人間関係がつらくて会社を辞め主夫になった男と、その妻の物語。『夫ですが会社辞めました』の著者・とげとげ。さんインタビュー

#育児・子育て   
『夫ですが会社辞めました』より

家事や育児など家庭内のことを主に担当する夫を意味する「主夫」。さまざまな家族の在り方が当たり前になってきたとはいえ、まだまだもの珍しい目で見られたり、ちょっと上の世代の人には受け入れられなかったり…。そんな「主夫」と「大黒柱妻」の一家の姿を描いた『夫ですが会社辞めました』。現代の夫婦が抱えるモヤモヤを描いて共感を呼び、WEB連載が累計2,000万PVを超え(2022年9月)、書籍化も果たした注目作です。

自然豊かな葉山の町に移住してきた家族が、すれ違い、ぶつかり合いながら、どのように再生していくのでしょうか…?ご自身の経験や周囲の方々への取材をもとに描かれた物語にはどんな思いが込められているのか、著者・とげとげ。さんにお話を伺いました。

『夫ですが会社辞めました』より

現代の夫婦・家族の悩みや葛藤を、あえて夫婦逆転で発信


──「主夫」と「大黒柱妻」をテーマにしたのはどうしてですか?

とげとげ。さん「以前、『小1の壁の向こうに』という作品でママたちのモヤモヤを描いたのですが、どうしても男性批判のようになってしまいがちで、パパたちに嫌な気持ちにさせていないかという心配がありました。なので、次はパパ側のモヤモヤを題材にしたいなと考えていたときにコロナ禍になって、私が住んでいる葉山町に移住者が増えたんです。そこからヒントを得て、移住する人の話で、なおかつ逆転夫婦というパターンで、パパ側の視点から『しゅふ』のモヤモヤを描いたらどうかなと思いつきました。

立場を逆転させて、『ママだから』『女性だから』ではなく、その役割を与えられれば誰でも感じるモヤモヤなんだよと発信することで、現代を生きる夫婦や家族の悩み・モヤモヤを、より多くの人に抵抗なく受け入れてもらえるんじゃないかなと思ったんです」

──コロナ禍というのも、この作品が生まれたきっかけとなっているんですね。

とげとげ。さん「コロナ禍になって人に会わない環境やより空気を読まなきゃいけない環境に置かれ、人との心地よい関係性や距離感について考えることが多くなりました。人と会わない暮らしは楽だけど、久しぶりに会って話すと気持ちがぐっと軽くなったり、視野が広がる開放感に包まれたりする瞬間があって…。当たり前のことかもしれませんが、人と会うことは大切だなと改めて感じました。それを作品にしたいなと」

『夫ですが会社辞めました』より

──コロナ禍によって、とげとげ。さんの暮らしに変化はありましたか?

とげとげ。さん「夫がテレワークになって家事を半分ずつ分担できるようになったので、だいぶ変わりました。それまで夫はこの作品の沙月と同じように約2時間かけて都内に通勤していたので、基本的に私はワンオペ状態だったんです。コロナ禍以降、夫と子どもが一緒にいる時間も増えて、お互いの距離が近くなった気がします」

実体験をもとに描くモヤモヤエピソードに共感!


 『夫ですが会社辞めました』より

──作品の中にはとげとげ。さんの実体験も描かれていますか?

とげとげ。さん「ちょっとした小ネタに実体験が反映されています。例えば、葉山のパン屋さんに行ったのをきっかけに転居したこともそうですね。あとは、子どもが風邪をひいたときにどんどんやることがたまって家事が進まないシーン。俊が言っているように、本当に『永遠にゴールのない障害物競走みたいだ』と感じるんですよね」

『夫ですが会社辞めました』より


とげとげ。さん「お風呂で主人公の俊と息子のカズがにらめっこをしているときに、子どもの純粋な『情報じゃない表情』を感じるシーンも実体験です。人と接すると、どうしてもちょっとした言動で相手をイラつかせてしまうことがありますよね。そんなとき、私は後で『あぁ、怒らせちゃったかなぁ』と不安になって、相手の表情がフラッシュバックする瞬間があったりして…。そんな風に、私が日常で感じていることを膨らませて俊に発信してもらっています」

『夫ですが会社辞めました』より


──とげとげ。さんが、地域の情報網の大切さを感じるエピソードも漫画に盛り込まれていますね。

とげとげ。さん「そうですね。私の周りにも主夫の方はいるのですが、やっぱり少数派なので、社交的な人は保育園のママたちの輪の中に入るけれど、馴染めないのか馴染まないのかポツンと一人でいる人もいて…。主人公の俊は、まさにポツン派。そうなると、どうしても人づてでしか得られない地域のイベントの情報が届かなかったり、みんなで遊びに行くときに誘われなかったり、ちょっとしたところで不便を感じることがあるんですよね。そういうところも漫画で描いています」

 『夫ですが会社辞めました』より


──ご自身も2児の母であるとげとげ。さんの実体験やモヤモヤが盛り込まれているからこそ、共感できるエピソードが多いのですね!そういったストーリーを考える上で心がけていることはなんですか?

とげとげ。さん「日頃から、みんながやり過ごすようなモヤモヤを堀り起こすというか、多くの人が『なんか嫌な感じがするけど…まぁいっか!』と流すようなことを深掘りして原因を考えるようにしています。それに共感したり、なるほどと感じたりして、読む人のモヤモヤした気持ちがちょっとでも軽くなったらいいなぁと思います」

心地よい人とのつながりや距離感を考えるきっかけになれたら

『夫ですが会社辞めました』より


──作品の中には、心に刺さる言葉がたくさんありました。例えば、俊が周囲とうまくやれないことで落ち込んでいる時、群れからはぐれた魚を見てソラくんママが言った『この子はここがいいんだよ。落ち着く場所はそれぞれだからね』など。登場人物の心が動いていくような、こういったキーポイントとなる言葉はどのように考えているのですか?

とげとげ。さん「登場人物になりきることが多いですね。この人は今、どんな言葉をかけたら嬉しいだろう、心が軽くなるんだろうと考えながら、セリフを決めています」

──家族の在り方はもちろんのこと、職場・保育園での人間関係や育児についてなど、さまざまなテーマが含まれているように感じます。とげとげ。さんが作品を通して一番伝えたいこと、感じてほしいことは何ですか?

とげとげ。さん「主人公の俊は人と上手に関わることが苦手で、今の社会でいう一般的なレールからは外れてしまいます。この作品では、そんな俊が都心から葉山に移住し、心地よいと思える環境や人に出会っていくことで救われていく様子を描きました。俊と同じように悩んでいる人も、合わない環境にいるからダメなだけかもしれないですよね。自分に合う環境に辿り着けば、案外心地よく過ごせる人はいるんじゃないかなと。人とのつながりはツラさを感じることもあるけど、やっぱり得られるものも多いですから。この物語を読んだ人が、自分にとって心地よい人とのつながり方や距離感を探したり、ちょっと開き直って考えたりするきっかけになったら嬉しいです」

【取材・文=松田 支信】

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