ひと口も食べずにひっくり返ったお弁当。子どもの失敗を「かわいそうに」となぐさめる前に/大人になってもできないことだらけです(3)

うまくいかなくても、一緒に笑えたら、それだけで意味があるよね。
学童の支援員(放課後児童支援員)である保育士・きしもとたかひろさんが、日々多くの子どもたちと関わる中で感じた「できる」「できない」の先にある大切なこと。
「できないこと」に目がいきやすい、子どもたちとの生活。口うるさく注意するたびに、できなくて落ち込む子どもの姿。本当はお互い笑顔で過ごしていたいのに…。ふと思い返せば、自分自身が「できない自分」を「ダメな自分」と思い込み、それを子どもにも当てはめてしまっていた。
日々葛藤を続けながら「どうしたらうまくできるか?」ではなく「うまくいかなくてもええんちゃう?」「子どもも大人もしんどくない今を考える」というきしもとさんの視点が、SNSを中心に多くの共感を集めています。
子育てにまつわる身近な悩みや、子どもとの関わりで体験した温かいエピソードの数々。いまあなたが抱えている「しんどさ」をゆっくり手放すためのきっかけが見つかるかもしれません。
※本記事はきしもと たかひろ著の書籍『大人になってもできないことだらけです』から一部抜粋・編集しました。
ベンチからナポリタン
朝、ラップにくるんだご飯を電子レンジで温める。横着して素手で茶碗に移そうとしたものだから熱さに耐えきれず、ラップをはがしたタイミングで熱々のご飯が茶碗ではなく床へダイブする。
朝食をとれないまま家を出て鍵を閉めたところで、着ているパーカーが部屋着だと気づく。さっきの米粒が裾についていて、さすがにこの格好では出勤できないなと、閉めた鍵を抜かずに反対に回す。
着替えをして部屋の鍵を再び閉めてから階段を下り始めたところで、同じアパートの住人と目が合ったので会釈をする。大きな袋を抱えているのが目に入って、あることを思い出す。
前々回のゴミの日から出しそびれて膨れた45L袋を、今度こそ忘れないようにと昨晩玄関に置いたのだった。下りかけた階段を一段飛ばしで駆け上る。
ごみ集積所に来て本日最大のミッションを遂行した達成感でスキップしそうになったところで、ポケットWi-Fi を忘れたことに気づく。Wi-Fi 環境なしで1日過ごす不便さを考えれば、電車1本遅らせても取りに帰るべきか、と考えて踵(きびす)を返す。

ポケットWi-Fi をカバンに押し込み、ようやく駅に向かって歩き出す。出だし順調とは言い難いけれど、雲ひとつない空を見たらいい1日になりそうな気がして大きく深呼吸する。
少し冷たい空気が心地いい……あれ? ……マスクをしていない。なんてこった。財布は忘れてもマスクは忘れてはいけないこのご時世。さすがに取りに帰らないわけにはいかない。
2本遅らせた電車に乗りながら友人からのメールに返信する。朝から散々だったことも報告すると「通常運転で安心するわ」と返信が来た。
そうか、これが僕の通常運転か。たしかにうまくいかないことも平常だと思えばイライラしない。うまく生きられない自分をそのまま受け入れてくれる存在はありがたい。
音楽を聞いて気分を上げようとイヤホンを探す。朝、歯を磨きながら出発の準備をしているときに手に取ったイヤホンを、忘れないようにとパーカーのポケットに入れたのだ。
そうだ、「忘れないように」とパーカーのポケットに入れたのだった。落ち込むどころかむしろ期待を裏切らない自分に感心する。うん大丈夫、これが僕の通常運転だ。
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