中学受験を控えた子どもたちは、お昼過ぎには夏期講習に向かい、塾で夕食がわりのお弁当を食べ、20〜21時ごろまで勉強。そこから帰宅をして、また少し食事をしてからその日の復習や宿題をして、眠りにつくというパターンが多いかもしれませんね。
そして、夏休み中は翌朝、学校がないので「今日は遅くまで勉強をして、明日の朝はいつもより遅く起きてもいいかな」とがんばってしまうこともあるでしょう。
しかし、愛波先生は睡眠時間や起床時間のずれは体内時計をくるわせる原因だと言います。体内時計が乱れていると、朝になってもまだ体と脳は夜の状態のままなので、食欲が湧かず朝食を食べることができません。そのため血圧も上がらず、勉強をしている午前中の間、頭はぼーっとした状態のままなんてことに!
この状態を「ソーシャル・ジェットラグ(社会的時差ボケ)」と言います。このソーシャル・ジェットラグは、たった1日だけ夜型生活を送ったとしても、その翌朝だけでなく、その後2、3日の間、日中のパフォーマンスを低下させてしまうのが怖いところ。夏休みにすっかり「遅寝・遅起き」のパターンが身についてしまうと、2学期が始まった時に、睡眠リズムを取り戻すのがとても大変になってしまうのです。
夏休みこそ入試本番の時間にピークを持っていけるリズム作りを
睡眠リズムが崩れやすくなる夏休みですが、一方で、「入試本番の時間に実力を発揮できるピークを持っていく睡眠リズム」を作れるのも夏休みだと、愛波先生は言います。
試験の時に頭も体もしっかり目覚めて、ベストな状態で挑むには、テスト時間の3時間前に起きていることが大切。9時からテストが始まるのであれば、6時には起きている習慣が必要になります。これまで7時に起きていた子どもなら、いつもより1時間前に起きる練習が必要です。
しかし、これを受験直前の1ヶ月前に習慣づけるのは至難の業。なぜかというと、受験本番の冬は関東地方では朝の6時はまだ夜と同じ真っ暗な状態で、脳が「朝」と認識しにくいのです。
体内時計には「太陽の光」が重要な役割を果たしていて、朝日を浴びることで脳が「朝だ!」と認識して少しずつ体内時計を整えていきます。夏休み中の朝の6時であれば関東地方はすっかり太陽も昇り、カーテンを開ければしっかり朝日を浴びることができます。
夏休みが始まってから1週間に10分ずつ程度早起きをする練習を始めれば、夏休みが終わるころには6時に目覚める睡眠リズムが整い、上手に朝型にシフトをして、本番ではベストな状態で挑むことができるはずです。
夏休み中に睡眠サイクルを利用して、賢く知識の定着をさせよう
「東大生は受験中も7時間以上は寝ていた」などというニュース記事などを目にすることもあると思いますが、しっかり眠ることは、実は理にかなった勉強法なのです。睡眠には「記憶を定着させる」という重要な役割があります。つまり、睡眠が不十分など日中の学習や経験は定着しにくいのです。
人は、新たな記憶と古い記憶を編集・結合するノンレム睡眠と、記憶や学習に関わる海馬などの大脳が活発に働くレム睡眠の繰り返しによって、日中に学んだことの情報を整理し、知識として定着させていきます。
このノンレム睡眠とレム睡眠がセットになって記憶の定着を後押ししているので、睡眠時間が長いほどノンレム睡眠とレム睡眠のサイクルが増え、より効果的に知識が身につくのです。睡眠時間を確保しやすい夏休みだからこそ、睡眠サイクルを意識して生活することで、夏の間に身につけたことの定着を徹底させるのもいいでしょう。
また、夜寝ている間の記憶定着を狙って、塾から帰宅後の勉強は暗記や、その日に間違えたことの見直しを行い、朝起きたら昨晩覚えたことの内容の確認をしてから、頭がスッキリしているうちに文章題や計算などを行うなど、効率的に勉強をする仕組み作りをするのもいいかもしれません。
入試まで、あと半年となる夏休み。質の良い睡眠と睡眠リズムを身につけ、心も体も健康な状態で合格というゴールを手にするためのスタートを切ってみるのもいいかもしれませんね。
文=知野美紀子
【著者プロフィール】
愛波あや
慶応義塾大学文学部教育学専攻卒業。外資系企業勤務後、拠点をアメリカ・ニューヨークに移し、2014年に米国IPHI公認資格(国際認定資格)を日本人で初めて取得。現在、PHI日本代表、Sleeping Smart Japan株式会社代表取締役。講演や子どもの睡眠に悩む保育者のコンサルテーションなど幅広く活動中。二児の母。