天国には「猫生まれ変わり課」がある!? 猫と飼い主の絆に思わず涙『天国での暮らしはどうですか』著者インタビュー

中山有香里さんの話題作『天国での暮らしはどうですか』より

8月5日に発売された中山有香里さんの新作コミック『天国での暮らしはどうですか』。大切な存在を見送ったときにふと心に浮かぶ「いま、あの子はどうしているのだろう…」という思いに、そっと寄り添ってくれるあたたかい作品です。

SNSで投稿されるたび、たくさんの共感やコメントが寄せられる人気シリーズが、ついに一冊の本にまとまりました。今回は、その中でも読者に人気の「三郎とたまサブロー」「さくらの記憶」のエピソードをピックアップし、著者の中山有香里さんに裏話や制作の思いを伺いました。

【マンガ】『天国での暮らしはどうですか』を最初から読む

猫は飼い主の不幸を持っていく?
不器用だけど深い愛情で繋がった一人と1匹「三郎とたまサブロー」


<あらすじ>
飼い主の三郎に「たまサブロー」と名付けられ、たっぷり可愛がられていた猫・たまサブロー。老衰で亡くなったたまサブローは、天国から下界を見下ろします。するとそこには、愛する猫のいない生活に耐えられず、痩せ細ってしまった三郎の姿が。

天国で、「死後に一度だけ会いに行ける」という話を聞いたたまサブローの魂は、飼い主の三郎のもとへ向かいます。寝ている三郎の体にスリスリとすり寄ると、その懐かしい感触に驚いた三郎は、「たまサブロー…?」と目を開いて…。

飼い主に最後にあいさつはできたか?

持っていけるものって…?

やっぱりこれじゃないのにします

運び続けるたまサブロー

~天国にて~


――三郎と猫のたまサブローは、どのようにして生まれたキャラクターなのでしょうか?それぞれの性格や設定について教えてください。

中山有香里さん:三郎は、独身で定職もなく、お金もあまりない不器用な男性です。でも、昔から引き取ったたまサブローだけは本当に大事にしていて、自分のことよりも猫のためにお金をかけるんです。いい餌を買い、なにかあったときのために“猫貯金”もしています。一方で自分は、激安カップ麺で食事を済ませる…そんな不器用だけど深い愛情を持つ三郎は、私の祖父にちょっと似ているんです。祖父も猫が大好きで、一人暮らしの節約生活の中でも、猫にはいい餌をあげていました。

たまサブローは、小さいころから三郎に育てられた老猫です。三郎のことは不器用でどうしようもないけれど、愛情深い男だと思っています。「猫は亡くなるときに飼い主の不幸をもっていく」という言い伝えもありますが、たまサブローは自分が三郎にとってどれだけ大きな存在なのかわかっており、三郎が今後背負うであろう“自分がいなくなったという不幸”以外は、すべて自分が持っていこうとするんです。

…あれあなたの飼い主さん?

相手からは見えません

もっと…一緒にいたかった

あの後無事に会えたの?

わしは幸せだったよ


――たまサブローが天国から下界を覗き、三郎に会いに行くエピソードには、胸を打たれました。こちらのお話を描いたきっかけや、込めた思いを教えてください。

中山有香里さん:「猫は亡くなるときに飼い主の不幸を持っていく」という話を聞いたとき、思い浮かんだのは一番身近な猫飼いだった祖父のことでした。あの不器用な祖父に心を許していた猫は、亡くなるときに何を持っていったんだろう、と想像したんです。きっと猫は、祖父を心配して「運べるだけ持っていきますわ」と言ってそうだなと…。そうやって、お互いを想い合うことって何だろう、という気持ちを込めて描きました。


たまサブローの物語から広がる、新たな猫のエピソード「さくらの記憶」


<あらすじ>
たまサブローと一緒に天国から下界を見ていた猫のさくら。「…あなたたちは想い合っていて…いいわね」「…私は……忘れられてるから…」と寂しげに呟きます。実は元ノラネコだったさくらは、飼い主ののり子に引き取られてわずか3ヶ月で病気で亡くなってしまったのです。「一生のうちの3ヶ月だけいた私のことなんてすぐに忘れたわよ」と呟くさくらに、たまサブローは会いに行ってみることを勧めます。下界に降りてきたさくらの魂が見たものは…。

…あなたたちは想い合っていて…いいわね

忘れられてるから…

ずっと眺めているくらいならそろそろ行ってよし!

今日からうちの子だよ

おばあちゃんもままごとしていたの?

一日だって忘れたことはなかったよ…

飼い主に擦り寄るさくら

来てくれたのかい

さくらの首輪と写真


――同じくたまサブローが登場するエピソード「さくらの記憶」。こちらのお話を描いたきっかけや、込めた思いを教えてください。

中山有香里さん:こちらのお話を作ったのは、たまサブローの話を描いた後に「境遇の違う猫も描きたい」と思ったからです。たまサブローは長い時間を飼い主の三郎と一緒に過ごし、お互いを想い合ってきました。では、短い時間しか関われなかった猫の「さくらちゃん」はどうだったのか、という物語です。

短い期間だけ家族だったさくらは、自分がいなくなった後の時間の長さから、忘れられてしまったのでは…と感じています。一方、飼い主は、治療や薬で苦しませてしまったのではないかとずっと思っている。このお話もまた、「お互いを想い合うとはどういうことか」というテーマを、たまサブローから続けて描いています。

来世もネコ希望だね

ずいぶん徳を積んだんだね…

――「ネコ生まれ変わり課」のマダム・ネッコがすごくいいキャラで印象的でした。マダム・ネッコはどんなキャラクターなのか、誕生の背景や設定について教えてください。

中山有香里さん:生まれ変わり課を考えたとき、猫には「猫生まれ変わり課」があって、次の毛皮を選んだりする手続きがあると想像しました。そして、猫をまとめる存在もやっぱり猫だろうな、と。でっかい身体で、でっかい愛で、かといって猫らしくベタベタするわけでもなくクールなキャラクターにしようと思って考えたのが「マダム・ネッコ」です。私は猫の「気高さ」が大好きなので、マダム・ネッコにもその魅力を詰め込みました。愛情深く、でも気高く。私の憧れの姿であり、私自身も、マダム・ネッコのような存在になりたいなと思っています。

***

短い時間でも、長く一緒に過ごした時間でも、猫と人がお互いを想い合う気持ちは変わらない。中山さんの描く物語は、そんなやさしさにあふれています。大切な存在を思う気持ちや、愛情のかたちを改めて感じながら、ページを閉じたあとも、心にそっと光を残してくれる作品です。

著者プロフィール

中山有香里(なかやまゆかり)…奈良県在住の看護師・イラストレーター。2022年に『泣きたい夜の甘味処』で、2023年に『疲れた人に夜食を届ける出前店』(共にKADOKAWA)で料理レシピ本大賞 in J apan コミック賞を受賞。著書に『ズルいくらいに1年目を乗り切る看護技術』シリーズ(メディカ出版)、『魔女のあとおし』(幻冬舎)、『がんばれなくてもなんとか作りたい1年のいたわりごはん日記』(ワン・パブリッシング)がある。

取材・文=宇都宮薫

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