はじめに
私が高校1年生のときに母ががんで亡くなり、それから父が毎日の弁当を作ってくれるようになった。
弁当箱にぎっちりご飯が詰められ、父が営んでいた焼きとり屋の前夜の残り物がドカーンとのっていた。
つくね照り焼き、銀だら西京焼き、鶏から揚げのポン酢がけ、甘い卵焼き、豚こま炒めなどなど。
彩りのためのブロッコリーもミニトマトも一切なしの、真っ茶色の男の弁当。
これがめっぽう、うまかった!!
今でも思い出すと食べたくなる。
暗い台所で大きな背中を丸めながら弁当を作ってくれていた父の姿が、昨日のことのように思い出される。
結局、その後、夜遅くまで仕事をしている父に申し訳ないのと、気恥ずかしさから、弁当はいらないと言って、学食のパンに切り替えた。父の弁当作りは半年で終わった。
それから数十年が経ち、私も3人の子どもの父親になった。
そして十年ほど前、妻をがんで亡くし、父とまったく同じ状況になった。
仕事が忙しくなり、家のことを何もできない日々が続いたが、なんとか頑張って運動会の弁当だけは毎年作ってきた。
そうこうしているうちに子どもたちも大きくなり、気付けば弁当が必要なのは高校生の息子だけになった。
息子の高校は立派な学食もあるのでどうするかと尋ねると、弁当がいいとの答え。あまりにも家のことをほったらかしにして、仕事を優先してきた私だったが、このときなぜか心に火がついた。
よし、毎日弁当を作ってやろう。
今まで何もしなかったぶんも取り返そう。
みんなどんどん大人になっていってしまう。やるなら今だろう。今しかない。
親父だって夜遅い仕事だったにもかかわらず、早起きして作ってくれたじゃないか。
こうして私の毎朝弁当作りの旅が始まった。
毎朝のお弁当ルーティーン
ここ数年、毎朝、家族のお弁当を作るようになり、仕事から帰ってからと、朝の時間の使い方がずいぶんと変化し、お弁当作りもようやくこなれてきた。そんな私の、お弁当のためのちょっとした夜の準備や朝、スムーズにお弁当作りをするための段取りを紹介したい。全国の、忙しい毎日を送る、お父さん、お母さん、お弁当担当のお姉さん、お兄さんのお役に立てるとうれしいです。
前日夜
1 仕事終わりにスーパーにて買い物。
遅くまで開いているスーパーで、明日のお弁当と自分用のちょっとしたつまみの材料を買って帰る。
2 夜のうちに前もってできる仕込みをする。
例えばシュウマイ弁当のように、肉だねなど仕込んでおけるものは夜のうちにやっておく。疲れて帰ってきたときは、ビールを飲みながらとかもあり。いつもは、パパッと仕込んで、明日のおかず兼、自分のつまみで一杯やるのが常。
当日朝
3 朝起きたら、まず米をとぎ(無洗米でもいいですよ。朝の時間は忙しいので。私も時々は無洗米です)、炊飯器にセットする。
4 さっと漬けておくもの(シュウマイ弁当だったら、かじきのしょうゆ焼きとか)を合わせ調味料に漬けておく。
5 シュウマイを包んで蒸す。
6 シュウマイを蒸している間に卵焼きを焼く。
7 そろそろご飯が炊き上がり。蒸らしている間にかじきを焼く。
8 お弁当箱に詰める。ここまでで、だいたい毎日40分くらい。
あー、今日もお疲れ様です、私!
【著者プロフィール】
笠原将弘
東京・恵比寿にある日本料理店「賛否両論」マスター。一男二女の父でもある。テレビをはじめ、雑誌連載、料理教室、イベントなどで幅広く活躍。著書に『鶏大事典』『超・鶏大事典』『実は、一菜でいい。おいしいおかずが一品あれば、それで充分という提案』(すべてKADOKAWA刊)など多数。
著=笠原将弘/『笠原将弘の 毎朝 父さん弁当』