父親に別の家庭があった?「家族だけど全部は知らない」秘密が明らかになった時あなたはそのまま「家族」でいられますか?

#くらし   
夫はその日 帰ってこなかった

ふだん一緒に暮らす家族のこと、あなたはどれだけ知っていますか?
家族には打ち明けていない自分だけの秘密、ありますか?

どんなに仲の良い家族でも、パーソナルな部分は確保しておきたいもの。夫婦、親子、きょうだい間など、その関係はさまざまです。ただ、信頼関係を揺るがすような秘密が明らかになってしまった時、トラブルに発展するのは避けられません。例えばそれが自分の親だったとしたら、あなたはどうしますか?

ごく普通の平凡な家族の形が、父親の突然の失踪によって変容していく…。成長した娘がはじめて知る両親の実像と、「普通」と思っていた家族の闇。4,596,193PVを獲得し話題となったコミックエッセイ『わたしは家族がわからない』のテーマにもなった「家族のあり方」について、やまもとりえさんにお話しをお聞きしました。

■『わたしは家族がわからない』story

 登場人物

役所勤めの真面目な夫、「普通がいちばん」が口癖のパートの妻、活発な保育園児の娘という3人暮らしの平凡な家庭。しかしある日、父親はなんの前触れもなく失踪し、1週間後に帰宅する。
それから数年が経ち中学生になった娘は、父親の姿を家から離れた駅で何度も見かけたと同級生に聞かされ、不審に思って待ち伏せることに。大好きだった父が家に帰ってこなかった、幼い頃のおぼろげな記憶。1週間ぶりに帰宅した夫を問い詰めず、何もなかったことにした母。
過去の記憶と現在の父親の行動には何か関係があるのか。父は何を隠しているのか。
やがて平穏な生活は崩れ、「普通」だったはずの家族の形が少しずつ変容していって…。

クラスメイトから父親の目撃情報

お父さんは普通の人、そう思っていたけれど…


平凡な家族の闇

夫が失踪してしまい

――『わたしは家族がわからない』について、本作を描こうと思ったきっかけをお聞かせください。平和で穏やかな家族だったのに、実は秘密があって…というリアルなストーリーだったのですが、やまもとさんご自身の実体験や聞いたことや、見たことなどが織り込まれていますか?

やまもとりえ 実体験が元に…? という部分については、今回はまったくありません。ストーリーは担当さんからの提案が起点となりました。ちょうど私も「いろんなお話を描いてみたい」と思っていた時だったのでお受けしましたが、テーマをいただいて描くということも、少し不穏な空気を描くことも初めてだったので、何度も不安になり担当編集さんに泣きついていました。


「父は頼りになって強い人、母はそれについていく人」大人になって知った両親の実像

幼かった娘のひまりは母親の動揺を知る由もなくて

――失踪を起こした父親の気持ち、それを対処した母親の気持ちは、当時幼かった娘のひまりは最初は知らなかったんですよね。成長したひまりが父と母の実像を目の当たりにしていく展開は目が離せませんでした。
やまもとさんご自身が、子ども時代と大人になってからとで、ご両親の実像にギャップなどを感じたことはありますか?

やまもとりえ 私が小さい頃は「父は頼りになって強い人、母はそれについていく人」だと思っていましたが、実は逆だったようです。私が大人になり親と対等に話すようになって初めて母が「お父さんは強い男と思われたくて頑張っていたし、お母さんも男を立てるのが女の役目だと思ってそう振る舞っていた」と教えてくれて、見えているものがすべてではないんだなと思いました。
今では孫のことで泣く父のことを、母は「センチメンタルじじい」と呼んでいます。


かつて「夢を追うより結婚・出産したほうが幸せ」と言った母。でも親だって考え方は変わる

――自分が大人になり、さらに親という立場になると、「父だって母だって、何もかも知っているわけじゃない、正しいわけじゃなかったんだな」と実感する機会があるかと思います。やまもとさんご自身が、親になってみて実感することはありますか?

やまもとりえ 両親には不満はないのですが、私が「美大に行きたい」と言ったときも「仕事を頑張っているよ」と言った時も、母親から「女は夢を追うより結婚して子どもを産んだ方が幸せになれるから」とよく言われていたので、そのたびに大喧嘩して…。
今になって思えば、専業主婦で頑張ってきた母は、自分の人生を肯定したかっただけなのかもしれません。私自身も長男に「将来の夢ってどうやって決めたらいいかな?」という質問に「親に言われたことを無視して好きなことに突っ走るくらいでいいよ」と答えてしまって、これもこれで私は自分のことを肯定したいだけなのかもな、と反省したり…。
親って自分の価値観を子どもに押し付けがちなんですよね。
ちなみに、母は今となっては「女も手に職をつけていて良い時代なんだね」と言うようになりました。時代の空気もあるかもしれませんが、親だって考え方は変わるんです。


本当は繊細で不安定な人間。だけど「ブレない母」を演じていたい理由

「普通の家族」が理想だけど、普通って?

――子どもに見せたい姿、逆にあまり見せたくない側面など、二面性をもって接しているという人は実は少なくないのではないかと思いました。ご自身でそういったことを意識することや考えることなどはありますか?

やまもとりえ もともと私は繊細で不安定な弱々人間なんです。でも「母親は強くて安定してなきゃいけない」と思っていて…。なんというか、子どもの時くらい母親を頼りにしたいだろうなと思うので、「ブレない母」を演じていたいんです。でもやっぱり「無理だよぉ~どこか遠くに旅行にいきたい~」となることも多く…。なんだか私、父に似てきてますね…。そのうち「センチメンタルばばあ」と呼ばれるんでしょうね。

「理想とする幸せ」が完成しつつあると考えて…

自分が子どもだった頃、「大人」というものは、はるか遠くの存在に思えたもの。一番身近な「大人」として見続けてきた実の父親や母親を「すごい大人」だと認識していた人も多いかもしれません。しかし、いざ自分が大人になってみると、なんだか全然すごくない…。体は成長したものの、心は未熟な面もたくさんあって、子どもからの延長線上に「大人」があるんだなあということを痛感します。
「すごい大人」だと思っていた両親も、当時は仕事で悪戦苦闘していた…、育児がうまくいかなくて悩んでいた…なんていう話を聞くと「自分と変わらないんだな」と思えてきますよね。または、子どもへは苦労を見せまいとする親のプライドのようなものを感じたりするかもしれません。

お父さんにも事情があって

父親も母親も、実は完璧なんかではなかった。何もかも知っているわけではないし、正しいわけじゃない。悩んだり、迷い立ち止まったり、時には失敗したり。子どもの頃は知る由もなかった両親の一面を知ることは、同時に父親と母親のことを、本当はあまりよく知らなかったんだなと実感することなのかもしれません。それでも家族だから生活を共にする。心を寄せることもあれば、離れることもある。
家族それぞれが、他者には見せない側面を併せ持ちながら、家族という形を作っているのかもしれません。
家族の数だけ無数にある「家族のあり方」。その本質について、改めて気づかせてくれる物語です。

――最後に、読者さんやSNS上のフォロワーさんへメッセージを

やまもとりえ 漫画を読んでくれる人、フォローしてくれてる人、感想をくれる人、すべてに感謝しています。友達の少ない私の心を温めてくれるのはいつだって君たちだ。今後ともどうぞよろしくお願い致します。

【プロフィール】
やまもとりえ
鹿児島県出身、大阪府在住のイラストレーター。長男ヒヨくん7歳。次男あっくん4歳、4歳年下の旦那さん、猫のトンちゃんと暮らしている。妊娠中や育児のことを綴ったブログ「今日のヒヨくん〜やまもとりえ育児日記〜」が人気を集め、トップブロガーに。著書に『ねこでよければ』『Aさんの場合。』などがある。最新著書「わたしは家族がわからない」が発売に

取材・文=河野 あすみ

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