本のページを開けば、物語の世界で自由になれる。人気作家・村山早紀さんインタビュー

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シリーズ累計40万部を突破する『コンビニたそがれ堂』シリーズや、本屋大賞の候補にもなった『桜風堂ものがたり』『百貨の魔法』など、数々の話題作を紡ぐ村山早紀さんの最新刊『魔女たちは眠りを守る』が4月16日に発売されました。使い魔の黒猫に「魔女の家」でニコラが作る美味しそうなお料理など「これぞ村山さん!」といったものが、本作にはぎゅっと詰めこまれています。著者の村山さんに、お話をうかがいました。

 


活躍する魔女と、迫害される魔女。双方の立場に立った作品を描きたかった


――おとぎ話などの影響からか「魔女」というと、ちょっと不気味で悪者という印象もありましたが、村山さんが本作で描いているのは、人間を見守る心優しい魔女ですね。そんな魔女を主人公にした理由を教えてください。

村山早紀(以下、村山)「私は昭和の生まれなのですが、テレビアニメや海外ドラマの、かわいかったり素敵だったりする魔女が活躍する作品を『友達』として育ちました。また、海外の古き良きファンタジー作品を読んで育った世代でもあります。自分でも魔女が活躍するお話を書いてみたいな、とずっと夢見ていたような気がします。

一方で、歴史や文化について学ぶにつれ、マイノリティの象徴としての、概念としての魔女、世間から異質なものとして迫害、差別され、辺境に追いやられてゆく存在としての魔女にも心を寄せていて、そちらの側に立った物語を書きたいと思うようになってもいました。

それは私自身が父の仕事の関係でいつも転校生であり、地域社会に溶け込めない、いわばよそ者の日々を送ってきたから、という寂しい経験も素地としてあったからだと思います。

子どもの本の専業作家だった時代に、願いが叶って魔女の女の子が活躍するお話を書かせていただいたのですが、大人向けの仕事をするようになってからも、また魔女のお話を書きたいなあとずっと思っていましたので、今回久しぶりに書かせていただき、楽しかったです」

――村山さんにとって「魔女」や「魔法」とは、どんなものなのでしょうか?

村山「ひとは身の丈より大きな想いや願いを抱くとき、当たり前の道をはずれ、ひととしての安楽や平穏を捨てて、ひとり荒野を生きていかなくてはいけなくなるのだと思います。

当たり前の幸福からは遠ざかりますが、その手はたくさんの命や心を救い、名前は永遠に残るのではないでしょうか。歴史に残る偉人たちは、そういう意味で、魔女や魔法使いであり、その行いは魔法なのではないかと思っていたりします。

また、そこまで極端でなくても、人知れず良いことを行い、社会の一隅を照らしている人々はそこここにいて、そんなひとたちの行いは魔法なんじゃないかと思っています」

ファンタジーは、ひと息ついた後、再び立ちあがる力を持っている


【画像を見る】村山さんにとって「魔女」や「魔法」とは


――新型コロナウイルスの影響で、世界中に多くの犠牲が出ています。このような時だからこそ「ファンタジー作品が持つ力」について、どのようにお考えでしょうか。

村山「今回のウイルスに由来する非日常の日々は、いつどんなかたちで終焉を迎えるか、その予測が難しかったこともあり、出口の見えない場所に押し込められているような、息苦しい日々でした。そんな状況の中でも、特に大人たちは、弱いものや小さいものたちを守りかばって、生きていかなければなりません。

でも、どんな時でも本のページを開けば、ひととき、物語の世界で自由に心遊ばせることができます。そうして、その場所で息をつき休むことで、また明日から立ち上がり、辛い日常と戦う力を得ることができる。ファンタジー作品は、そんな力を持つ作品だと思っています。私自身も辛いときは本を読みますし、私の本もそんな風に誰かの心を憩わせることができる一冊であれ、と願いを込めて世に送り出しています」

――本作は大人のためのファンタジーという位置付けの本になるかと思いますが、広い年齢層の読者が楽しめそうです。子どもたちの読書にはいかがでしょうか。

村山「子どもたちにはやや難しめの漢字や言葉が使ってありますが、活字が好きなお子さんなら、この厚みは喜ばれるかもしれません。過去の歴史や、少し前の時代の日本の暮らしが登場するお話ですが、これはなんだろうと思うことがあれば、身近にいる大人の方達に教えていただきながら読むのも楽しいかと思います。家族みんなで読んで感想を話し合うなんて素敵かもしれませんね」

――村山さんの本は子どもから大人まで幅広く支持されていらっしゃいますが、その理由についてご自身ではどうお考えですか?

村山「昔から『本がないと生きていけない』『読書が何より好き』なタイプの読者の皆さんに好かれていた作家でした。私自身も子どもの頃、そういうタイプの子どもであり、読者でしたので、面白いなあと思いつつ、納得していました。

一方で、当時の担当編集者から『だからあなたの本の読者層は狭くなるだろう、広い客層に向けて書かれた作品ではない』と予言されていたんです。でも、私は私が向かい合うような形でしか物語と向かい合えないですし、自分が書ける物しか書くことはできないので「それはそれでいいや」と思っていました。

長く書いてきたことで、拙著との出会いが子どもだった読者さんたちが、学生になり、社会人になり、お父さんやお母さんにまで成長したこともあり、読者層が年々広がっていっています。三世代読んでくださっている読者さんも珍しくなかったのですが、そろそろ四世代で読んでいただけている読者さんも登場しそうです。

そして、読者層が広がるのは、年齢・世代だけの軸ではないですね。今は完全にインターネットの時代になり、本を愛する人たちが、リアルタイムで好きな本を世界中に勧めあうことができるようになって、国境を越えて拙著の感想で盛り上がる人々がいたりして、いい時代になったなあと思っています」

物語の中だけでも、世界中のひとたちが平和であってほしい


――妖や魔女など、心優しい「ひとならぬもの」たちが、その不思議な力で人々をそっと見守ってくれる物語を多く描いていらっしゃいますが、村山さんが作品創作のインスピレーションになっていることは何でしょう?

村山「『願い』でしょうか。日常の生活の中で、あるいは活字で接した過去や遠い国の出来事で、あまりにも悲しいことや不条理なことがあると悲しくて悲しくて。しばらく傷を抱えるようにそのことを考えています。すると、ひょこっとその出来事を核にした物語が生まれてきたりするのです。

その物語の中では、悲しいことも苦しいこともうまい具合に解決していて、現実世界では救われなかった誰かも幸せになっていたりするのです。世の中には、不幸なことや悲しいことがあまりにも多すぎるので、物語の中だけでも、世界が平和で幸せになり、誰も泣かない時代が来ればいいなあ、と無意識のうちに願っているのだと思います。私は私の物語の中で、そして物語を読んでくださるひとたちの心の中では、みんなを幸せにする魔法を使える、無敵の魔法使いなのです」

取材・文=根津香菜子

著=村山早紀/「魔女たちは眠りを守る」(KADOKAWA)

【著者プロフィール】
村山早紀さん 1963年、長崎県生まれ。『ちいさいえりちゃん』で毎日童話新人賞最優秀賞、第4回椋鳩十児童文学賞を受賞。主な著書に『シェーラひめのぼうけん』(童心社)、『はるかな空の東』『百貨の魔法』(いずれもポプラ社)、『竜宮ホテル』『花咲家の怪』(いずれも徳間書店)、『桜風堂ものがたり』(PHP研究所)などがあるほか、初のエッセイ&短編小説集『心にいつも猫をかかえて』(エクスナレッジ)を4月に発売。

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長い赤毛の若い魔女、七竈・マリー・七瀬は、使い魔の黒猫と共に、再び古い港町「三日月町」にやってきた。この町でカフェバー「魔女の家」を営む魔女・二コラの元でしばし滞在することになった七瀬は、かつて本を貸してくれた書店員・叶絵と再会する。ひとよりも長い年月を生きる魔女たちは、この世界で懸命に生きて、死んでゆく「ひとの子」たちをそっと見守ってきた。そんな人々への優しさと愛情にあふれた魔女たちの、出会いと別れを描いた連作短編集。

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