冷めてもふんわりほろほろ。口の中で崩れる「最高のおにぎり」/「最高の」料理の作り方(1)

#食   
粘りを抑えることで冷めてもほろほろ

『最高のおにぎりの作り方』1回【全4回】


きちんとおいしいのに簡単。
理由がはっきりしているからおいしくできる!

noteでフォロワー4万人を超える人気料理家が教える「『最高の』料理の作り方」が満載のレシピ本『最高のおにぎりの作り方』。スーパーで手に入る食材を使い、家庭のキッチンで合理性を追求し、最短距離でおいしさにたどりつく…著者・樋口直哉さんならではの科学的なアプローチで、家庭料理がおいしく仕上がります。

なぜこの工程が必要なのか、どうしておいしくなるのかを科学的に分析、説明してくれる本書から、おうちで真似できる調理の方法を教えます!

※本記事は樋口直哉著の書籍『最高のおにぎりの作り方』から一部抜粋・編集しました

【最高の作り方の目指すところ】

ふんわりとして、噛むとほろほろと口のなかで崩れる

ふんわりとして、噛むとほろほろと口のなかで崩れるおにぎり

◆材料(2人前)
米 2合(300g)
水 380cc
塩 小さじ1/3~1/2
海苔 好みで

◆工程
1 米は軽く研ぎ、炊飯器の内釜に移す。分量の水(炊飯器の場合は内側にある通常炊飯の目盛りの2mm下が目安)と塩を加え、通常通り炊飯する(鍋で炊く場合は浸水させた後、炊飯する)。

米は軽く研ぎ、炊飯器の内釜に移す


2 炊きあがった米をほぐし、バットなどの平らな容器に移し、うちわで扇いで蒸気を飛ばしながら、温度を下げる。目安は50~60°C程度。

うちわで扇いで蒸気を飛ばしながら、温度を下げる


3 ラップに1個100gを目安にとり、ふんわりと握る。味のアクセントとして三角形の頂点部分のみに少量の塩を振り、好みで海苔を巻く。

ラップに1個100gを目安にとり、ふんわりと握る


【おいしさの根拠】

粘りを抑えることで冷めてもほろほろ

このレシピで追求したのは合理性です。
最高のおにぎりの定義は『ご飯がふんわりとして』『表面がベタつかずに噛むとほろほろと崩れ』『適切な塩味がついている』もの。

従来のおにぎりの作り方は、『炊いたご飯が熱々のうちに塩(または塩水)をつけた手で、三角形(または俵形)に握る』というもので、熱いご飯に手を真っ赤にしながら、根性で握るのがおいしさのコツとされてきました。

まず、修正するべきは「手で握る」という点。ご飯を手で握ると雑菌が付着してしまいます。すぐに食べるのであればいいのですが、雑菌は時間経過とともに増殖し、味を損ねますし、安全性にも問題が生じます。解決策は「ラップで握る」という方法。今では一般的になりましたが、まずはここから見直します。

1個あたりのご飯の量は100gとしました。コンビニエンスストアなどで売られている市販のおにぎりの重さは1個100~120g程度で、大きさはこれが適正でしょう。これ以上、大きくすると海苔や具材とのバランスがとれなくなるからです。

最初の実験では「適切な塩分濃度」を探りました。米の重量に対して0.1%、0.3%、0.5%、1%、1.2%の塩を振り、比較検討しました。量の関係で0.1%のものは片面だけ、それ以上は全面に塩をまぶし、1時間放置してから試食します。数人で試食した結果は0.3%~0.5%のおにぎりの評価が上々でした。

例えば肉や魚を調理する際の塩分濃度は1%くらいですから、0.3%~0.5%の塩分濃度はそれよりもずっと控えめです。少しの塩を加えることで米の甘みを強く感じられるようになります。それなら、と0.1%の塩をまぶしたご飯+焼きたらこ、というパターンも試作しましたが、面白いもので塩分濃度を下げすぎるとおにぎりとしての一体感がなく、米の味も弱く感じられました。おにぎりの塩分は具材とのバランスも重要なようです。

この塩分濃度の検討から特に味の濃い具材が入ったおにぎりの塩分濃度は0.3%、塩むすびは0.5%が適当という結論を出しました。

おにぎりの塩分濃度の検討

おにぎりの塩分濃度の検討。最近は0.8%~1%の塩の量がおいしいと言われますが、おにぎりはそれより薄い方が、食べやすいようです。

次に行ったのは「味付け方法」の検討です。まずは通常通り、握るときに塩をまぶしたもの。次に米に塩を混ぜ込んでから握ったもの、最後に塩分濃度0.5%になるように炊き込んだものを比較しました。

握りたてを食べるのであれば、通常通りの方法がおいしいのですが、冷ましてから比較すると意外な結果がでました。最も米の甘みが強かったのが最後の炊き込み型だったのです。混ぜ込み型もすぐに食べる分にはおいしかったのですが、炊き込み型はとくに冷めてから食べると、ほろほろと崩れる食感がでました。調味料を加えて炊き込むことで米の吸水が妨げられ、米の粘りが抑えられたのです。

弱点は塩味が均一についてしまうこと。しかし、おにぎりは複数個つくることが多いので、毎回、塩を手につけて握ると分量を決めるのが大変です。作業工程を合理化できる利点がデメリットを上回っていると判断したため、炊き込み型を採用することにしました。

最後に検討したのは「米のベタつき問題」です。炊き込み型を採用したことで、米の粘りは少なくなりましたが、さらに「炊いた米をバットに移し、うちわで扇いで表面の水分を飛ばす」という工程を加えました。

うちわで扇いで温度を下げることで米は粘着力を失います。すると、握る際に米が隙間なくびっしりと詰まることがなくなり、米粒同士が面ではなく点でくっつくので、口に入れたときにほろほろと崩れる食感になるのです。とはいっても冷まし過ぎると今度は握りづらくなるので注意が必要。50~60℃くらいの温度を目安に冷ますと、米粒の食感にも張りがでてきます。熱いご飯を手を真っ赤にしながら握る必要はないのです。

こうして考えると浮かび上がってくるのはおにぎりと鮨の共通点です。どちらも空気を含ませつつ、適切な形にまとまっており、具材=鮨の場合はネタとのバランスがとれている必要があります。おにぎりはなんとなく簡単な料理と思われていますが、鮨を握る技術が一朝ータでは身につかないことを考えると、意外と難しい料理と言えるのかもしれません。

包むのはラップかアルミホイルがいいのか問題

包むのはラップかアルミホイルがいいのか問題。包んでから5時間後の状態を比較しましたが、特に差はありませんでした。それよりも冷ましてから包むほうが効果的のようです。

著=樋口直哉/『最高のおにぎりの作り方』(KADOKAWA)

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