仕事に介護が加わり、妊活はあきらめ…「子育てとばして介護かよ」の現実とは?【前編】

ある日突然、義理の両親の介護問題に直面することになった島影真奈美さん。フリーライター・編集者として働く島影さんが、同居せず、仕事を続けながら介護体制をととのえるまでのドタバタをユーモラスに描いた『子育てとばして介護かよ』が話題です。「これまでの生活を大きく変えることなく介護ができている」そうですが、そこに至るまでは、パートナーとの離婚を考えるまでに追い詰められた時期もあったそうです。

仕事・学業・妊活…で…介護!?「子育てとばして介護かよ」(1)
「介護が加わるといよいよ妊活はあきらめる方向で踏ん切りをつけなくてはいけなくなっちゃったな、と」


◆子育てしないうちに介護が来ちゃったよ!


「20代の頃は当たり前のように“結婚したら出産するもの”と思っていて、結婚から出産・子育てへのロードマップもわりと明確にイメージしているつもりでした。でも、いざ結婚してみたら、なんとなくタイミングを逃したまま、40代に突入してしまって。

子育てしないうちに介護が来ちゃったよ!


しかも、妊活に励むどころか、ひょんなことから出会った「老年学」に興味を持ち、大学院に社会人入学するという真逆の方向に踏み出してしまった。それでも、「もう出産はしません」と腹をくくれたとは言い切れず、なんとも中途半端な気持ちを抱えていました。

そんな折り、夫の両親の認知症が立て続けに発覚し、仕事・研究・介護の三つ巴生活がスタートします。そのとき真っ先に思ったのが「子育てとばして介護かよ」のひとことだったんです。仕事と研究の両立だけでも結構大変なのに、そこに介護が加わると、いよいよ妊活はあきらめる方向で踏ん切りをつけなくてはいけなくなっちゃったな、と。

モタモタしてるから、子育てしないうちに介護が来ちゃったよ! と、後悔する気持ちが半分。でも、「年齢的に子どもは無理かな」と思い始めていた頃だったので、肩の荷が下りたようなところもあったかもしれません」

◆受診を渋る義父母にあの手この手で説得。義母からの『あなたたち、謀ったわね』が恐ろしくてー


まさか介護に。もの忘れ外来の受信を渋る義父母に困り…


――もの忘れ外来の受診を渋る義父には「“認知症ではない”と医師のお墨付きをもらえたら安心」と提案。お弁当宅配サービスを断りたい義母には「1日おきと平日だけ、どちらがいいですか?」と尋ね、“その気”にさせてしまう。 島影さんの明るさと、「そういう手があるのか!」と驚くような機転に、時にくすっとしながら一気に読んでしまいました。

一方で、いざ自分が同じ状況に立たされたときにできるか、と言われると自信がありません。正直、島影さんがすごすぎる、とも思ってしまいます。

「すみません! 百発百中でうまくいっているように見えたとしたら、それは“うまくいったやりとり”を中心に書いているせいだと思います。

介護が始まったばかりの頃、「××しないほうがいい」という情報は比較的早く見つかりました。「認知症当事者の方のプライドを傷つけないほうがいい」「“できない”を理由にしないほうがいい」とか。でも、その先の「では、どうすれば?」がわからなくて、苦しかったんです。

実際のところ、介護には“正解”がなく、ケースバイケースの連続だなとも感じています。親御さんの性格やこれまでの家族の関係性によって、どうアプローチすればいいのかは変わりますし。ただ、うまくいった事例は、選択肢を探るヒントとして誰かの役に立つかもしれないと思ったんです。

『“認知症でない”という医者のお墨付きがあれば、もしもの時の自衛策になる』という提案をしたとき、義父を口説き落とせば、義父が義母を説得してくれるかもしれないと考えていました。おそらく理詰めで話すほうがいいタイプだろうとも予想していました。

その予想は半分当たって、半分外れます。義父がもの忘れ外来の受診をOKしてくれたのはいいけれど、そのまま義母を説得してくれるという目論見は外れ、「家内に相談してみないと」となっちゃったんですよね。仕方がないので、こちらも態勢を立て直し、おしゃべりをしながら、気まぐれな義母の心が動くポイントを探っていきました。そんなことの繰り返しです。うまくいったことの中には、苦しまぎれの“まぐれ当たり”もたくさん混ざっていて、おお、これでOKなのか!? と、わたし自身もいまだに日々驚かされています」

――義母の機嫌が悪くなったり、不平不満を言い出したりしたときは「明るくて朗らかだけど、少々ニブイ嫁」を演じて乗り切るというテクニックも紹介されていました。

「もの忘れ外来を受診したとき、『あなたたち、謀ったわね』と怒っていた義母があまりに恐ろしくて、受診したのは『達也さん(わたしの夫)のもの忘れがひどいから相談にきたんですよ!』ととっさに口にしてしまったんです。ところが、そのひとことで、ケロッと義母の機嫌が直りました。そんな適当な理由でいいの!? と驚きましたね。それ以降、義父母が受け入れやすい理由を伝えるようにしています。

親に不満そうな態度をとられると、つい不安になって『言いたいことがあったらはっきり言って』と問いただしたくなるし、『必要なんだからしょうがないでしょう!?』と念押ししたくなりますが、そこは勇気を持ってスルーします。

少々ニブイ嫁を演じて乗り切るというテクニックも


うちの義母は面と向かってワーワー文句を言わない代わり、ごく遠回しにやんわりと、でも、かなりねっちりとした言い方で不満を伝えるタイプなんです。たとえば、薬を忘れずに服用するための『お薬カレンダー』を壁に貼るときも、イヤともダメとも言わないけれど、『どうしても使わなきゃダメなの?』『そんなところに張ってもすぐ落ちてくるんじゃない?』『なんだか、学校みたいねぇ……』とチクチク言ってくるんですよね。

ただ、そこでひるんでしまうと話が進まなくなるので、『イヤミを言われているような気もするけど、きっと気のせい!』『明確なNG以外には反応しない』と自分に言い聞かせていました。義父母には、『イヤだとかつらいなと感じることがあったら、遠慮せずにいつでもおっしゃってくださいね』と繰り返し伝えています。これは義両親への気遣いでもあるのと同時に、私なりの『遠回しなイヤミは通用しませんよ』という宣言でもありました(笑)」

【…後編へ続く】

マンガ・イラスト=川

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●島影 真奈美/国内で唯一「老年学研究科」がある桜美林大学大学院に社会人入学した矢先に、夫の両親の認知症が立て続けに発覚する。まさかのダブル認知症におののきながらも、「介護のキーパーソン」として別居介護に参戦。現在も仕事・研究・介護のトリプル生活を送る。実体験をもとに、新聞や雑誌、ウェブメディアなどで「もめない介護」「仕事と介護の両立」「介護の本音・建前」「介護とお金」などをテーマに広く執筆を行う。特技は失せもの探し、親を説得せずに“その気”にさせること。

●川/東京都生まれ。東京藝術大学卒。結婚と長男の出産を機に夫の実家・鳥取県で子育てをスタートさせる。近所の店までは車で40分かかる田舎暮らしを始めて10年。鳥取の美味しい食べ物と近所の温泉街、そして子どもたちの笑顔にかこまれた日々を綴ったコミックエッセイ「こんげでカーチャン!」(KADOKAWA)が人気

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