主婦にかわる言葉はあるか? モヤモヤの正体と私たちの解

主婦にかわる言葉はあるか? モヤモヤの正体と私たちの解

『主婦』という言葉について問う、全3回の連載。これまでアンケートや座談会、識者への取材から見えた『主婦』という言葉にまつわる違和感について考えてきました。
その中で『主婦』という言葉に違和感を持つ層が一定数いること、また、その違和感の原因は、『主婦』を取り巻く歴史的背景と現代の状況とのギャップによるものということが明確になりました。

夫と妻、どちらの負担が重い? 令和時代のリアルな夫婦のモヤモヤに共感。『夫ですが会社辞めました』著者・とげとげ。さんインタビュー
2022.7.4 Yahooクラウドソーシングにてアンケートを実施。有効回答2000人のうち、20~40代のパートナーのいる女性516人の回答を抽出

(2022.7.4 Yahooクラウドソーシングにてアンケートを実施。有効回答2000人のうち、20~40代のパートナーのいる女性516人の回答を抽出)

こちらのグラフが示すように、働く女性に対する「あなたはご自身のことを『主婦(夫)』だと思いますか?」という問いに「いいえ」「どちらとも言えない」と答えたのは50%超。ここから読み解けるのは、一定数以上『主婦』という言葉に違和感を抱く方がいるということです。しかし現在、既婚女性の総称として『主婦』という言葉がまだまだ使われていることも事実。この結果を受け、最終回では『主婦』にかわる言葉について考えていきます。
※この記事は、レタスクラブWEBとYahoo!ニュースの共同連携企画です。



「片付け大臣」と「料理長」!? 家事を具体的に細分化した結果

妻と子どもを持つ夫・父でもある、料理研究家のジョーさん。は『主婦』という言葉に違和感をおぼえる一人。家庭の中では細かく役割分担をされているといいます。そんなジョーさん。にお話をうかがいました。

ジョーさん。/料理研究家

ジョーさん。/料理研究家。多忙だった母を手伝いたいという子ども時代の想いから料理を始める。「台所に立つのが楽しくなるように」をモットーに幅広いレシピを考案。著書に『ジョーさん。の神速うまレシピ』『このレシピ リピ確定です』など。

「私は、結婚をしてお子さんがいる女性と仕事をすることも多いのですが、その方を『主婦』だとは思わないんですよ。というのも『主婦』という言葉が「家のことをすべてこなす人」というニュアンスで使われているような気がするからです。 そういう考え方がベースにあるので、妻は家族というチームのチームメイトだと考えています。そのチームでやらなければいけないことの多くが家事です。

家事の好き嫌いや得意不得意は誰にだってありますよね。わが家では家事をジャンル分けし、それぞれの得意分野で担当分けして、例えば「片付け大臣」「料理長」というように、ちょっとおもしろい名前をつけて役割分担しています」

ジョーさん。ご家族は、良い割合でうまく分担ができているようですが、実はこの役割分担は最初からしっかり決められていたものではなかったようです。暮らしの中で、ときにはケンカもしながら話し合い、お互いのちょうど良い価値観で役割を決定し、いまの形に。これからも家庭環境の変化に合わせながらアップデートしていく予定だそうです。

見えてきた日本社会の問題

結婚・出産・子育てなどを経済学的手法から研究されている、東京大学経済学研究科教授・山口慎太郎先生と、実践女子大学人間社会学部教授・広井多鶴子先生にも、既婚女性や子どものいる女性を呼ぶ際、ある種便利な総称として使われてきた『主婦』に代わる言葉があるかうかがってみました。

山口慎太郎先生/東京大学経済学研究科教授

山口慎太郎先生/東京大学経済学研究科教授。内閣府・男女共同参画会議議員、朝日新聞論壇委員、日本経済新聞コラムニストなども務める。著書『「家族の幸せ」の経済学』『子育て支援の経済学』で数々の賞を受賞。

山口先生は、「見当たらない」と言いつつも、欧米では一般的になっている『ホームメーカー』という言葉を提示。また、広井先生も「強いて言うならば…」と前置きした上で、同じく『ホームメーカー』を挙げてくださいました。

欧米で『ホームメーカー』が一般的になる前は『ハウスワイフ』という表現が使用されていたそうです。しかし、ワイフという言葉がつくことで女性に限定した役割であるかのように捉えられるとして、次第に使われないように。社会の変化に応じ、家事に性を持ち込まない『ホームメーカー』という言葉にかわっていったのだとか。

お二人はさらに「問題は言葉だけではなく、日本の家庭においていまだ女性の負担が大きいことだ」と言及します。
山口先生は「世界の高所得国の、男性の家事・育児負担割合を見たとき、日本の男性は突出して負担割合が低く15%。この表が示すような家事・育児負担割合の男女間格差が、早急に解決すべき課題だと考えます」と指摘します。

男性の家事・育児負担率と出生率(2010-2019)

作成者:山口慎太郎(東京大学)
データ出所:OECD Gender Data Portal (2021) およびWorld Bank Open Data (2021)
注:高所得国(世界銀行の定義)対象

男性が家事に参加しやすくなる社会が解決の一歩に

さらに山口先生は、「家事・育児負担割合が男女間で偏っている原因の一つが、男性の労働時間の長さです。現在、男性が仕事に過度に時間を割かなければならない状況があると言えます。男性が物理的に家事や育児に費やすことのできる時間を増やすことが、現状を打破する第一歩になります。個人でできることに取り組むと同時に、行政やビジネス界のリーダーの積極的な問題の認識と改善を期待したいと思います」と続けます。

広井先生もまた、「男性の長時間労働と女性の家事労働の過重な負担は、個々の家庭の問題というより、日本社会のシステムの問題です。1970年代以降、先進国の多くはそうしたシステムを変えてきました。性別役割分業体制の行き詰まりが明らかな現在、日本でも改革を急ぐべきです」と言います。

山口先生は、「社会が変わるには時間がかかるけれど、家庭単位ですこしずつ変わっていくことはできる」とも明言します。その第一歩として、次のような提案をいただきました。「パートナーとよく話をして、どこまで自分たちが譲れるのかを決めましょう。例えば毎食手作りのものを食べる必要が本当にあるのか、それよりももっと自分たちの時間を大事にしたいのか、など。視野を広げ、今までの当たり前以外にも選択肢があるということを知ることが変化のきっかけです」

「主婦」に代わる言葉は必要ない。家庭ごとに最適な役割分担を

識者へのインタビュー、アンケート、座談会など、様々な角度から『主婦』という言葉にまつわる違和感と、その代わりとなる言葉について考えてきました。

違和感の原因は『主婦』という言葉が持つ歴史的な背景と、現代の女性を取り巻く状況のギャップにあることが分かりました。
同時に、その違和感は社会が変わる中で女性の社会的地位が向上してきた結果と言うこともできます。

「社会は確実に変わりつつあります。男性の家事育児参加も少しずつ増えてきており、昔は想像すらしなかった男性の育休制度も誕生しました。現在、日本全体での男性の育休取得率は約14%。以前より確実に前に進んでいるのです」と山口先生。

令和3年の6月には育児・介護休業法が改正され、その一部として男性の育児休業取得を促進するための枠組みが制定されました。さらに今月には、原則、子が1歳になるまで取得できる産後パパ育休や育児休業の分割取得も可能になり、制度はますます進化を遂げています。

外国に目を向けると、人々が声を上げ、行動したことによってジェンダーギャップが限りなく縮まった国もあります。かつては考えられなかった変化が起きている過渡期の日本。『主婦』という言葉に対するモヤモヤを考えてきた連載の最後に、より良い社会のため、個人ではどう行動するべきなのか、山口先生にうかがいました。
「大切なのは『主婦』を言い換える言葉を探すことではなく、家事負担についてモヤモヤを抱えた一人ひとりが、家族全員で自分の家庭にとって最適な役割分担を考えることです。家庭単位で変わることが、社会が変わる一歩になります」

家族のメンバーが納得できる役割分担なのであれば、細分化して分担することも、従来の専業主婦というスタイルを選択することも、すべて正解。その先にあるのが『主婦』という長らく使われてきた呼称が必要なくなり、すべての人の自分らしい生き方が尊重される社会なのではないでしょうか。


取材・文=伊藤延枝、レタスクラブWEB編集部

この記事に共感したら

本ページはアフェリエイトプログラムによる収益を得ています

おすすめ読みもの(PR)

プレゼント応募

新規会員登録する

読みものランキング

読みものランキングをもっと見る

レシピランキング

レシピランキングをもっと見る

レタスクラブ最新号

レタスクラブ最新号詳細