業者の人に対して声を低くする vol.27「考えごとで家事を楽しむ」 山崎ナオコーラのエッセイ

#くらし 

雑誌『レタスクラブ』で連載中の山崎ナオコーラさんのエッセイ「考えごとで家事を楽しむ」をレタスクラブニュースでも特別公開!

家事に仕事に子育てに大忙しの毎日。実体験に基づいた言葉で語られるからこその共感や、生活を楽しむためのヒントが隠されています。

今回は、 vol.27「業者の人に対して声を低くする」 の境目をお届けします。

業者の人に対して声を低くする vol.27「考えごとで家事を楽しむ」 山崎ナオコーラのエッセイ


 だいぶ前のことだが、旅先でぼんやりと『チコちゃんに叱られる!』というテレビ番組を観ていた。「なぜ女性は電話に出ると声が高くなる?」というトピックが取り上げられていた。

 確かに、自分が子どもだった頃、自分の母親や友人の母親、近所のおばさんなどが、電話口や、店先、他人の前などで、声を高くして喋っていた。

 でも、最近は逆ではないだろうか?

 むしろ、人前で声を低くしているような気がする。少なくとも、私は電話口や店先、とくに業者の人と接するとき、普段よりも低い声を出す。腹に響かせて、威厳を示す。

 その番組では、声を高くする理由として、「ちっちゃいと思われたいから」「かわいらしく無害な存在であると連想させるため」としていた。

 昔はそれが良しとされていたのだ。

 母は結婚と同時に専業主婦になったが、独身時代は電機会社に勤めていた。また、「女は大学に行かなくていい」と祖母から言われて進学を諦めたそうだが、高校は進学校で理系だった。だから、配線や組み立て、説明書を読み込むのは得意だ。それなのに、父や他の男性に対して、「教えてくれる?」「カメラの写し方がわからないので、やってください」「機械が難しいので頼んでいいですか?」といった態度で周囲に接していた。「本当はわかっていることでも、わからないふりをすることが、女の務め」といった考え方ではないだろうか。私はそれに馴染めない。

 私は前から思っていたことがある。

 かわいがられたくない。

 かわいがられると、たとえ優しくされても頭にきてしまう。

 かわいがられるのではなく、尊重され、親切にされたい。

 つい先日、テレビを購入した。私は自宅で仕事をしているので、テレビがあるとずっと観てしまってはかどらないから、これまでテレビのない暮らしをしてきた。でも、映画が観たくなり、テレビ番組を受信する線は繋げずに、映画鑑賞のためだけにテレビを置くとにした。テレビ台も買って、組み立てを配送業者にお願いした。とても感じの良い、親切な男性が二人でやってきた。年齢は私と同じくらいだろうか。赤ん坊が泣くので、私は襖を閉めて隣室でできあがりを待った。

「お客さーん、お客さーん」

 と隣の部屋から聞こえる。夫が台所にいるはずだが、スマホをいじっていて聞こえないのか、返事をしない。私は襖を開けて、

「なんでしょうか?」

 と尋ねた。

「あ、お客さんじゃなくて奥さんでもいいんですけど、テレビはどのくらいの大きさなんですか?」

 と業者の人は言った。

「55型です。来週に届くんです」

 私は、かなり低い声で答えた。「お客さんじゃなくて奥さんでもいいんですけど」という言葉に引っかかった。私もお客さんだ。いや、もしかしたら、夫を想定して「お客さん」と呼びかけたら違う人が出てきたから、つい言ってしまっただけの言葉かもしれない。でも、こういう感じのことはよくある。

 水道が水漏れした、軒先に蜂の巣を作られた、排水管清掃、ガスの点検……、いろいろな業者が家にやってくる。電話でのやり取りもある。その際、十歳も二十歳も年下の人がこちらを教え諭すようなタメ口で「奥さんにはこういう理系の説明はわからないでしょうけど」「奥さんには決定権がないでしょうけど」といったニュアンスで会話を進める。私が金を出し、選び、決定しているのに、「お客さんの代理」という扱いだ。私を軽く見てはいるが、親切だったり、子どもに優しく接してくれたりもする。だから、私がにこにこと受け流せば波風が立たないのだと思う。

 でも、私は頭にきてしまう。私は低い声を出し、必要以上に背筋を伸ばして応答する。

次号へ続く…


<レタスクラブ’20 3月号より>

文=山崎ナオコーラ イラスト=ちえちひろ

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Information

山崎ナオコーラ 考えごとで家事を楽しむ連載一覧

■著者:山崎ナオコーラ
0歳児、3歳児の親。作家。筆名はコーラが好きだから。
書店員の夫と、4人家族で、東京の田舎のほうで細々と暮らす。
家事は苦手。でも、せっかくだから、家事をしながらついでに考えごとをして、「仕事と同じくらいプラスになっている」と思いたい。
山崎ナオコーラさんのTwitter

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