「『親の出来』を計られているみたい」中学受験に挑む親子のリアルな感情に共感!『合格にとらわれた私 母親たちの中学受験』

『合格にとらわれた私 母親たちの中学受験』より

中学受験は、「親子の受験」とも言われます。子どもの努力はもちろんですが、親のサポート、そしてメンタルが安定していることも大切なのだとか。とはいえ、合格に向けてわが子を応援しているつもりが成績に一喜一憂して責めてしまったり、プレッシャーを与えてしまったり…という話もよく耳にします。

そんな身近な中学受験の苦悩を描いたのが、『合格にとらわれた私 母親たちの中学受験』。親子の葛藤とそれを乗り越えるまでを、保護者の視点からリアルに描写したセミフィクションです。自身の経験も反映しているという著者・とーやあきこさんに、作品についてインタビューしました。

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3家族のさまざまな感情がうず巻くストーリー


『合格にとらわれた私 母親たちの中学受験』より

主人公・真澄は、一人娘の綾佳が小学3年生のころ、中学受験に挑戦させることを決めました。最初はわが子を信じて応援していましたが、綾佳の成績が伸び悩むように…。小学4年生から通わせている中学受験用の塾でも、目指していたクラスに上がれないまま6年生になりました。

『合格にとらわれた私 母親たちの中学受験』より

かつて、自分が中学受験を諦めたというトラウマがある真澄。過去の自分と綾佳の姿を重ね、強くあたるようになってしまいます。

一方、綾佳と同じ塾に通い、一緒に中学受験に向かって頑張っているのが、天真爛漫なまりんと成績優秀な優也です。

『合格にとらわれた私 母親たちの中学受験』より

まりんの母・かなえは、常に明るく振る舞いながらも、自分たちを「下」にみている真澄にどこか不信感を抱きます。

『合格にとらわれた私 母親たちの中学受験』より

またクールでかっこいい優也の母・潤子も、実は学歴コンプレックスを抱えていて、高学歴の夫の意見に逆らえず…。

母親のトラウマやコンプレックスとの闘いにまで発展していく中学受験。その結末とは…?


真澄を通して、自分を振り返ることも


『合格にとらわれた私 母親たちの中学受験』より

――この『合格にとらわれた私 母親たちの中学受験』には、中学受験に挑む3家族が登場しますね。キャラクターの設定はどのように考えたのですか?

とーやあきこさん:明確なモデルはいませんが、自分自身を含め、色々な方の発言を細分化して組み合わせながら1人のキャラクターをつくっていきました。

うらやましくて、少しムカつくんだ

――三者三様の受験に対する思いや向き合い方があったように感じました。ご自身ともっとも似ていると思うキャラクターは誰ですか?

とーやあきこさん:自分の中に存在する「もっともイヤな自分」が、主人公の真澄とママ友のかなえに多く投影されている気がします。なので、2人には親近感があります(笑)。潤子は尊敬するママ友たちを集約したイメージなので、憧れをもって描いていました!

出勤時に偶然会った真澄と潤子


――作中のストーリーやセリフ、出来事などに、ご自身の体験も反映されているのでしょうか?

とーやあきこさん:中学受験ではないのですが、子どもがとある競技をしていたとき、色々な人から「結果を残すためには親が頑張らないといけない」とアドバイスされ、執拗に子どもに口出しをしていた時期があります。

また、結果がでないことが続いたときは、真澄と同じように「うまくいかないなら、もうやめちゃいなさい!」と言ってしまったことがありました。子どもが「やめたい」と言っていないにも関わらず…。この作品を描きながら、真澄を通して自分を見ているようで、綾佳に申し訳ない気持ちになっていました。

受験なんでやめちゃいなさい


――中学受験を諦めた自分と娘の綾佳を重ねて、真澄が思わず「やめちゃいなさい!」と言ってしまうシーンですね。でもその後、真澄は「自分は自分、綾佳は綾佳」であると気が付きます。とーやあきこさんご自身は、そのように気付いた体験があったのでしょうか。

とーやあきこさん:私の場合、「気がついた」というよりも、家族に「気がつかされた」というのが正しいかもしれません。あまりにもプレッシャーをかけすぎたのか、子どもに「放っておいて!」と怒鳴られました。旦那にも「自分の人生と子どもの人生は別物だから」と諭され…。そのときに「自分は自分。子どもは子ども」と考える必要性を強く感じました。


母親は子どもを通して評価されている?


SNSを見て落ち込む真澄

なんだか受験って…

――真澄が追い詰められたときに感じる、「なんだか受験って子どもというフィルター越しに『親の出来』を計られているみたい」という言葉が、とても印象的でした。

とーやあきこさん:これは私自身、よく感じていることですね。中学受験に限らず、「あの親の子どもだもんね」というセリフは保護者間で交わされることがあります。その言葉を聞くたび、「私は自分の子どもを通してどう評価されているのだろう?」と気になってしまって。中学受験は数字や合否というかたちで目に見えやすいので、特にそう感じることもあるのかなと取材を通して感じました。

――本作を描きながら、ご自身の体験を振り返ることもあったと思います。描く前と後で心境の変化はありましたか?

とーやあきこさん:作品を描くことが自分自身を客観的に見つめることにもつながり、色々と反省しました。とはいえ、人間ってそう簡単には変われず…。今でも、子どもにプレッシャーをかけるようなことを言ってしまいそうになります。そんなときは、「この作品を描いた意味がなくなるけどいいの!?」と自分に問いかけ、言葉を飲み込んでいます。

   *      *      *

中学受験でわが子に伴走していたはずが、嫉妬や焦り、苛立ちにとらわれてしまう母親たち。とーやあきこさんがご自身の体験を活かして描いているからこそ、多くの人に共感されているのですね。この作品は、子どもと自身を客観的な視点で見つめるきっかけになるかもしれません。

取材・文=松田支信

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