雑誌『レタスクラブ』で連載中の山崎ナオコーラさんのエッセイ「考えごとで家事を楽しむ」をレタスクラブニュースでも特別公開!

家事に仕事に子育てに大忙しの毎日。実体験に基づいた言葉で語られるからこその共感や、生活を楽しむためのヒントが隠されています。

今回は、vol.24「家の中、頭の中」をお届けします。

家の中、頭の中 vol.24「考えごとで家事を楽しむ」 山崎ナオコーラのエッセイ 画像(1/2) 家の中、頭の中 vol.24「考えごとで家事を楽しむ」 山崎ナオコーラのエッセイ

 最近、二人目の子どもが生まれた。やっと一ヶ月になる。

 赤ちゃんは、生後一ヶ月になるまで外出はできるだけ控えた方がいいらしい。また、親も、産後はしばらく床上げせず、家事はできるだけ他の人に頼って静かに過ごした方がいいようだ。それで、私はこの一ヶ月近くを、ほとんど家の中で過ごしている。

 そして、「出かけたい」と思っている。旅行に出たいし、外食もしたい。美術館や映画館にも行きたい。

 仕事で毎日外出している人は、「家にずっといるなんて優雅だな」と思うかもしれないが、やるべきことは家の中にもたくさんあって、まず、授乳やらオムツ替えやらの世話があり、上の子の育児があり、そしてもちろん、家事や仕事も完全にOFFにするなんてことはできないので諸々の雑務があり、ゆったりなんてまったくできず、いつも何かに追われている。あっという間に時間が過ぎる。

 赤ちゃんはものすごく可愛いし、上の子もどんどん成長して面白いし、生活に不満などない。幸せだ。でも、外の世界と断絶して、家の中に閉じこもり、大切な持ち時間をするすると指の間からこぼして行っている自分が惨めというか……。「あっという間に、おばあさんになっちゃうんじゃないだろうか」なんて、焦燥感も湧く。

 授乳しながらそっとスマートフォンをいじる。ツイッターで、作家の友人たちが仕事で海外を飛び回っているのを見かけ、うらやましくてたまらなくなる。美術展を見にいったり、新しい店を開拓したり、酒を飲んだりしているのにも嫉妬する。有名な人たちと交流しているのも見かけ、友人を遠くに感じる。外の世界は薔薇色だ。みんな、英語を覚え、他人と触れ合い、どんどん成長している。

 さらに、インターネット記事もいろいろチェックする。

 病気や障害があって外出が難しく、人生の多くの時間を家の中で過ごしてきたという人が、新しいアイデアを出したり、起業したりした、といったことがいろいろ紹介されている。不登校の子どもが、自宅学習で多くのことを学んだり、学校に行かなかったからこそ道が拓けたりした、という記事も目にする。それで、「『家にいるから、仕事ができない。勉強もできない』と考えるのは安易なのかもしれないな」と気がつく。

 家の中でもアクティブに過ごす人がいるというのは、どういうことなのだろう?

 もしかしたら、頭の中は外につながっているのかもしれない。家の中に長時間いて、自分の頭の中に入り込んで、じっくり考え事をしているとき、内向きになって小さい世界へ進んでいる気分になりがちだが、もしかしたら、頭の中をどんどん進めば、逆に外に出られるのではないだろうか? 自分の中にも、自分の知らない世界があるはずだ。それに、子どもや夫だって、外につながっている人たちだ。家族だからといって、小さな関係だとは限らない。きちんとつき合えば、新しい発見や大きな感動がもらえるだろう。

 とはいえ、もちろん、頭の中の道、家の中にある道は、外の社会にある道と同じものではない。大きなプロジェクトに関わって仕事をしている人たちや、刺激的な知識人と交流している人たちや、英語力をどんどん上げている人たちと、私は違う道を進むことになる。でも、私なりの「外の世界」には行けるのではないだろうか?

 うらやましさや悔しさといったネガティブな感情から生まれた雑な考えなのだが、悪くない方向ではないか? たとえ家の中にいても、海外を飛び回る人たちに負けたくない。私は、「自分の頭の中を突き進んだり、身近な人と深く関わったりする」という方向で、外の世界を目指そうかな、と思ったのだった。

家の中、頭の中 vol.24「考えごとで家事を楽しむ」 山崎ナオコーラのエッセイ 画像(3/2) 次回に続く

文=山崎ナオコーラ イラスト=ちえちひろ