どうして冷蔵保存しなくていいの? ロングライフ牛乳製造の秘密とは

#食 
ロングライフ牛乳は種類もいろいろ


身近な存在の「牛乳」。でも、意外と知らないことが多いかもしれません。たとえば「しぼりたて牛乳」と聞くといかにも美味しそうですが、本当のしぼりたては細菌も存在するため、そのまま商品にはできません。そこで、熱処理を加え、冷蔵の牛乳と常温長期保存牛乳「ロングライフ牛乳」(LL牛乳)に分かれます。日本では冷蔵の牛乳が主流ですが、ヨーロッパでは冷蔵された牛乳はほとんどありません。

【なんとヨーロッパはLL牛乳が主流】


冷蔵しなくてもOK


まず、この写真を見てください! 洗剤か?と見まごうこの物体こそ、一般的なスーパーで売られているプラスティックボトル入りの牛乳。倉庫のような常温の売り場に山積みされているのが、通常スタイルです。じつはヨーロッパではUHT牛乳と呼ばれるLL牛乳が主流で、その中でもトップクラスの消費量を誇るのがベルギーとなっています。

食品の加工処理機器及び紙容器の充填包装システムの大手サプライヤーである日本テトラパック社の調査によると、日本におけるLL牛乳の年間消費量は、2010年12月時点では6500万リットルで、白物牛乳類市場全体(約37億リットル)の1.8% に過ぎず、また、「LL牛乳」を認知しているという消費者は調査対象の51.9% でありながら購入経験者は約20% にとどまっています。購入しない理由の中には「保存料が入っているのでは?」という誤解もあるそうです。

【常温長期保存できる理由】


「大阿蘇牛乳」


常温で長期間保存できるLL牛乳。決して保存料などは添加していません。殺菌温度の違い、容器の違い、無菌環境での充填、の3点がロングライフの理由です。

LL牛乳は、135~150℃で3~5秒間加熱し殺菌する超高温殺菌法(UHT)により、滅菌処理後に無菌状態で紙容器に充填されます。紙容器もアルミが使用されたもので、空気と日光を遮断するため、常温でも無菌状態を保つことが可能です。

前出のテトラパック社は、アルミ付き紙パックに無菌充填する「アセプティック技術」を世界でもいち早く開発した会社です。日本テトラパックの見解では、ヨーロッパでLL牛乳が広く普及した理由として、2つの要因があるとしています。1つ目は、物流の範囲の広さ。常温で長期保存が可能になったため、遠く離れた場所に運べるようになり、フランスなど居住範囲の広い国では特にLL牛乳は重宝され、広まっていったと考えられるそうです。2つ目は、ヨーロッパでの牛乳消費のシーンに合っていたこと。日本では飲用することが多いため、冷たい飲み物として冷やしておく必要がありますが、ヨーロッパでは牛乳は飲用よりも料理に使われることが多いため、冷たくなくてもよいことから、家庭でも常温で保存するケースが多いようなのです。

一方、通常の牛乳も同じ、超高温殺菌法(UHT)ですが、温度は120~130℃で2~3秒間殺菌する方法です。ほぼ菌は死滅しますが、紙パックへの通常充填のため、菌を増やさないよう要冷蔵が必須。国内で市販されている牛乳のほとんどがこの殺菌方法の製品です。このほか、少数派ですが63~65℃で30分間殺菌する低温殺菌牛乳もあり、消費期限がさらに短くなっています。

むしろLL牛乳は無菌状態を保つため、衛生面でとても優秀な食品と言えます。

【ロングライフ牛乳 栄養と味に関する誤解】


そんな品質面で優秀なLL牛乳なのにヨーロッパのように主流になれないのは、まことしやかに囁かれる「超高温加熱により栄養素が変わっている」とか、「LL牛乳は美味しくない」という噂のせいかもしれません。でもそれは誤解です。

栄養素に変化がないことは科学的に証明されています。また、味についてはかつて「タンパク質のこげ臭」と評されましたが、現在は「より濃厚でクリームのような風味」と捉えられています。個人の感想ですが、ホットコーヒーに混ぜると独特な風味を感じるので、アイスでいただくようにしています。

【じつは九州ではLL牛乳は定番!】


さて、全国のスーパーを見て回ると九州は乳業が盛んであり、ほかにないLL牛乳の発展を見ることができます。

まずは西日本一の生乳生産量を誇る熊本から。熊本県酪農業協同組合連合会(らくのうマザーズ)は昭和29年の設立。

左から「大阿蘇牛乳」、「カフェ・オ・レ」、「いちご」


阿蘇に抱かれた豊かな生産量の牛乳を無駄にしないよう、LL牛乳専用工場を1983年(昭和58年)から稼働し、今では、牛乳のほか人気の味や懐かしい味の乳飲料が九州全域のスーパーで定番となっています。

LL商品の乳飲料だけでも、コーヒーや抹茶、いちごなど、11種! とくに熊本県産のおいしいミルクをたっぷり(54%)使用した本格派のカフェ・オ・レは、発売から36年のロングセラー。最近はくまモンがパッケージに加わり、さらに熊本らしさを感じるいい味を目でも味わうことができます。

さて、この人気のカフェ・オ・レを通常の牛乳でつくったところ、まったく違う味になってしまったというエピソードがあるように、LL牛乳ならではのコクが美味しさの一部分であることは間違いありません。

また、LL牛乳は冷蔵でないため輸送コストが抑えられ、九州全域から日本各地だけにとどまらず、輸出もされています。日本の製品の安心安全な品質と、牛乳の味のよさで、アジアの国々のみなさんに好評なのだそうです。

「おいしいミルク バニラ」


私自身、子育てをする中で、常温で持ち出せる乳飲料があったことはとても助かったし、なんといっても美味しい! らくのうマザーズの「おいしいミルクバニラ」は今も12歳の娘が大ファン。飲むソフトクリームといった味わいで、牛乳嫌いの当時3歳だった娘がゴクゴク飲んだ、初めての乳飲料だったのです。

「ヨーグルッペ」2種


さらに宮崎県の南日本酪農デイリーでは、日本最大規模のLL牛乳工場があり、これまた、ご当地ファンをうならせる「ヨーグルッペ」や「スコールウォーター」など製造。このように九州の人々の生活に欠かせないご当地食を担っている、LL牛乳と言えます。

【あると安心、LL牛乳!】


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LL牛乳は二つの面から、今、改めてその価値が高まっています。

一つは、多くの災害を経て「備蓄」の重要性をすでに心得ている私たち。常温で製造日から3ヶ月保存できるのは魅力です。

もう一つは、スーパーマーケットの牛乳売り場に冷蔵がなくても売れるという、エコな観点も注目されています。スーパーマーケット経営の要は莫大な光熱費をどうするか?その問題を簡単に解決できる救世主かもしれません。また、遅れていたアルミ付き紙パックの回収も推進中です。

さらに、当然、日々のストックにしておけば、牛乳を買い忘れたときにも困らずにすみます。なお、常温とは、外気温のことです。盛夏に持ち歩くのはOKでも、灼熱の車内に置きっ放しはやめたほうがいいでしょう。また、凍ってしまうと分離しますのでご注意を。

LL牛乳のポテンシャルを、一度味わってみませんか?

文:スーパーマーケット研究家・菅原佳己

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Information

■取材協力
熊本県酪農業共同連合会(らくのうマザーズ)

■菅原 佳己
スーパーマーケット研究家。1965年東京生まれ。一児の母。夫の転勤で国内外の転居を繰り返し、スーパーの研究を続ける。ご当地スーパーブームの火付け役として、テレビ、ラジオ、雑誌、新聞などで活躍中。著書『日本全国ご当地スーパー掘り出しの逸品』(講談社)、『東海 ご当地スーパー 珠玉の日常食』(ぴあMOOK中部)など。「みなさんも日頃から疑問に思っていることありましたら、ご連絡ください。あなたに代わって、お調べいたしますよ〜」
★ホームページ「ご当地スーパーオンライン」
 


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