家事は主婦の仕事? 家事にはなぜ見返りがないの? ゆるっと哲学(7)

#趣味   


私の生活は日々、やらなくてはならないことが山積みになっています。
その中でも、大変なのは、「家事」だと思います。「家事」は生活をする上で必要不可欠なものです。ですが、掃除、洗濯、料理、買い物など、意外とやることも多く、かなり疲れるものでもあります。

また、共働きや専業主夫というワードも徐々に浸透していますが、いまだに、「家事」の多くは女性が担っていることも事実です。

しかし、そもそも、「家事は女性が担うもの」というイメージや「家事」のしんどさはどこからくるものなのでしょうか?これを考える上で、ヒントとなるのが、オーストリアの哲学者イヴァン・イリイチの「シャドウ・ワーク」という考えです。

イリイチは、まず、「シャドウ・ワーク」を次のように定義しています。

私の関心は、まったく異なった形の支払われない労働である。これは、産業社会が財とサーヴィスの生産を必然的に補足するものとして要求する労働である。…(中略)…それは賃労働とともに、生活の自立と自存を奪いとるものである。賃労働を補完するこの労働を、私は〈シャドウ・ワーク〉と呼ぶ。

『シャドウ・ワーク 生活のあり方を問う』


少し難しい書き方ですが、要は、「シャドウ・ワーク」とは、「給料をもらって働くこと(賃労働)を支えるために必要とされる無償の労働」ということです。
例えば、イリイチは、「シャドウ・ワーク」の例として、家事、試験勉強、通勤などを挙げています。特に、「家事」を「シャドウ・ワーク」の典型例として挙げています。

「男性が外で働いてお金を稼ぐ、それを女性が「家事」をして支える。ただし、女性は「家事」をしてもお金がもらえない…」という形は、まさに、女性が「家事」という「シャドウ・ワーク」を強いられているとも言えるでしょう。

ちなみに、この「シャドウ・ワーク」というネーミングには、「賃労働」を支える「影」になるという意味と「社会的には当たり前のこととして見なされており、労働とはみなされにくくなっている」という意味が込められています。

また、イリイチは女性が「家事」をやるということは当然のことではないということを暗に示唆しています。このことを示すために、イリイチは「家事をするのは女性の役割」というイメージが生まれた歴史的背景を整理しています。

長くなるので、詳細は割愛しますが、イリイチによれば、男性が外で働いてお金を稼ぐ「賃労働」が一般的になったのは歴史的には最近のことで、賃労働が広がるにつれ、「(賃労働を支える)家事」という「シャドウ・ワーク」が生まれ、「家事をするのは女性」だというレッテルが貼られるようになったと指摘しています。

しかし、これは裏を返せば、そもそも女性が「家事」をしなければならないという必然的な根拠はあまりないということでもあります。それは単に、歴史の中でそう思われるようになったというだけに過ぎないのです。

さて、ここまでは「シャドウ・ワーク」の特徴について見てきましたが、この「シャドウ・ワーク」の問題点はお金が支払われていないことだけなのでしょうか?それでは、「家事」に対して報酬が支払われれば、問題は解決するのでしょうか。そうではありません。

イリイチは、「家事」などの「シャドウ・ワーク」は自分たちの手で自由に生活を営んでいく「生活の自立・自存」の役に立たないどころか、ますます、そこから遠ざかることを強いられることが最大の問題だとしています。

この影法師(注:シャドウ・ワークのこと)は、もちろん、母や妻の役目ばかりか、それ以上のものをもだめにしてしまう。影法師は間違いなく進歩とともに大きくなり、経済領域の発展とともに広がり、さらに男と女の人生を一日とても晴れわたった日のない暗いものにしてしまうのである。

『シャドウ・ワーク 生活のあり方を問う』
※丸括弧内は筆者追記


そもそも、イリイチにとって、賃労働は収入を外の稼ぎに依存するという点で、自分たちで生活を自由に営むことを妨げるものなのです。ましてや、それを支える「家事」は、お金が支払われないだけでなく、他の「賃労働」に頼るため、ますます「賃労働」を強めることにつながり、自由に自分たちだけで生活することからますます遠ざかることになるのです。

確かに、現代の私たちは、お金を外で稼ぐことが主になっています。また、「家事」という「シャドウ・ワーク」も生きていく上ではある程度、必要不可欠ではあります。その点では、イリイチの指摘はある意味極端なものかもしれません。
ですが、無償の「シャドウ・ワーク」を強いられていることは、私たちを疲れさせるとともに、「生活の自立・自存」を妨げるという指摘については考えてみる必要があるように思われます。

幸いにも、情報社会に生きる現代の私たちの周りには、「日々のへとへとから解放される」ためのヒントがあちこちに転がっています。

これらのヒントを活用して、無駄な「シャドウ・ワーク」から逃れるのが、大切なことなのです。
そして、「シャドウ・ワーク」を減らし、空いた時間を自分なりに自由に生活をするための活動に充ててみる。このことが、日々の生活を充実させることにつながるのかもしれません。

著=ただっち/「不安を力に変える ゆるっと哲学」(ぱる出版)


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書籍情報

不安を力に変える ゆるっと哲学

不安を力に変える ゆるっと哲学

作者:ただっち (著), 小川仁志 (監修)

発売日:2020/07/20







『不安を力に変える ゆるっと哲学』

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