

物語は、「あなたは学生時代に教室の隅に居た誰かの その後の人生を想像したことはありますか?」という問いかけから始まります。主人公・ねここと夫の幸せな結婚生活が描かれる中で、徐々に彼女の「生きづらさ」が垣間見えてきて…。
子どもの頃に経験した長期にわたるいじめ、そして社会人になっても悩まされる後遺症。人に対する恐怖心を抱え、常に居心地の悪さを感じていきていたねここですが、勇気をもって一歩踏み出したことで、彼女の人生は少しずつ変化していきます。
人の優しさに気付き、応えられるようになりたい

――人への恐怖心が消えず、社会人になってもめまいや吐き気に悩まされている中で、会社の飲み会に参加するなど、人と関わろうと一歩踏み出す姿が印象的でした。
しのざきあゆみさん:仕事をしていくうえで、人とうまくやっていかなければと思っていたので、飲み会にも頑張って参加していました。あるとき、職場で好きなお土産の話を聞かれた事があって、あれこれと答えていたら「それそれ〜!その感じ」と言ってもらったときがあったんです。それで、「もっと人の優しさに気付いて、応えられるようになりたい」「私も優しくなりたい」と思いました。

――旅先で初めて出会ったご主人に、連絡先を書いた「ラブレター」を渡したことも、かなり勇気がいることだったと思います。まさに人生の転機だったと思いますが、当時このような思い切った行動にうつせたのは何故だと思いますか?
しのざきあゆみさん:私自身も、まさかそんな漫画みたいな行動をするとは思いませんでした。漫画が好きだからできたのかもしれません。でも一番は、友人が背中を押してくれたからだと思います。


――そこから結婚に至るなんて、とてもドラマチックですよね。現在はご主人と2人のお子さんと暮らされていますが、今も「生きづらさ」を感じることはありますか?また、そう感じたときの対処法は?
しのざきあゆみさん:私は35歳になり、結婚して地方に住み、子どもが産まれて、周囲との関係も比較的良好で生きづらさを感じることはあまりなくなりました。けれど未だに中高校生の集団がいる場所に行くと、動機がして呼吸が苦しくなることがあります。そんなときはなるべく深呼吸をして、「彼らは、私を見ていない」と自分に言い聞かせています。
いじめについて、立ち止まって考えてみてほしい
――本作は「レタスクラブコミックエッセイ新人賞 powered by LINEマンガ インディーズ」の入賞作ですが、入賞されたときのお気持ちは?また、ご主人や周りの方からはどのような反応がありましたか?
しのざきあゆみさん:入賞のご連絡をいただいたときは、飛び上がるほどよろこんで、何度もメールを読み返していました。私の経験に共感していただけたことが本当に嬉しかったです。夫からは、「良かったね!…って、俺も出演しているの?」とびっくりされました(笑)。親は、「(生きづらかったという過去を)初めて聞いて、ショックだった。でも、今は楽しくて良かったね」と言ってくれました。
――今、ご主人とお子さんたちに伝えたいことは?
しのざきあゆみさん:「一緒に居てくれてありがとう。これからも、よろしくね!」という気持ちです。
――今後は、どのような作品を描いていきたいですか?
しのざきあゆみさん:誰かの埋もれた気持ちをほぐすことのできるような作品や、シリアスな作品にも挑戦していきたいです。今後はコミックエッセイを中心に、どんどん描けたらいいなと思っています! そして、小中学生向けの児童書や漫画原作にも携わっていけるようになりたいです。


――最後に、読者にメッセージをお願いします。
しのざきあゆみさん:いじめの記憶は、多かれ少なかれ、皆さんの中にも残っているものだと思います。私ももしかしたら、忘れているだけで誰かのことをいじめていたのかもしれません。立ち止まって考えてみてほしいです。
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勇気をもって一歩踏み出したことで、愛する夫と子どもたちと幸せな家庭を築くまでに至ったねここのエピソードに、心が動かされます。
取材・文=松田支信