涙なしには読めない漫画『看取りのお医者さん』発売記念 ひぐらしカンナさんインタビュー
名古屋の訪問医・杉本由佳さんが、自宅で病と向き合う患者と家族に寄り添う日々を紹介したラジオドキュメンタリーを原案に、「自宅での看取り」をマンガにして感動を呼んでいる『看取りのお医者さん』。マンガを手掛けた、ひぐらしカンナさんにお話を伺いました。
――『看取りのお医者さん』、涙なしには読めませんでした。日本民間放送連盟賞ラジオ教養番組部門最優秀賞、文化庁芸術祭優秀賞を受賞したCBCラジオドキュメンタリー「看取りのカタチ」を原案とした作品ですが、発売から約2カ月が経ち、周囲の反響はいかがですか?
読者の方からは「私も最期は我が家でにぎやかに話しながら旅立ちたい」「病身の夫の願いで好きなものを食べさせる話を読んで、自分の勤める医療施設でも対応を考えていこうと思いました」「号泣しました」などと感想をいただきました。特に、1話のおでんの話(「病人でなく妻、そしてお母さんに戻りたい」)と6話「お別れの泣き笑い」は何回読み返しても心に沁みて感動の涙が溢れて来る」という感想を沢山いただいています。
身近な声としては、着色アシスタントが2人いますが、泣きながら漫画に色を塗る作業をしたそうです。
――たくさんの方に感動が伝わっているのですね。それぞれのエピソードにとてもリアリティがありました。取材はどのようにされのでしょうか。
原案であるCBCラジオのドキュメンタリー番組「看取りのカタチ」を聞きこんだ他、モデルとなった杉本由佳先生の診療所で行われている勉強会、年に一度の忘年会に行き、取材を行いました。それ以外には、私の周りの方の話も参考にしています。1話はすい臓がんのお母さんの話でしたが、実在する末期のすい臓がんの人から病状を取材しました。
6話はラジオ原案を骨組みに、肉付けは我が家の看取り体験をそのまま足しました。具体的には孫がおばあさんと湿布の貼りあいっこをする、寝たきりのおばあさんの部屋までおやつをもらいに行く、おばあさんとじゃんけんさせておやつをゲットする、などのシーンです。うちは四世代家族なのでそういうエピソードが沢山あるんです。
――リアリティがあるのには理由があったのですね。実話のマンガ化ということで、制作はどんなふうに行われたのでしょうか? 大変だった点や、意識して工夫された点などを教えてください。
原案はCBCラジオのものだったので、私はそれに肉付けをしてストーリーに組み立てる作業をしました。実際の出来事をもとにする制作ではいつもそうなのですが、「実話」や「本当にあった」ということから、自由なドラマ仕立てにできない葛藤があります。
実在のモデルとなった方々に最大限配慮をしながら、言い回しや設定、名前に至るまで、何度も試行錯誤を重ねました。
工夫した点は、梅・桜・メジロ(鳥)・ツリーなどカラフルな季語的素材を意識的に入れることです。(患者さんが季節の経緯を感じながら生きているところはとても大切だと思ったからです)
患者さんのご病気の描写は監修を受けながら丁寧に描くけれど、フルカラー漫画なので色合いが極端にならないように気をつけること(本題は別にあるから)などがありました。
登場するご飯の描写を美味しそうに描くことも気をつけました(笑)
――どのエピソードも胸に迫るものばかりですが、ひぐらし先生にとって、特に印象深いエピソードはどれですか? またその理由を教えてください。
やはり、1話のおでんの話、でしょうか。
1話はすい臓がんのお母さんの話でしたが、実は同い年で末期のすい臓がんの友人がいたんです。彼は私の熱心な読者さんでした。痛みの様子や見た目の変化などを、自身を撮影してこの本のためにスマホで送り続けて協力してくれました。最後は体重が35kgを切ってしまいましたが、筋肉がそげてスマホを持てなくなるまで私に送り続けてくれました。
『看取りのお医者さん』を読めるのを心から楽しみにしてくれていましたが、彼は本を読むことなく昨年12月のクリスマスイブに旅立ちました。1話のすい臓がんのお母さんを看取る剛の中には私の気持ちも混じっています。ちなみに彼は自宅で看取られました。
――そんなふうに、この本ができるまでに力を貸してくださった方がいらしたのですね。感動が深まりました。ひぐらし先生ご自身も10代の頃に大病のご経験があり、現在は義理のお母様と同居なさっているとのこと。在宅医療の活動をマンガ化されて、どんな感想をお持ちになりましたか?
はい。私は大病を持ちながら嫁に迎えてもらいました。また漫画家デビュー連載決定と、妊娠出産が同時に重なった時は、義母や生前の義父や義祖母には「漫画はお前にしか描けん、このチャンスを逃すな、子育ては俺たちが手伝ってやるからお前は漫画を頑張れ」と背中を押してもらったんです。その時の泣くほどありがたかった気持ちをこの執筆で思い出しました。
今までは在宅で介護や看護をするということに、「素人の自分にはできない」とか「突然吐血されてもどうしていいかきっとわからない、最初からプロに丸投げした方が楽だ」などマイナスイメージがありました。
でも、そのネガティブさから義父や義祖母を十分看取ることができなかったことを心から反省し、この5月に市が開設した介護職員初任者研修に申し込みをしました。
実父母と義母に、できる範囲でそばに寄り添いたいと思っています。今は亡き義父や義祖母の分まで義母に恩返ししようと思っています。
――この本を通じて、読者に伝えたいことはなんですか?
自分自身がそうなのですが、大病や難病で長期闘病している人のほとんどは、体の痛みより先に「心の痛み」と戦っていると感じます。
杉本先生は体の痛みをやわらげる処置をすると同時に、患者さんとご家族の心身のフォローも大切にされています。こんなに懸命に在宅医療に取り組んでらっしゃる先生が名古屋に実在することを知ってほしいです。
――最後に、読者の皆さまへメッセージをお願いいたします。
病と闘っておられる方やそのご家族、医療関係者のお知り合いが身近にいたら、是非この『看取りのお医者さん』を読んでいただけたらと思っております。
私自身、実は執筆作業中に乳がんの告知を受けていたのですが、杉本先生と患者さん方のエピソードから力をもらいました(その後、乳がんは不思議なことに「乳管内膿腫(がんではない細胞の一種)」に変わりました)。
原案のCBCラジオドキュメンタリーも再放送の機会あれば杉本先生と家族との生の交流を是非!!!聞いてみてください。
(構成/波多野公美)
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Information
『看取りのお医者さん』
日本民間放送連盟賞 ラジオ教養番組部門 最優秀賞、文化庁芸術祭 優秀賞に輝いたドキュメンタリー番組「看取りのカタチ」原案のマンガ作品。
訪問医・杉本由佳が叶えるのは、余命を告げられた患者の「家で暮らしたい」という願い。闘病で忘れかけていた家族との日常。そこにはたしかな幸福と、今まで気づけなかった深い愛があった――切なくもあたたかな涙があふれだす、5つの別れの物語。
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愛知県名古屋市生まれ。漫画家。大学卒業後、高校の国語教員となり、第一子の出産を機に漫画家に転身。自らの出産、育児体験をつづった『オギャーの花道!』(主婦の友社)など著書多数
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