一つの成功体験で苦手分野も頑張れるように ぬまっち流自分で伸びる小学生の育て方(5)

#育児・子育て   

ここ数年、教育の分野で注目を集める「アクティブ・ラーニング(参加型学習)」をご存じですか? この世界標準の教育法をいち早く日本で実践してきたのが、テレビも珍百景として紹介された「ダンシング掃除」や、やる気スイッチをONにする「内閣制度」などユニークな参加型学習を生み出した東京学芸大学附属世田谷小学校教諭ぬまっち先生こと、沼田晶弘さんです。自分で楽しみながら考えることで、自然とコミュニケーションスキルが磨かれ、自ずと「伸びる」小学生の育て方を7回連載で紹介してくれます。今回は第5回目です。

得意なものを伸ばして「成長サイクル」を身につける「世界標準のアクティブ・ラーニングでわかった ぬまっち流 自分で伸びる小学生の育て方」


長所を伸ばして一点突破すれば、実は苦手な分野も克服できる


世の中で求められている人材がオールラウンダーではなくスペシャリストに変わっているのだとしたら、小学生を育てるうえでも、それに合わせなければいけないでしょう。

ボクも、受け持ったクラスを一つのチームと考えていますが、オールラウンダーとそれに頼る脇役という構図ではなく、スペシャリストたちの集団になってほしいと願っています。それに、子どもたちは、誰もがスペシャリストになる素質を持っているので、それを見逃さずにしっかりと見つけ、育ててあげるのが教師の役割だと思うのです。

以前、受け持ったクラスに、背が高く、少しぽっちゃりした子がいました。そんなに太ってはいないのに、ときどき「ぽっちゃり」と言われてからかわれていたのです。ボクは、そんな彼を「給食エース」と名づけました。

ボクのクラスでは、給食を残さずに食べることを一つの約束にしています。そのため、全員が食べきれるように、最初に盛りつけるときは少なめに盛っています。そうすると、全員が残さずに食べきることはできるのですが、当然、クラス分の給食自体はたくさん余ることになります。それを、まだ食べられる子がおかわりをして減らすのです。

そんなとき、誰よりも活躍するのが「給食エース」でした。

彼は体が大きく、ほかのみんなよりたくさん食べられるので、必ず、毎回おかわりをしてくれていました。それでもまだ余っているときは、ボクは彼に「おい、エース、まだいけるか?」と声をかけます。まるで野球の監督が、マウンドにいる投手に向かって伝令を出すように。すると彼は「任せて」といった表情で席を立ちます。それが、たとえ4杯目のおかわりであっても、みんなの期待に応えるためにおかわりに向かうのです。そんな「給食エース」の姿を見て、クラスのみんなから拍手が沸き起こります。その瞬間、彼はクラスのヒーローになり、彼のことをからかっていた子たちも、羨望の眼差しで彼を見つめるようになりました。

彼を「給食エース」と呼んだことで、彼自身にもいい影響がいくつもありました。まずは自分に自信を持ってくれたということ。1学期が終わるとき、彼はボクの通知表に「『給食エース』にしてくれて、ありがとう」と書いてくれました。

世界標準のアクティブ・ラーニングでわかった ぬまっち流 自分で伸びる小学生の育て方


でも、彼のすごいところはそれだけではなかったのです。

「給食エース」と呼ばれて自分に自信を持てたことが影響したのか、漢字テストや学習ノートなど、勉強でもぐんぐん成績が上がっていきました。どんな分野のことでも、一つのことで突き抜けて成功を収めると、その自信がほかのことも引っ張り上げてくれる。「給食エース」はそれを体現してくれたのです。

オールラウンダーではなく、スペシャリストを育てる。その子が一点突破できる何かを見極めてあげる。

ただ、そう言うと必ず、あげ足を取るように「じゃあ、ほかのことはできなくてもいいの?」と言ってくる人がいます。けれど、「給食エース」が漢字テストの成績も上げたように、ある1点を突破したことによる自信によって、きっと2点目、3点目も続くはずだとボクは信じています。なぜなら、何か一つを成し遂げたという「成功体験」によって自分の中に「自信」が生まれ、その自信によって、もっとチャレンジしたい、もっと成功したいという「行動」となって表れるから。

少し変な例えかもしれませんが、恋人が初めて肉じゃがをつくってくれたとき、多少のお世辞を含んでいたとしても「おいしい」と言うことがありますよね。すると、次はカレーライスをつくってくれたり、さらにはシチューだったり、最終的にはビーフストロガノフなどの凝った料理までつくってくれるようになるかもしれません。でも、最初に肉じゃがをつくってくれたときに「おいしい」と言わなかったら、きっと次のデートからは外食ばかりになってしまうはずです。肉じゃががおいしくつくれたという一点突破の自信が、料理をつくるモチベーションにつながり、次々と新たな料理に挑戦してくれるようになるのです。

「給食エース」のほかにも、「鉄道ダリン」という、一点突破でスターになった子がいます。

彼はとにかく鉄道の車内アナウンスが好きで、いつでもどこでもブツブツと練習しているので、バカにされていた時期があったそうです。でも、彼には誰にも負けない特技があり、ある日、クラスの女の子がその特技の動画を撮ってボクのところに持ってきてくれたのです。そこには、電車の車内アナウンスを完璧に耳コピして、得意そうに披露している彼の姿が映っていました。しかも、英語のアナウンスまで完璧に真似をして。ボクは、その動画を見て、あまりのクオリティの高さに大喜びして、クラスのみんなに紹介しました。この特技をきっかけに、彼はクラスのスターへの階段を上り始めました。ボクはこのアナウンスが大好きで、今では本人に許可をもらって、講演会のときに皆さんに聞いてもらっています。

【画像を見る】バカにされていたような事も、特技として自信につなげられる


彼が注目を集めるようになると、「給食エース」と同じように、ほかの分野へも好影響が出始めます。

もともと提出物を出すのを忘れがちだったのが、しっかり提出物を出すようになり、ほかのことにも積極的に取り組むようになりました。それでも、たまに提出物を忘れてしまうこともあったのですが、そんなとき「鉄道ダリン(というニックネーム)を剝奪するぞ!」と注意すると、「それだけは〜」と言って、次の日からまたしっかりとやってくれるのです。そうした姿を見ると、ボクは心の中でガッツポーズをします。

「給食エース」も「鉄道ダリン」も、ボクが考えていたのは、「何か一つの分野でも頑張れるものを見つけたい」という思いだけで、それで彼らにこのような呼び名をつけたのです。けれど、その一点突破によって、そのほかの分野にも意欲的になるのを知ったのは、彼らが証明してくれたおかげでした。

ボクもこのことによって、「自信をつける」ことの大切さをより実感しました。

著=沼田晶弘/「世界標準のアクティブ・ラーニングでわかった ぬまっち流 自分で伸びる小学生の育て方」(KADOKAWA)

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