっかり忘れてしまったのですが、優等生の子が飛行機雲の原理を喋っていて、「本当だ〜!」なんて言いながら、みんなでボーっと飛行機雲を眺めていて。それまで怖いと思っていた不良の子も、喋ってみたら案外普通の子だったりして。そうやって同じ時間を共有したあの一瞬のことが今もずっと心に残っているんですよね。
大人になって自分と違うジャンルの人と話をするときも、あの飛行機雲を見ていたときの感覚を思い出すと、喋りやすくなったりするんですよ。そういう瞬間って、きっと誰にでもあるんじゃないかなって思います。

――クラス内ヒエラルキーとか、どこのグループに属しているかとか、そういうものが一切関係なくなる瞬間ですね。
やまもとりえさん:そうなんですよ。「虹」のシーンである約束が交わされるのですが、「誰かにとっては忘れてしまっているような出来事が、誰かにとってはずっと心のお守りになっている」ことって案外たくさんあるのかもと思って描きました。特に高校生の頃に交わした言葉って、その後の人生を形作っていることも多いですよね。
ちなみに私は自分のことネガティブだと思っているけど、友人に「前向きだよね」と言われたことがあって、その言葉をたまに記憶の底から引っ張り出しては、「私は前向きなとこもあるんだから頑張れる!」ってちょっとしたお守りみたいにして噛み締めています。
***
何気ない青春の1ページがずっと誰かの心のお守りになっていたら…そんなことを考えさせられるのが、「虹」のシーンです。ぜひこの作品を読んで確かめてみてくださいね。
取材・文=宇都宮薫
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