トロトロ、かつしっとり。脂っぽくない「煮豚」/「最高の」料理の作り方(3)

#食 
脂っぽくない「煮豚」の作り方

『最高のおにぎりの作り方』3回【全4回】


きちんとおいしいのに簡単。
理由がはっきりしているからおいしくできる!

noteでフォロワー4万人を超える人気料理家が教える「『最高の』料理の作り方」が満載のレシピ本『最高のおにぎりの作り方』。スーパーで手に入る食材を使い、家庭のキッチンで合理性を追求し、最短距離でおいしさにたどりつく…著者・樋口直哉さんならではの科学的なアプローチで、家庭料理がおいしく仕上がります。

なぜこの工程が必要なのか、どうしておいしくなるのかを科学的に分析、説明してくれる本書から、おうちで真似できる調理の方法を教えます!

※本記事は樋口直哉著の書籍『最高のおにぎりの作り方』から一部抜粋・編集しました

【最高の作り方の目指すところ】

〈トロトロ〉かつ〈しっとり〉脂っぽさのない仕上がり

煮豚のコツは肉を砂糖と塩でマリネし、蓋をせずに煮ること

◆材料(4人前)
豚バラ肉 600g(ブロックを購入し、3.5cm厚にスライス)
A 塩 小さじ1/2
A 砂糖 大さじ1
昆布 5g
水 1L
大根 1/4本(300g)
B 酒 150cc
B 砂糖 大さじ6
B 醬油 大さじ2
B たまり醬油 大さじ3
B 塩 小さじ1/2

◆工程
1 豚バラ肉にAの調味料をまぶし、30分以上冷蔵庫で寝かす(一晩でも可)。

豚バラ肉にAの調味料をまぶし、30分以上冷蔵庫で寝かす(一晩でも可)。


2 豚バラ肉の表面に浮いた水分を拭きとり、昆布、水と一緒に厚手の鍋に入れる。中弱火にかけて、ふつふつとしてきたら弱火に落とし、1時間〜1時間半煮る(蓋はしないこと)。蓋をして冷ます。

豚バラ肉の表面に浮いた水分を拭きとり、昆布、水と一緒に厚手の鍋に入れる。


3 冷ますと表面に脂が固まるのでとりのぞく。昆布も一緒にとりのぞき、乱切りにした大根とBの調味料を加えて、中火にかける。沸いてきたら弱火に落とし、1時間〜1時間半煮る。

冷ますと表面に脂が固まるのでとりのぞく。


【おいしさの根拠】

煮豚のコツは肉を砂糖と塩でマリネし、蓋をせずに煮ること

たっぷりと時間をかけてつくる、本格的な煮豚(角煮)のレシピです。豚の角煮の肝は、いかに肉の味を逃さずにトロトロで、かつしっとりと煮上げるか、という点。このレシピが従来のレシピと違うのは、

1 砂糖と塩で豚バラ肉を漬ける
2 下ゆでをせずに豚肉の味を生かす

という2点。

豚バラ肉は白い肉と赤い肉が層になっています。白い肉は脂肪とコラーゲンが多い部分で、高温で長く煮込むことでトロトロになりますが、反対に筋繊維である赤い肉はパサパサになってしまいます。このあたりの妥協点をどこに見つけるか、というあたりに作り手の個性がでます。

豚バラ肉は安価な部位ですが、手間をかけることで極上の味に仕上がります。1996年の夏、引退宣言をした20世紀を代表するシェフ、ジョエル・ロブションが(引退宣言は後に形骸化し、ロブションはその後、世界に店を広げますが)ロンシャン通りにあった店を閉店するにあたり、最後のメニューに並んでいた一品に塩漬けした豚バラ肉をやわらかくなるまで煮たものがあります。その下処理からアイディアをもらい、豚バラ肉は塩と砂糖をまぶして30分以上、冷蔵庫で寝かせてから使いました。

30分以上経過すると、色が濃くなったのがわかるかと思います。豚肉になにが起きたのでしょうか?塩に漬けることで、通常はたがいにまとまっているタンパク質の一部が溶け、繊維がほどけます。なにもしない状態の筋肉組織は光を通さない=不透明ですが、繊維がほどけたことによって光が通る=半透明になるので、色が濃くなったように見えるのです。繊維がほどける、ということは筋肉の繊維が弱くなったということ。同時に脱水によって組織は密になります。結果として、詰まっているがやわらかい、ハムに似た食感になります。

ハロルド・マギーはかたくて大きな肉をやわらかく、しっとりと煮るコツをこう説明しています。

『かたい結合組織が多く含まれる肉は、コラーゲンをゼラチン化するために70~80℃以上で調理する必要がある。しかしこの温度範囲は、筋繊維から肉汁が流れ出てしまう温度(60~65℃)よりもかなり高い。したがって、かたい肉をジューシーに調理するのはむずかしい。繊維が脱水しないようにコラーゲンの溶解する最低温度かそれよりわずかに高い温度でゆっくりと調理するのが大切である』

一般的にコラーゲンは65℃で収縮をはじめ、最もかたくなります。中途半端に加熱した肉がかたいのはこのため。コラーゲンは70~80℃以上で軟化し、ゼラチンになると肉汁の一部がそこにとどまるので、ステーキとは別の種類のジューシーさがでます。ゆっくりと静かに煮れば赤い肉の部分もぱさつかず、白い肉はトロトロにすることができるのです。

表面の水気を拭きとったら、昆布5gと水1Lを入れて、中弱火にかけます。強火にかけずに中弱火にかけるのは温度をゆっくりと上げるためです。50℃以下の低温では肉の熟成が促進され、結合組織が弱まる (低温ローストと同じ原理です)ので、繊維から肉汁が抜けるような高温での加熱の時間を短くすることができます。ふつふつと沸いてきたら火を弱火に落とし、水面が微笑むような火加減を保ち、1時間~1時間半加熱します。肉にあらかじめ砂糖と塩を振ってあるので、火を強くしなければアクはほとんどでません。

最重要ポイントは「蓋をしないで煮込むこと」。蓋をしなければ気化熱によって表面が冷やされるので、水温の上昇を抑えることができます。1時間半、煮込んだら粗熱をとり、冷蔵庫で冷やします。冬であれば外に置いておいてもいいでしょう。

すると、表面に浮いた脂が固まるはずです。このレシピでは下ゆでをせずに豚の煮汁をそのまま生かしますが、仕上がりを軽くするために脂はできるだけ除去したいところ。この方法であれば簡単に脂をとりのぞくことができます。時間はかかりますが、手間はかかりません。

次に豚の味がでた煮汁に調味料を入れて、さらに煮含めていきます。たまり醤油を使うときれいな色と深い味がでますが、もしも手に入らないという場合は濃口醤油の分量を大さじ5まで増やし、塩を減らしてください。たまり醤油のほうが濃口醤油よりも塩分が低いからです。

煮上がったら、可能であれば冷蔵庫で一晩休ませると、でていった肉汁が肉に再吸収され、肉はさらにジューシーになります。上手に出来上がった煮豚は口に運ぶとしっとりとやわらかく、とろりと溶けるはずです。

温め直すときにはハロルド・マギーが紹介している温め方を実践するといいでしょう。まず、肉を取り出してから煮汁だけを一度沸騰させ、火を止めます。そこに肉を戻してかき混ぜ、弱火で肉を温めます。おいしい煮込みも沸騰させると肉から水分がでてしまいますが、この方法を使うと肉の表面が沸点温度になるのはごく短時間なので肉から水分が逃げることはありません。肉を料理するときにも穏やかに加熱したのであれば再加熱のときも同様にすべきです。煮豚は時間はかかりますが、手間はかかりません。時間のあるときにまとめてつくり、冷凍しておくとしばらく楽しめます。

著=樋口直哉/『最高のおにぎりの作り方』(KADOKAWA)

この記事に共感したら

おすすめ読みもの(PR)

プレゼント企画

プレゼント応募

\\ 会員登録してメルマガ登録すると毎週プレゼント情報が届く //