エコではない手伝い vol.23「考えごとで家事を楽しむ」 山崎ナオコーラのエッセイ

#くらし   

雑誌『レタスクラブ』で連載中の山崎ナオコーラさんのエッセイ「考えごとで家事を楽しむ」をレタスクラブニュースでも特別公開!

家事に仕事に子育てに大忙しの毎日。実体験に基づいた言葉で語られるからこその共感や、生活を楽しむためのヒントが隠されています。

今回は、vol.23「エコではない手伝い」をお届けします。

山崎ナオコーラさんのエッセイを連載中! 今回はvol.23「エコではない手伝い」をお届けします


 この頃、三歳の子どもが、

「おうちのお仕事、する」と後を付いてくる。

 ゴミ捨てに行こうとすれば、

「一緒に行く。一番小さい袋、持つ」

 と袋を持ってもたもたと追いかけてくるし、洗濯機から洗濯物を取り出してカゴに移していると、

「一緒に干す」

 と掃き出し窓でサンダルを履いて庭に出てしまうし、洗い物をしていると、

「お皿、洗う」

 と勝手にシンクの前まで踏み台を押してきてその上に乗り、スプーンなどを無駄に時間をかけてちょっとずつ洗い、服や周辺をびしょびしょにする。

 手伝いたいという気持ちは悪いものではないだろうから邪険にできず、「ありがとう」などと言って対応するのだが、正直なところ、子どもと一緒にやると時間は三倍以上かかるし、手間も増えるし、疲れているときや急いでいるときは、心の中でため息をつく。そうして、子どもはうまくできないことがあると、怒り出すので、それもつらい。たとえば、洗濯物を干すときに、ハンガーに思うように服を引っ掛けられなくて、「できないー」と泣き出す。「じゃあ、やってあげる」とこちらが手を出すとさらに泣くので、必要最低限のアドヴァイスと過剰な褒め言葉で、うまくできるところまでなんとか持っていかなければならない。どういう声がけをしたらいいんだろう、と頭を使うので、頭も疲れる。それに、米を量るのを手伝わせたら米びつから米をバラバラと床に落としてゴミにしてしまったり、洗い物や洗濯や庭の水遣りでは水遊びの感じがどうしても出てしまって水を無駄にしてしまったり、エコでもないのだ。

 手伝いは、子どもの成長にはいいのかもしれないが、親や世界にとってはマイナス面の方が多いのではないか?

 いや、本人にマイナスの面もある。

「カレーを作るの、手伝いたい」

先日、また勝手に踏み台を持ってきて、しつこいので、

「じゃあ、かき混ぜてくれる?」

 と言って、おたまを握らせて鍋の中でぐるぐると回させたところ、子どもが急にかき回すのを止めて、

「ここ」

 と手首を見せた。鍋の縁に手首が当たってしまったのだ。これは、私も一緒に子どもの手を握りながら行っていたことなので、完全に私が悪い。焦って水で冷やす。子どもは泣かず、普段通りの表情だったが、しばらくすると水ぶくれのようになった。小さい保冷剤を私の髪ゴムで手首に留めてやると、腕時計のようで気に入ったのか、一日中付けていた。数日するとカサブタができて、さらに数日経つとそのカサブタが取れたが、まだうっすらとヤケドの線が残っている。

 私はこれに懲りて、もう火を使う手伝いは当分させないぞ、と思っているのだが、子どもは懲りていないみたいで、「かき回すの、やる」「炒めるの、やる」と相変わらず言ってくる。「こないだヤケドしたじゃんか」とキッチンから追い出すと一応離れてくれるが、子どもは「ヤケドなんて大したことない」という顔をしている。のど元過ぎれば熱さを忘れるというやつなのか。確かに、「一度ヤケドしたらもう家事はできない」となるのだったら、人間は生活を止めなくてはならない。

 家事ができる大人になって欲しい、という思いが私にはある。私はジェンダーに関する小説やエッセイをいろいろ書いているので、将来、もしも自分の子どもが結婚なり同棲なりをしたとして、パートナーに向かって「家事をやってよ」なんて言ったら、どうも恥ずかしい。進んで家事をする人に成長してくれたらありがたい。

 しかし、修業中は、エコではないし、親を疲れさせるし、自分の身も削る。いいことばっかりで前進することはできないのだな、と思う。

続く…。次回もお楽しみに!


文=山崎ナオコーラ イラスト=ちえちひろ

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Information

■著者:山崎ナオコーラ
0歳児、3歳児の親。作家。筆名はコーラが好きだから。
書店員の夫と、4人家族で、東京の田舎のほうで細々と暮らす。
家事は苦手。でも、せっかくだから、家事をしながらついでに考えごとをして、「仕事と同じくらいプラスになっている」と思いたい。
山崎ナオコーラさんのTwitter

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