
「消えろ!」と暴言を吐きながら殴られたゆずさんは、大きなアザができてしまい病院で診察を受けます。その後のゆずさんは、突然怒りの感情に襲われて夫のシャツをはさみで切り刻んだり、何でもないときに突然涙が出てきたり……。
彩原ゆずさん
「あの頃はつねに気持ちが沈んでいて、赤信号なのにふらっと渡ってしまおうとしたり、かなり追い詰められた状態になっていました。ベランダから下を覗いてこのまま落ちてしまおうかと思った時、息子がしがみついてきて、それが本当にかわいそうで…」
泣きじゃくる子どもを前に我に返ったゆずさんは、保健所の相談窓口に電話して助けを求めたのでした。

保健所で現状を話したゆずさん。担当者が親身になってくれたこともあり、肩の荷が下りたような気持ちになります。
【ネタバレ】うつ病じゃなかった!まさかの診断結果とは
保健所の精神科医にも相談したところ、夫はうつ病ではない別の病気の可能性があることを告げられます。それは「双極性障害」。大きな高揚感のある躁の状態と、落ち込むうつ状態を繰り返す病気です。
夫婦そろって夫のかかりつけの精神科医に向かい、いままでの夫の行動を細かく伝えると、やはり双極性障害の可能性が高いという診断を受けました

そして夫は、薬を切り替えつつ経過を見ることになりました。
彩原ゆずさん
「夫が変わったようになってしまったのは病気のせいだったんだとホッとした気持ちがありました。優しかった過去の夫が完全にいなくなってしまったわけではないと思えたんです」
その後夫は、薬は服用していたものの、逸脱した行動はすぐには収まったわけではありませんでした。無計画にマンションのオーナーになろうとしたり、頻繁に買い物をしたり…。そして再度1年間の休職を余儀なくされます。
夫に寄り添うゆずさんの精神状態も低空飛行を続けていましたが、偶然親しくなったママ友に身の上話をしたことで心が軽くなり、一人で抱え込まないことの大切さを実感するのでした。

ぶつけられない鬱憤を自分に向けて身体を傷つけてしまうゆずさんと、物にあたって壊してしまうユウタさん。

ふたりはぶつかり合いながら荒波のような日々を過ごし、それでも相手を支えようと、一歩ずつ前に進む努力を重ねるのでした……。

パートナーが心の病を抱えた時は、抱え込まずに相談を
当時の思いを、著者の彩原ゆずさんは次のように語ります。
「私は当時誰かに自分の状況を話すことが難しく、恥ずかしさもあったりしてなかなかまわりに相談できずにいました。ただ医師や誰かに話すことが状況を改善するきっかけになるかもしれないので、一人で抱え込まずに相談してほしいです」
この作品の中で特に印象的だったのは、ゆずさんの「もっと早くに相談すればよかったな」というフレーズ。

複雑な思いを抱えながらも夫の闘病を支えたゆずさんですが、彼女の場合は、身近な人や専門家に相談し、夫の病気を理解できたことが、解決の糸口をつかむきっかけになりました。
心の病は、体の病と同じく誰にでも起こりえること。もしものときは、ちゅうちょせず医師の診察やカウンセリングを受け、心の問題とゆっくり向き合うことが大切なのかもしれません。
文=山上由利子