「料理は食材とのセッション」ミュージシャン大江千里さんが作るNY流「ソロめし」って?

#食   

1980~90年代、「十人十色」(‘84年)「格好悪いふられ方」(‘91年)など数々のヒット曲を生んだ大江千里さん。“元祖メガネ男子”としてファンだという人も多いのでは? 2008年にジャズの勉強をするため47歳でニューヨークの音楽大学に留学して以来、新たなジャンルでひたむきに努力を重ね、今やジャズピアニストとしてその才能を再び開花させています。

そんな大江さんが、14年間の忙しい音楽活動の傍ら励んできた料理が“ソロめし”。ついにはレシピ本も出版し、2023年5月21日にはデビュー40周年を迎え、ますますエネルギッシュに活動する大江さんに、インタビューすることができました。

『ブルックリンでソロめし! 美味しい!カンタン!驚き!の大江屋レシピから46皿のラブ&ピース』

料理はその日ある食材とセッションするように。想像力でレパートリーを増やしていく

――「ブルックリンでソロめし! 美味しい!カンタン!驚き!の大江屋レシピから46皿のラブ&ピース」は、大江さんがいかに日々“ソロめし”作りを楽しんでいるかがビビッドに伝わってきますね。

大江:ありがとうございます! 僕なりに今まで食べてきたおいしいものの記憶や、これとこれを組み合わせればおいしくなるんじゃないかっていう想像力とで出来上がったレシピです。2016年から「note」で発表してきたのが、気づいたら200以上になっていたので、46皿に厳選しさらに書き下ろしのエッセイを添えています。

――「粉ないもん」(小麦粉を使わない「粉もん」料理)や「ビーツのスパゲッティ」など、独創的なレシピは読むだけでも楽しいし、おいしそうなので真似したくなります。大江さんご自身がよく作る自信作は?

ブルックリンのキッチンで200超のレシピを生み出してきた

大江:やっぱり表紙にもなっているトマトのポモドーロはわが家の定番で、お客さんに出すたびに「おいしい」って言われます。でもいつも何かアップデートしているな。きょう(取材は11月初旬)作った、洋梨とチーズをスライスして細かく刻んでルッコラとあえて、バルサミコ酢とブラックペッパーと粗塩をじゃりじゃりかけて食べるっていうのも抜群です! そんなふうに、その日ある食材とセッションするように作っていくんです。ブロッコリーの茎しか残っていないな、なんて時もあるでしょう? でも残り物の野菜を千切りにして、餃子の皮に詰めて作る蒸し餃子も、肉が入っていなくても餃子だ! おいしい!ってことを発見したので、最近はそれが前菜のレパートリーになっています。

今の家の近所にはレストランが少ない。そのため自炊に励むことに 


――残り物も余さず使う精神は見習いたいです。

大江:「サステナブル」なんて言われる時代になる前から、亡くなった母が本当に食材を全部使い切る人だったので。冷蔵庫に残っているものは、本当にダメになる手前のところまで全部使います。アメリカでは、スーパーで買ってきた野菜が傷んでいるぐらいで屈していては生きていけないんで(笑)、傷んだ部分は切り落として、調理してから冷蔵庫にストックするぞ、みたいに頭を切り替えるようになりました。たまに日本に帰るとピチピチ新鮮な魚や野菜が、アメリカの10分の1ぐらいの値段で売っていてすごい!って感じることも多い。ただこちらでも、探せばクオリティがあって日本より安いものも見つけられるんです。なじみのカルロスって男の子がやっている魚屋さんだとリトルネックっていうハマグリとか、プローン海老なんかは新鮮なものをダズン(12個入)で買っても6ドルとかだし、朝市でも「きょうはコレが買いだな」っていうもの直感で選んで買っています。

盛りつけは大切。色味と量とバランスと…『食いしん坊の僕』のために『シェフの僕』が作る一皿


――アメリカで日本食が恋しくなっても、食材がなかなか手に入らなかったりする。でもそれを乗り越えるアイデアの数々、センスもすばらしいですね。

大江:僕の住んでいるエリアはメキシカン、コロンビアン、プエルトリカンが多いので、ドラゴンフルーツやアロエなんかはあるんだけれど、残念ながら日本のお米がなかなかない! 麦飯とキヌアと、「惜しい!日本のお米じゃない!」っていう外国米を混ぜて何とか工夫して日本米っぽく炊いてます。つい最近も、ちゃんぽんが作りたいけど中華麺はなかったので、イタリアンのフェトチーネを使ってスープパスタ、でも味つけは中華風、とかね、食材の切り方も食感を考えてアレンジしながら…毎日試行錯誤の連続です。

ブルックリンの僕の住むあたりは見慣れないフルーツの王国。その中から気分に合う1個を選ぶ


愛犬ぴーすとブルックリンで暮らす。料理は「誰かのために作る」から俄然やる気になる

――渡米のときからずっと苦楽を共にし暮らしている、ダックスフントのぴーすのごはんと一緒に作るレシピもありますね。

僕はぴーすのごはんから自分のごはんの材料を度々ちょうだいすることだってある。だから、彼女のごはんは、僕にとっても命の源なのである

大江:僕は47歳の時にジャズがある程度できてると思って渡米したのに、学校では全く通用せず、ゼロから学び直した時期が2年ぐらいあったんです。でもその時期は特にぴーすが寄り添って、僕がエキセントリックになってた時も、側でじっと見ていてくれた。そんな彼女を見ると、僕もごめんごめんってクールダウンしてぴーすを抱きしめて通常モードに戻り、というのがあった。だから彼女のお陰で羽目を外さずに卒業して、今もジャズの道を進めてこれたところがあるんです。そういう意味では家族として特別な存在。もう人間で言うと96歳くらいらしくて、目も見えていないんですが、ぴーすに長く元気でいてもらうために栄養面を考えて手作りを続けてきた面もあります。ぴーす用にいい食材を買ってきて、僕はそれをちょっとスティール(=盗むこと)しているだけ(笑)。だから僕の好物でも、イチジク、アボカド、ネギなど犬にNGなものは我が家じゃあまり冷蔵庫にはないんです。

――やはり、誰かのために作る、という気持ちが大事なんですね。

大江:そうなんです。「ブルックリンでソロめし!」って自分をお客さんに見立てて最高の晩餐を届けるって意味なんです。誰かのためにって思うと俄然一生懸命おいしいものを作ろうとやる気になりますよね。僕自身の中にも“作る人”と“食べる人”がいて、“作る人”の自分が、“食べる人”のために「これが最後の晩餐のつもりで、絶対においしく作ってやるぞ!」という意気込みでクッキングしています。僕の音楽を聴く方の中にも、毎日家族のために料理をされている方は多いと思うので、アドバイスをもらったりしながらワイワイ楽しくSNSは盛り上がってます。僕なりに悪戦苦闘しながら、パワーとエネルギー、アイデアを詰め込んだレシピなので、読んで楽しんでいただければうれしいな。

ブルックリンで作るソロめしは毎回が「最後の晩餐」である(by 大江千里)


2023年はデビュー40周年!鋭意制作中のアルバムは大江千里の"新レシピ"に

――デビュー40周年ということで、本業のほうもお忙しそうです。毎日どんな生活でしょう?

大江:ぴーすが毎朝3時半か4時ぐらいに僕を起こしてくるので、夜は7時半ぐらいには寝ちゃう。そんな朝方生活と自炊のお陰か、健康チェックの数字もそこそこギリギリなんとかなってる感じです。ぴーすは目が見えないことをものともせず非常に快活で、「これができない」とは思わず何にでも挑戦するのです。そんな姿を見ていると、僕も、「今あるものを最大限に活かして、僕にしかできない世界を作ろう」と、勇気をもらっています。2023年5月21日の40周年記念日に向けて12月に日本でライブをしましたし、アルバムも鋭意制作中です。僕が日本でかつて書いたポップス曲をジャズのフィーリングでリアレンジしたり、もちろんジャズの新曲も入れたりして、新作では今までにないおいしい大江千里世界を作るぞと思っているので、“新しいレシピ”、楽しみにしていてください!

取材・文=magbug

【プロフィール】
大江千里
1960年9月6日生まれ。1983年に関西学院大学在学中にシンガーソングライターとしてデビュー。2007年末までに45枚のシングルと18枚のオリジナルアルバムを発表。2008年、愛犬ぴーすと渡米しNYの音楽大学に留学する。2012年、卒業と同時にPND RECORDSを設立し、これまでに『Boys Mature Slow』(2016)、『Boys&Girls』(2018)、『Hmmm』(2019)、『Letter to N.Y.』(2021)など、7作のジャズアルバムをリリース。2022年11月28日に著書「ブルックリンでソロめし! 美味しい!カンタン!驚き!の大江屋レシピから46皿のラブ&ピース」を発売。来春には、40周年記念アルバムを発売予定。

在米14年の大江千里さん

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大江千里のニューヨーク三部作大好評発売中(電子書籍もあり)
「9番目の音を探して 47歳からのニューヨークジャズ留学」
「ブルックリンでジャズを耕す 52歳から始めるひとりビジネス」
「マンハッタンに陽はまた昇る 60歳から始まる青春グラフィティ」






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