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子どもの爪切り vol.21「考えごとで家事を楽しむ」 山崎ナオコーラのエッセイ
一歳を過ぎると、子ども用の爪切りも大人のものと同じような形になり、「ちょっとずれると血が出そう」というドキドキも薄まる。だが、自己主張が強くなってきて、ものすごく嫌がるし、押さえつけて切ろうとすると激しく抵抗する。かなりの手間だ。
私のところにいる子どもはもう三歳になったので、機嫌が良いときには、
「爪、切って」
と自分から言うこともあるのだが、その「機嫌が良い」ときというのがかなりレアで、そうではないときに、
「爪、切ろうよ」
と声をかけると、大概は、
「明日やる」
などと答え、なかなか切らせてくれない。
翌日にまた声をかけると、
「今、ブロックで遊んでいるから、後でやる」
などとひたすら後回しにする。保育園や幼稚園に通っていると、お友だちとの関わりがあって、爪が伸びていたら、誰かを傷つける可能性が出てきてしまうから、短く切り揃えておくことは必須だ。うまいことを言って、子どもの気分を「爪を切ろう」というところに持っていく。爪切り自体の労働時間が短いとしても、「周りに迷惑をかけないよう、爪が伸び過ぎていないか、いつも気にしなければ」「いつ切ろう」という考えごとが常に頭にあって、結構な負担だ。
……と、ここまで書いた文章は、「爪切りは大変」という話になってしまったが、家事労働には大変さと共に楽しさもある。仕事に大変さと楽しさと両方があるのと同じだ。「大変だ」と言うと、「やりたくない」と捉えられてしまいがちだが、大変さは伝えたいが、やりたくないわけではない。やりたい。
少しずつ大きくなっていく手を、週に何回かぎゅっと握って、きれいに切る。きれいに並ぶ爪を見て、精巧なジュエリーみたいだな、と思う。十年後には切らせてくれなくなるだろう。今しかない、かけがえのない時間だ。

文=山崎ナオコーラ イラスト=ちえちひろ
Information
3歳児の親。作家。筆名はコーラが好きだから。書店員の夫と、3人家族で、東京の田舎のほうで細々と暮らす。家事は苦手。でも、せっかくだから、家事をしながらついでに考えごとをして、「仕事と同じくらいプラスになっている」と思いたい。
山崎ナオコーラさんのTwitter
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