ほのぼのとしたタッチで描かれる、主人公・ねここと夫の日常。幸せな結婚生活のエピソードに、順風満帆な人生を送っているように見える彼女ですが、実は過去のトラウマから「生きづらさ」を感じて生きていました。
そのトラウマとは、子どもの頃に経験した長期にわたるいじめ…。社会人になっても人に対する恐怖心を抱え、常に居心地の悪さを感じていましたが、勇気をもって一歩踏み出したことで、ねここの人生は少しずつ変化していきます。
楽しかった思い出と過去のしこりに向き合うために
――本作を描こうと思ったきっかけは?
しのざきあゆみさん: 育児で余裕がなく、夫との口ゲンカが多くなったことがきっかけでした。楽しかったときのことを思い出そうと4コマ漫画として描いていたんです。描き始めると心が穏やかになっていき、夫への接し方が変わっていくのが自分でも分かりました。そして、妊娠・出産の頃のエピソードを描いていたとき、過去に受けていたいじめのしこりが残っていることを改めて認識し、当時感じていた感情に向き合いたくなったんです。
――漫画を描き始めたのはいつからですか?本作が初めての作品でしょうか?
しのざきあゆみさん: 小2の頃に初めて少女漫画雑誌を読んだことがきっかけで、毎日学校から帰るとネームを描いていました。当時はなかなか完成させられなかったのですが、ただただ夢中で描いていた記憶があります。なので、以前からネームはたくさん描いていたのですが、ペン入れをして最後まで描いたのは3作目です。ここ数年は漫画から離れていたのですが、去年からコミックエッセイという形で新たに描き始めました。そんなとき、第2子出産直前に偶然「レタスクラブコミックエッセイ新人賞 powered by LINEマンガ インディーズ」の記事を見つけ、これは!と思い応募しました。
生きてさえすれば、きっと未来は楽しくなる!
――子どもの頃のいじめにより、ツラい経験をしてきたしのざきさん。当時、学校で過ごす中で心が折れそうになることもあったと思います。どのようにして乗り越えてきたのですか?
しのざきあゆみさん: ずっと自分の心が折れないように、鎧をまとっていました。家でも誰にも言えなくて、私に「学校に行かない」という選択肢はありませんでした。でも、誰も私に関わらないという空気の中で、ずっと離れずに側にいてくれた友人がいて、その子の存在がとても大きかったです。誰か一人でも自分の味方でいてくれると、人は頑張れるのだと思います。
――過去のいじめの「しこり」と向き合いながら描かれた本作。描く前と現在で、心境に変化はありますか?
しのざきあゆみさん: 過去のいじめについては親や兄妹も知らないことだったので、ためらいはありました。けれど、そこを描くことは避けては通れないと思っていました。また描いたことで、長くくすぶっていた自分の気持ちにも向き合うことができたと思います。すべてではないけれど、受けていたいじめは過去のこととして、自分から切り離された感覚があります。
――本作を読んで、心が温まると共に、少しずつでも一歩踏み出す勇気の大切さを教えてもらいました。しのざきさんが、この作品を通して読者に伝えたいこと、感じてほしいことは何ですか?
しのざきあゆみさん: ありがとうございます。ニュースで、いじめで自らの命を断ってしまう人の報道を見るたびに思うことがありました。「生きてさえすれば、きっと未来は楽しくなるよ」と、いじめで苦しい思いをしている人に伝えたいです。
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いじめは、誰にとっても他人事ではありません。主人公・ねここが感じている「生きづらさ」に共感する人も多いのではないでしょうか。一歩踏み出した彼女の姿に、勇気をもらえる作品です。
取材・文=松田支信